2025.9.18

トレイシー・エミン、過去最大規模の個展「A Second Life」が来春テート・モダンで開催へ

テート・モダンで、イギリスの現代美術を代表するアーティスト、トレイシー・エミンの40年に及ぶ活動を総括する展覧会「Tracey Emin: A Second Life」が2026年2月から開催される。90点以上の作品を通じて、エミンの創作と人生をたどる。

トレイシー・エミン My Bed 1998 © Tracey Emin. Photo Courtesy The Saatchi Gallery, London / Photograph by Prudence Cuming Associates Ltd
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 テート・モダンが、イギリスの現代美術を代表するアーティスト、トレイシー・エミンの過去最大規模となる個展「Tracey Emin: A Second Life」を開催する。会期は2026年2月26日〜8月31日。

 本展はエミンの活動40年を総括する調査展であり、90点以上の作品を通じて、その表現の変遷と人生の節目をたどるものである。展覧会は、1990年代に注目を集めたインスタレーションから最新の絵画やブロンズ彫刻に至るまで、絵画、映像、テキスタイル、ネオン、彫刻、インスタレーションといった多様な媒体を網羅する。エミンが一貫して取り組んできたのは、自らの身体と感情を率直に表現することによって、愛や痛み、癒やしを共有する試みである。今回の展示は、作家本人との密接な協働によって構想され、人生の大きな出来事を軸に作品群を再構成している。

 エミンの故郷であるイギリス南東部マーゲイトは、作家活動の根幹に位置づけられてきた。母の死(2016年)やがん闘病(2020年)を経て、エミンは同地に定住し、無償のスタジオ型アートスクール「Tracey Emin Artist Residency」を設立した。本展では、マーゲイトでの記憶や体験に基づく作品も展示され、《Mad Tracey From Margate: Everybody’s Been There》(1997)や、《It’s Not the Way I Want to Die》(2005)がその代表例となる。

トレイシー・エミン Mad Tracey from Margate. Everyone’s been there 1997 © Tracey Emin

 エミンはまた、性暴力や中絶といった社会的に語られることの少ないテーマに正面から取り組んできた。《I could have Loved my Innocence》(2007)や《Is This a Joke》(2009)はその象徴であり、《How It Feels》(1996)では自身の中絶体験を率直に語っている。さらに今回初公開されるキルト作品《The Last of the Gold》(2002)は、「中絶のA to Z」を題材に、同様の経験を持つ女性たちへのアドバイスを刻んだものだ。

トレイシー・エミン The Last of the Gold 2002 © Tracey Emin

 展示の中心には、《Exorcism of the Last Painting I Ever Made》(1996)とターナー賞候補作《My Bed》(1998)が据えられる。前者は絵画からの断絶と再出発を記録し、後者はアルコール依存からの回復を示すインスタレーションである。これらは「第一の人生」から「第二の人生」への転換を象徴する作品として位置づけられる。

 近年の作品では、エミン自身のがん治療や手術、障害への向き合いが率直に表現される。ブロンズ彫刻《Ascension》(2024)は、膀胱がん手術後の身体感覚をテーマとし、新作ドキュメンタリー映像では現在も生活をともにするストーマが記録される。展覧会の終盤には、大型絵画群とともに、死と再生のモチーフを扱う《Death Mask》(2002)、屋外に設置されるブロンズ作品《I Followed You Until The End》(2023)が展示され、エミンの「第二の人生」における新たな創造の地平を示す。

トレイシー・エミン I followed you to the end 2024 Yale Centre for British Art © Tracey Emin

 エミンは「テート・モダンでの展示は人生の節目となる。『A Second Life』は、これまでを振り返り、未来へと進むための祝祭である」と語る。エミンが「生きること」を作品に転化してきた軌跡を明らかにする本展をぜひ会場で目撃してほしい。

トレイシー・エミン I whisper to My Past Do I have Another Choice 2010 © Tracey Emin
トレイシー・エミン No chance (WHAT A YEAR) 1999 © Tracey Emin