2026.1.26

愛知県が進める全国初の美術品等共同収蔵庫構想。収蔵庫不足にどう向き合うのか

愛知県は、愛知県美術館、愛知県陶磁美術館、愛知県立芸術大学の3施設が共同で利用する「美術品等共同収蔵庫」の整備計画を公表した。

「美術品等共同収蔵庫」の外観イメージ 出典=愛知県ウェブサイト

 愛知県が、愛知県美術館・愛知県陶磁美術館・愛知県立芸術大学の3施設が共同で利用する「美術品等共同収蔵庫」の整備を進める。収蔵庫不足が全国的な課題となるなか、県は2030年度の完成を目標に、複数施設の収蔵機能を束ねる全国初の共同収蔵施設を計画。たんなる保管拠点にとどまらず、保存や修復活動の一部を公開することで、美術館活動の裏側を学べる教育普及機能も担う「美術館のバックアップセンター」を掲げる。

ひっ迫する3施設の収蔵環境──「保存」が揺らぐリスク

 計画の出発点は、県立3施設の収蔵スペースが限界を迎えていることにある。基本計画によれば、3施設はいずれも築30年以上が経過し、改修工事は行われてきたものの収蔵庫の増床は実現していない。収蔵容量が限界に近づけば、作品を適切な環境で保管できなくなり、破損やカビの発生リスクが高まる。美術館活動の根幹である収集・保存に支障が生じかねないとして、県は「早急に収蔵スペースを確保する必要がある」としている。

 基本計画は、3施設の現状も具体的に示す。収蔵庫面積は愛知県美術館が1823平米、愛知県陶磁美術館が1946平米、愛知県立芸術大学が536平米。所蔵品数はそれぞれ約9100件、約8800件、約1900件で、増加ペースは美術館が年約120件、陶磁美術館が年約170件、芸術大学が年約10件とされる。現代美術で大型作品が増えるなど、今後各館の既存収蔵庫では保存が難しい作品も想定されるという。

 計画地は常滑市にある旧愛知県立常滑高校跡地だ。県立3施設からはおおむね30〜40キロ圏で、交通アクセスも考慮した立地だ。近年、美術館・博物館が津波や豪雨等で浸水被害を受けていることにも触れ、候補地選定では防災能力も重視したとしている。

 窯業画地の半径1キロ圏内には「INAXライブミュージアム」や「とこなめ陶の森」があり、陶芸研究所本館(堀口捨己設計、登録有形文化財)といった建築・文化資産がある。こうした周辺環境の良さも計画では強調されている。さらに、半径約4キロ圏内には中部国際空港セントレアと愛知県国際展示場(Aichi Sky Expo)が立地し、観光・交流の導線も見据える。整備計画地は常滑市都市計画マスタープラン上「観光交流拠点」に位置づけられ、共同収蔵庫の整備は、将来都市構造の実現に寄与するものだという。

 敷地面積は約5万9000平米、延床面積は8000平米程度。今後40年にわたり安全かつ安定した状態で作品を保存・継承するために必要な収蔵面積を確保する。また共同収蔵庫の一部に民間事業者等が利用できる機能を付与。美術館リソースをシェアし、県立美術館の収蔵環境を活用した収益事業等を実施することも想定されている。 

 共同収蔵庫が掲げるコンセプトは、「美術館や県民の財産を『まもる』」「地域や住民に『ひらく』」「各本館や周辺施設と『つながる』」の3つ。スケールメリットを生かしつつ、通常はバックヤードに置かれ、一般来館者が目にする機会の少ない「保存」そのものを、作品に影響を与えない範囲で一部公開し、教育普及につなげる構想が核にある。

 管理運営面では、作品保存は引き続き各施設の学芸員が担う。なお、愛知県美術館と愛知県陶磁美術館の収蔵品については、26年4月に設立予定の地方独立行政法人「愛知県美術館機構」が所管し、愛知県立芸術大学の収蔵品は愛知県公立大学法人が所管する見込みだという。

 収蔵スペース不足への対策は裏方のインフラ整備ともいえる。しかし本計画は、保存環境の確保と同時に、その営みを可視化し、地域の文化資源と接続することで「美術館のバックアップセンター」を名乗る点に踏み込んでいる。常滑という土地性、民間活力の導入、そして公開性を帯びた収蔵庫という設計思想が、愛知のコレクションを守るだけでなく、県民に開き、施設間・地域とつながる拠点へと結実するか。国内の多くの公立美術館で収蔵庫がひっ迫するなか、今回の試みは新たな時代の模範となりうる可能性を秘めている。