2025.6.19

国宝7軀が集結。奈良・興福寺北円堂の空間を再現する特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」が東京国立博物館で開催へ

奈良・興福寺の北西に位置する北円堂。その中心に安置された弥勒如来坐像をはじめとする国宝の仏像群が今秋、東京国立博物館に集結する。

運慶作 国宝 弥勒如来坐像(部分) 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵 すべて撮影=佐々木香輔
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 東京国立博物館 本館特別5室にて、特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」が開催される。会期は9月9日〜11月30日。

 本展は、通常は非公開である奈良・興福寺北円堂の鎌倉期の再建当時の空間を、約800年の時を経て東京で再現するもので、国宝指定を受ける仏像7軀を一堂に展示する稀有な機会となる。

国宝 興福寺北円堂 外観

 興福寺北円堂は、奈良時代の高官・藤原不比等の一周忌追善供養のため、元明・元正天皇の発願によって721年に建立されたと伝わる。平城京の造営を推進した不比等の霊を慰める場として、都を一望できる伽藍西北隅の一等地に建てられた。その後、幾度もの戦火や災害によって焼失し、現在の建物は鎌倉時代の1210年頃に再建されたもので、現存する興福寺堂宇のなかでは最古の建築である。建築様式は奈良時代の特徴を伝える和様建築の傑作であり、日本に現存する八角円堂の中でももっとも優美と賞賛されている。

国宝 興福寺北円堂 堂内

 本展では、北円堂の本尊である弥勒如来坐像と、両脇に控える無著・世親菩薩立像、さらに北円堂に安置されていた可能性の高い四天王像の計7軀の国宝仏を、ひとつの空間に再び集結。とくに弥勒如来坐像の寺外公開は約60年ぶりであり、修理後としては初の公開となる。

 弥勒如来坐像は、鎌倉復興後の北円堂本尊として造立された。写実的な表現を極めた運慶一門による傑作であり、堂々たる存在感と静けさを兼ね備えた姿は、鑑賞者に深い祈りの空間を想起させる。

運慶作 国宝 弥勒如来坐像 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵

 脇侍の無著菩薩立像は、老僧のリアルな姿で、法相宗の根幹となる唯識思想の担い手であるインドの僧を象徴的に表現している。深い精神性と写実力が融合した日本彫刻史上屈指の名品と評価されている。いっぽう、弟にあたる世親菩薩立像は、壮年の姿で未来を静かに見据える眼差しが特徴的であり、弥勒の来迎を待つ信仰心が体現されている。

運慶作 国宝 無著菩薩立像 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵
運慶作 国宝 世親菩薩立像 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵

 四天王像は現在中金堂に安置されているが、運慶一門によって北円堂再建時に造立された可能性が高いとされている。静的な弥勒如来や菩薩像とは対照的に、躍動感にあふれた造形が力強さと美を伝えており、展示空間ではその対比の妙が際立つだろう。

 通常は非公開である北円堂に安置された国宝仏を、まとまった形で目にできる機会は極めて限られている。運慶の到達点とされる彫刻表現を間近に体感し、日本仏教彫刻の真髄に触れるまたとない機会となる本展をぜひお見逃しなく。