揺れる国際情勢下、2025年北京アートウィークが映し出す市場のリアル
関税摩擦、経済減速、地政学的緊張──不確実性が渦巻くいま、中国のアートマーケットはどこに向かうのか。5月下旬、北京では複数の大型アートイベントが同時開催された。フェアの現場とギャラリストたちの声から、アートを取り巻く構造変化と、そのなかでも生まれつつある新たな連携の兆しを読み解く。

今年4月、米中間で新たな関税措置が発動された。一時的に最大145パーセントにも及ぶ報復関税の応酬は、両国間の貿易をほぼ停止状態に追い込み、美術作品の輸送も例外ではなかった。
こうした混乱のさなか、アート・バーゼルとUBSが2024年の世界美術市場レポート「The Art Basel and UBS Global Art Market Report」を発表。中国のアートマーケットが前年比で31パーセント減少し、2009年以来最低の水準に落ち込んだことが明らかになった。
国際情勢の不安定さが高まるなか、5月下旬の北京では、米中関税戦争以降、中国本土で初となる大規模なアートイベント──「北京当代(Beijing Dangdai)」「ART021 Beijing」、そして「Gallery Weekend Beijing」──が同時期に開催された。経済の減速や地政学的リスクが重なるなか、中国のアートマーケットはいまどこに向かっているのか。現地での取材とギャラリストへのインタビューを通して、今年の北京アートウィークの実像に迫る。
慎重な熱気に包まれた「北京当代」
5月22日から25日まで、全国農業展覧館11号館で開催されたアートフェア「北京当代」には、120を超えるギャラリーや文化機関が集まり、約2万平米の会場を彩った。今年のテーマは「CONCAVE-CONVEX(凹凸)」。中国各地はもちろん、12ヶ国・32都市から出展者が集い、絵画、彫刻、映像、新メディア、デザインなど、多様な表現を紹介した。

北京とロンドンを拠点とするHdM Galleryは、中国人アーティストと海外アーティストの作品をバランスよく構成し、来場者から好意的な反応を得ていた。ギャラリー創設者のハドリアン・ド・モンフェランによれば、パンデミック直後は色彩が鮮やかでわかりやすい作品が人気を集めていたが、近年は再び、精神性の高い作品や個人的な物語性を持つ表現に注目が集まっているという。
同ギャラリーが798芸術区で開催中の、趙銀鷗(ザオ・インオウ)による個展も話題を呼んでいる。派手な色彩や装飾的モチーフに頼らず、作家自身の個人史を内省的に描く作品群が共感を呼び、販売も順調に進んでいるという。
