2026.7.2

ミレーの《落穂拾い》やゴッホ《星月夜》など約110点が集結。東京都美術館で「オルセー美術館所蔵 いまを生きる歓び」が開催へ

東京・上野の東京都美術館で「東京都美術館開館100周年記念 オルセー美術館所蔵 いまを生きる歓び」が開催される。会期は11月14日〜2027年3月29日。開館40周年を迎えるオルセー美術館との共同企画として、「いまを生きる歓び」をテーマに約110点を紹介する。

取材・文:王崇橋(編集部)

フィンセント・ファン・ゴッホ《星月夜》(1888) キャンバスに油彩 73.0×92.0cm オルセー美術館 © GrandPalaisRmn (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF
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 東京都美術館で、「東京都美術館開館100周年記念 オルセー美術館所蔵 いまを生きる歓び」が開催される。会期は11月14日〜2027年3月29日。

「いま」を見つめるオルセー美術館の名品約110点

 本展は、開館40周年を迎えるオルセー美術館と、開館100周年を迎える東京都美術館の節目を記念して企画された展覧会だ。オルセー美術館が所蔵する約10万点のコレクションから、「いまを生きる歓び」をテーマに厳選した絵画、彫刻、写真、工芸など約110点を紹介し、そのうち7割が日本初公開となる。ジャン=フランソワ・ミレークロード・モネ、ピエール=オーギュスト・ルノワール、フィンセント・ファン・ゴッホ、ポール・ゴーガンらによる代表作を通して、19世紀半ばから20世紀初頭にかけての芸術家たちが見つめた「いま」を描き出す。

 また、23年ぶりに来日するミレー《落穂拾い》(1857)、16年ぶりとなるゴッホ《星月夜》(1888)やゴーガン《アレアレア》(1892)など、オルセー美術館を代表する作品群が一堂に会するのも大きな見どころだ。

7月1日に行われた記者発表会の様子

 7月1日に行われた記者発表会では、本展を担当する東京都美術館学芸員の大橋菜都子が企画の背景を解説した。大橋は、本展を構想するにあたり「祝祭感」「オルセー美術館のコレクションを生かすこと」「気負わず楽しめる展覧会であること」という3つの柱に加え、「いま」という視点を強く意識したと説明する。「オルセー美術館のコレクションが扱う19世紀半ばから20世紀初頭は、芸術家たちが神話や歴史だけではなく、自分たちの身の回りの『いま』へと目を向け始めた時代でした。そこで今回は『生きる歓び』だけでなく、『いま』という言葉も加えることで、コレクションの特性をより生かした展覧会にしています」。

ギュスターヴ・カイユボット《床削り》(1875) キャンバスに油彩 102.0×147.0cm オルセー美術館 © GrandPalaisRmn (musée d'Orsay) / Franck Raux / distributed by AMF

 また、本展の企画が始まった2022年当時は、ロシアによるウクライナ侵攻や、新型コロナウイルス感染症から社会が徐々に日常を取り戻しつつある時期でもあったという。当時の状況を振り返りながら大橋は企画意図を次のように語った。「展覧会には社会課題への気づきや内省を促すものもありますが、今回は『いいものを見た』と感じてもらえる展覧会を目指しました。帰り道でふと目にした景色に目を留めるきっかけになるような、そんな展覧会になればと思っています」。

ダンスから始まる「歓び」の物語

 本展は5章にプロローグ・エピローグを加えた全7編で構成される。その幕開けを飾るのは「ダンス」をテーマとしたプロローグだ。古来、ダンスは祝祭や祈り、感謝、歓びを表現する手段であった。本展では絵画や写真、彫刻など多彩な作品を通して、その躍動感を体感できる構成となっている。「描かれている人物や物語を知らなくても、鮮やかな色彩や上昇する曲線、リズミカルな線や形だけでも心が弾むプロローグになると思います」と大橋は語った。

エドガー・ドガ《ル・ペルティエ通りのオペラ座の稽古場》(1872) キャンバスに油彩 32.7×46.3cm オルセー美術館 © GrandPalaisRmn (musée d'Orsay) / Tony Querrec / distributed by AMF

 第1章「自然の美を見出す」では、芸術家たちが身近な自然や風景に見出した歓びを紹介する。工業化と都市化が進むなか、自然はたんなる背景ではなく、芸術家たちが愛着や美しさを再発見する対象となった。

ジャン=フランソワ・ミレー《春》(1868-73頃) キャンバスに油彩 6.0×111.0cm オルセー美術館 © Musée d'Orsay, Dist. GrandPalaisRmn / Patrice Schmidt / distributed by AMF

 なかでもミレー《春》(1868-73頃)は、四季を描いた連作のひとつとして紹介される作品だ。暗い雲のかかる空に虹が架かり、地上には柔らかな光が降り注ぐ画面には、冬の終わりと春の訪れを告げるモティーフが随所に散りばめられている。

 第2章「よく食べ、よく働き、よく眠る」では、都市や農村で働き、支え合いながら暮らす人々の姿を描いた作品が並ぶ。なかでも教科書でも広く知られるミレー《落穂拾い》は、本展を象徴する代表作のひとつだ。

ジャン=フランソワ・ミレー《落穂拾い》(1857) キャンバスに油彩 83.5×110.0cm オルセー美術館 © Musée d'Orsay, Dist. GrandPalaisRmn / Patrice Schmidt / distributed by AMF

 この作品は、収穫後に畑へ残された穂を、土地を持たない貧しい農民が拾うことを許された「落穂拾い」という風習に着目する。3人の女性は、それぞれ異なる姿勢で穂を拾う姿が描かれ、腰を上げ下げする反復動作からは労働の過酷さもうかがえる。その背景には、刈り入れを終えた豊かな収穫や監督者の姿まで細かく描き込まれており、大規模農業経営の現実も映し出しているといえるだろう。

日常、娯楽、愛──人生を彩る様々な歓び

 第3章「日々を重ねる」では、普仏戦争やパリ・コミューンという激動の時代を経て、芸術家たちが穏やかな日常に再び目を向けた作品が紹介される。モネ《パリ、モントルグイユ通り、1878年6月30日の祝祭》(1878)には、万国博覧会の開催を祝う無数の人々と三色旗が街を埋め尽くす様子が描かれ、細かな筆触によって都市全体を包む祝祭の熱気が表現されている。いっぽう、ルノワール《読書する人》(1874-76頃)では、陽光のもとで静かに読書にふける女性の姿が描かれ、19世紀後半に市民生活へ浸透した読書文化を背景に、穏やかな時間の流れが映し出される。

クロード・モネ《パリ、モントルグイユ通り、1878年6月30日の祝祭》(1878) キャンバスに油彩 81.0×50.0cm オルセー美術館 © Musée d'Orsay, Dist. GrandPalaisRmn / Patrice Schmidt / distributed by AMF
オーギュスト・ルノワール《読書する人》(1874-76年頃) キャンバスに油彩 46.5×38.5cm オルセー美術館 © GrandPalaisRmn (musée d'Orsay) / Adrien Didierjean / distributed by AMF

 第4章では、サーカスや劇場、キャバレー、舞踏会など、人々が夜の時間を楽しんだ娯楽文化に焦点を当てる。なかでも印象的なのが、本展のメインビジュアルにも採用されたルイ・アンクタン《アンリ・サマリー》(1890頃)だ。描かれているのは、コメディ・フランセーズで人気を博した俳優アンリ・サマリー。大橋は、やや上がった口角とシルクハットによって生まれるユーモラスな表情や、影を排した平面的な画面構成に日本美術の影響が見られることを紹介した。

ルイ・アンクタン《アンリ・サマリー》(1890頃) キャンバスに油彩 71.0×59.3cm オルセー美術館 © Musée d'Orsay, Dist. GrandPalaisRmn / Patrice Schmidt / distributed by AMF

 第5章では、人生における様々な「愛」のかたちに光を当てる。親子や家族、友人、恋人との関係など、人と人とのつながりを描いた作品を通して、日々の暮らしを支える感情の豊かさを見つめ直す構成となっている。特別な出来事ではなく、ごく身近な他者との時間こそが「いまを生きる歓び」を支えていることを、19世紀の芸術家たちは静かに描き出している。

フィンセント・ファン・ゴッホ《星月夜》(1888) キャンバスに油彩 73.0×92.0cm オルセー美術館 © GrandPalaisRmn (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

 そして展覧会の最後を飾るエピローグには、フィンセント・ファン・ゴッホ《星月夜》が展示される。本作は16年ぶりの来日となる本展屈指の見どころのひとつだ。1888年、南仏アルルへ移ったゴッホは夜の風景に魅了され、本作ではローヌ川に映る街の灯や満天の星空を、鮮やかな色彩と力強い筆致で描き出した。実景をそのまま再現したものではないが、ゴッホ自身が弟テオに「夜は昼間よりも色彩が豊かだ」と書き送ったように、現実を超えて輝く夜の世界が表現されている。

 大橋は、本展を「帰り道でふと目にした景色に目を留めるきっかけになるような展覧会」と位置づける。オルセー美術館の約110点の作品が織りなす「いまを生きる歓び」は、19世紀の芸術家たちのまなざしをたどると同時に、現代を生きる私たち自身の日常を見つめ直す機会にもなるだろう。