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2025.9.17

「ブルガリ カレイドス 色彩・文化・技巧」(国立新美術館)が開幕。ハイジュエリーとアートが出会う唯一無二の場に

東京・六本木の国立新美術館で、ブルガリにとって日本で史上最大の展覧会「ブルガリ カレイドス 色彩・文化・技巧」が開催を迎えた。会期は12月15日まで。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より
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 近年、相次ぐラグジュアリーブランドによる大型の展覧会。そのラインナップに、世界屈指のジュエリーブランド「ブルガリ」が加わった。国立新美術館で幕を開けたのが、ブルガリにとって日本における史上最大の展覧会「ブルガリ カレイドス 色彩・文化・技巧」だ。会期は12月15日まで。

 タイトルにある「カレイドス」はギリシャ語に由来し、「美しい(カロス)」「形態、種類(エイドス)」を意味する言葉。本展ではブルガリの「色彩」をテーマに、メゾンの歴史を刻む「ブルガリ・ヘリテージ・コレクション」と個人コレクションからの貴重なジュエリーの数々と、それに呼応するアートを一堂に紹介するものとなる。

 ブルガリ グループCEOのジャン-クリストフ・ババンは開幕にあたりこう語る。「東京はアジアの主要都市。国立新美術館は世界でも有数の美術館のひとつであり、ここで展覧会ができるのは何よりのほまれ。ブルガリが展覧会において『美しい色』をメインテーマにするのは初めてのこと。色彩はつねにインスピレーションであり、ブルガリのアートそのものだ」。

展示風景より

 展覧会成功の鍵を握る会場デザインは、妹島和世と西沢立衛による建築家ユニット「SANAA」と、イタリアのデザインユニット「フォルマファンタズマ」が協働。会場は古代ローマの皇帝カラカラが造営した浴場のモザイク画のパターンと東京都のシンボルツリーであるイチョウから着想を得た反復のパターンとなっており、そこにアルミ、アクリル、色のパネル用いることで、ジュエリーの輝きを増幅させている。会場に入ると、展覧会がどこまでも広がっていく感覚を抱くだろう。国立新美術館主任研究員・宮島綾子は、「来場者は空間の一部になり、ブルガリの芸術を体感してもらえるのではないか」と、この空間に自信を覗かせる。

展示風景より

 本展は3つの章で構成される。ブルガリ ヘリテージ キュレーター ディレクターのジスラン・オークレマンヌは「色彩は普遍的なコンセプトであり、我々の核にあるアイデンティティ。色彩について認識することを目的に、3つの章で構成した」と話す。

 第1章「色彩の科学」は、色彩の効果に科学的にアプローチし、厳選されたアイコニックなジュエリーを通して色彩の相互作用を明らかにするもの。

 まず注目したいのは、これまでイタリア国外では一度も展示されたことがないという、ゴールドとプラチナにダイヤモンドとシトリンをあしらった《ブレスレット》(1940頃)だ。宝石が放つ豊かなオレンジ色のスペクトルを通して、ローマの夕焼けの温かみのあるゴールドの色調を彷彿とさせる。

展示風景より、《ブレスレット》(1940頃)

 プラチナにカボションカットのサファイア、ルビー、ダイヤモンドをあしらった印象的な《バングル》(1954-55)は、ブルガリのシグネチャーである赤と青のコントラストが見事だ。

展示風景より、《バングル》(1954-55)

 1章と2章のあいだには、ララ・ファヴァレットによるインスタレーション《レベル5》がダイナミックに展示されている。本作は、回転する14色の巨大な洗車ブラシで構成。工業的な文脈から切り離された洗車ブラシが彫刻のような存在となり、加速と減速を繰り返しながら回転し、色彩のエネルギーを放つ。

展示風景より、ララ・ファヴァレット《レベル5》

 第2章「色彩の象徴性」では、色の文化的・象徴的な側面を深く掘り下げ、色彩の選択を通じてどのように意味や感情を伝えられるのかを考察する。

第2章展示風景より
第2章展示風景より

 とくに注目なのは、希少なジェイドのジュエリーや、プラチナにダイヤモンド、壮麗なエメラルドをあしらった伝説的な《ネックレス》(1961)だ。「セブン・ワンダーズ」と呼ばれるこの特別なジュエリーは、イタリアの女優、モニカ・ヴィッティやジーナ・ロロブリジーダといった著名人に愛用されてきた由来を持つ。

第2章展示風景より、《ネックレス》(1961)

 色彩と無限の展開を象徴する蛇を模した「セルペンティ」のブレスレットウォッチは、深いグリーンの展示室中央に、円を描くように展示された。

第2章展示風景より
第2章展示風景より、「セルペンティ」ブレスレットウォッチ

 またこの章では、森万里子の《Onogoro Stone Ⅲ》を見ることができる。本作は古事記におけるイザナギとイザナミの創造神話に着想を得たもの。宝玉で飾られた天沼矛から海に滴ったしずくが積もって生まれたというオノゴロ島を、現代的な素材によって再構築した。

第2章展示風景より、森万里子《Onogoro Stone Ⅲ》

 最後となる第3章「光のパワー」では、色を感知する際の光の役割に焦点を当て、とくにシルバーやゴールドといった反射する素材において光がどのように作用するか観察する。

第3章展示風景より
第3章展示風景より
第3章展示風景より

 スリートーンカラーのゴールドにシルクコードとダイヤモンドをあしらった《「セルペンティ」イブニングバッグ》(1978頃)は、ブルガリの「メローネ」バッグの成功を物語るバッグ。当時もっとも人気があり、多くの人々から買い求められたという。ホワイト、レッド、そしてイタリア語で「アクア・ディ・マーレ」と呼ばれる希少なブルーグリーンの色調がゴールドに織り交ぜられ、メゾンの卓越した金細工の技量を体現している。

第3章展示風景より、《「セルペンティ」イブニングバッグ》(1978頃)

 展示の最後は、中山晃子によるインスタレーション《Echo》と本展メインビジュアルにも使われている《コンバーチブル・ソートワール=ブレスレット》(1969頃)で締め括られる。

第3章展示風景より、中山晃子《Echo》と《コンバーチブル・ソートワール=ブレスレット》(1969頃)

 中山晃子の《Echo》は、シャーレの中で音の振動によって動く液滴が、流動的なフォルムを形成する様子を空間全体に投影する作品だ。

 いっぽう 《コンバーチブル・ソートワール=ブレスレット》はソートワールにもブレスレットにもなるジュエリーで、とりわけ多くの色石が用いられているマスターピース。イエローゴールドにアメシスト、ターコイズ、シトリン、ルビー、エメラルド、ダイヤモンドがあしらわれており、万華鏡のような色彩を見せる。本展に通底する、ブルガリの色彩とその物語の豊かさを体現している。

第3章展示風景より、《コンバーチブル・ソートワール=ブレスレット》(1969頃)

 卓越した技によって生み出されたブルガリのハイジュエリーの数々。その魅力をさらに引き出すSANAAの会場デザイン。そして、ブルガリの持つ色彩とコンセプトの面で呼応するアート。すべてが見事に調和した展覧会を、ここ東京で体験してほしい。なお本展は世界へと巡回する予定だ。