2025.9.26

「ART FAIR ASIA FUKUOKA 2025」開幕レポート。10年続くアートフェアの舞台裏とは?

アジアをコンセプトとしたアートフェア「ART FAIR ASIA FUKUOKA 2025」が今年も3日間の会期をスタートさせた。このアートフェアが10年継続できた理由とは何か。会場の様子とともにお届けする。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

「ART FAIR ASIA FUKUOKA 2025」会場の様子
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 アジアをコンセプトとしたアートフェア「ART FAIR ASIA FUKUOKA」(AFAF)。今年10回目となる「ART FAIR ASIA FUKUOKA 2025」がマリンメッセ福岡B館にて3日間の会期をスタートさせた。

「ART FAIR ASIA FUKUOKA 2025」会場の様子

 今年も保税展示場の許可を受けて開催される同フェアでは、海外出展者が輸入税等を留保された状態で作品を展示することが可能。この制度を活用する国内外のアートフェアやギャラリーはいくつか存在するが、4年連続保税展示場制度を活用するアートフェアはAFAFのみだという。海外出展者が安心して作品を持ち込み展示できる環境を整備するためには、このような施策の継続が重要となってくる。

「ART FAIR ASIA FUKUOKA 2025」会場の様子

 同フェアには今年も100を超えるギャラリーが出展。今年は「Galleries」「Collaboration」「Partner」「AFAF Special Booth」のほか、「Masters」「First Collections」「Leading ASIA」「Feature」といった、ブースごとの多様なプレゼンテーションが光る。さらに、大型インスタレーションを展示する「Infinity」や、ライブパフォーマンスを行う「Moment」といった、新たな試みも見どころと言えるだろう。

 国内外の83ギャラリーが集う「Galleries」には、小山登美夫ギャラリーみぞえ画廊ミヅマアートギャラリー√K Contemporary東京画廊+BTAPなどといった東京を拠点とするギャラリーが大部分を占めており、そのほか福岡をはじめ、京都、名古屋を拠点とするギャラリーが出展している。海外ギャラリーは全体のうち9ギャラリーとなった。

ギャラリーモリタ+画廊香月(福岡 / 東京)。ギャラリーモリタのオーナー・森田俊一郎はAFAF創設者のひとりであり、第1回より出展を続けている
みぞえ画廊(東京 / 福岡)がフォーカスするのは、八頭司昂、柴田七美、豊福知徳、小松孝英、野見山暁治、弓手研平ら
小山登美夫ギャラリー(東京)は「風景画」をテーマに、サム・フォールズ、シュシ・スライマン、古橋義朗、風能奈々、中園孔二​、須藤由希子、名知聡子らをピックアップ
JILL D’ART GALLERY(名古屋)は、同ギャラリーが今年度とくに注目しているという野村仁衣那、新埜康平の二人展を実施
Gallery CONTAINER(岩田屋本店、福岡)は彫刻家・牧野永美子による作品を紹介
sponge(福岡)は、福岡市の画家・田中千智をフューチャー。田中による壁画作品《生きている壁画》は、2025年末まで福岡市美術館にて展示されている

 企業・学校による「Collaboration」にも注目したい。福岡県によるレジデンスプログラムや九州産業大学芸術表現学科など、地域に根ざすアーティストらによる作品も各ブースにずらりと並ぶほか、一般財団法人九州美術振興財団は、戦後福岡で誕生した前衛芸術集団「九州派」を取り上げ、同団体解散後の動向に光を当てている。キュレーターには山口洋三、山本浩貴らが名を連ねる。

「Collaboration」ブースより、「持続するスピリッツ」。「九州派」は、2015年に初開催されたAFAFでも再評価の流れを受けて特集されていた。

 会場入り口付近では、「アジア」「福岡」にゆかりある著名なアーティストを取り上げる「Future」ブースが存在感を放っている。今年の“AFAFの顔”となったのは、自身のルーツであるアカ族をテーマに絵画制作を行う、タイ・チェンライ在住のブスイ・アジョウ。そして、福岡県出身で八女市を拠点に活動を続ける牛島智子だ。

「Future」ブース

 その隣に位置するのは、世界的なアートコレクターとして知られる宮津大輔がアジアの現代アートシーンを牽引するアーティストたちを紹介する「Leading Asia」のブースだ。今年は「Soaring!(飛翔)」をテーマに、アジア各所で活躍する5名のアーティストの作品が紹介されている。

「Leading Asia」ブース

 昨年度より始まった「Masters」と「First Collection」の2ブースは、アートに初めて触れる人にも楽しんでほしいという同フェアの姿勢を端的に示している。美術館さながらに巨匠の作品が並ぶ「Masters」ブースには、昨年同フェア最高史上額である14億円で出品されたアンリ・マティスに引き続き、今年は同額の14億円でパブロ・ピカソ《Tête de femme(女性の頭)》が、そして1320万円のアンディ・ウォーホル《chicken ’n dumplings》が目玉作品としてお披露目された。ほかにも、1760万円の奈良美智《After the Acid Rain》、1232万円の草間彌生《七色の富士ー永遠に輝く我が命、この人間愛は何億光年も滅びる事はない》、1100万円の黒田清輝《春》、1980万円の千住博《水路》などがラインナップされている。ただ、名だたるアーティスト17名の作品が一堂に会しているにしては、ややスペースが手狭に感じられるのがもったいないところだ。

「Masters」ブース
「Masters」ブース

 隣のブース「First Collection」は、注目の若手アーティストらによる作品を10万円以内の価格で販売。アート作品のコレクションに関心を持つ、ビギナー向けのラインナップと価格設定が魅力のひとつだ。

「First Collection」ブース

 ほかにも「Special Booth」では、福岡産の八女茶を使用したお茶とアートのキュレーテッド・スペース「SOLACHA(宙茶)」が異彩を放っていた。このユニークな体験は他のアートフェアでは味わえない(事前予約制)。

「AFAF Special Booth」より。緑川雄太郎が来場者にお茶を振る舞う

 大型インスタレーションを展示する「Infinity」や、ライブパフォーマンスを行う「Moment」も多くの来場者の目を引いていた。作品によっては販売もされており、購入する作品の制作過程を見ることができるというのも新たな試みと言える。フェアの雰囲気にどのように影響してくるのかが今後の見どころだ。

「Moment」ブースより
「Infinity」ブースより

 次世代を担うアーティストの発掘と支援を目的とした公募展「AFAF AWARD powered by E.SUN BANK」も玉山銀行(E.SUN BANK)協賛のもと実施。「AFAF AWARD」と「AFAF AWARD 登竜門」の2部門が設けられている。今回は800人以上の応募者のなかから選ばれた26名のアーティストによる作品が会場の1、2階に展示されている。

「AFAF AWARD」ブース

 現在、世界には300以上のアートフェアがあり、毎日どこかで開催されているような状況だ。とはいえ、これらを継続していくのでは容易ではなく、3年以内に無くなってしまうものも多いそうだ。そのような状況でAFAFが10年目を迎えることができたのには「独自の魅力を持つこと」「変化を恐れないこと」が重要であると、同フェアのスペシャルアドバイザーでもある宮津は語る。

 10回目の開催を迎え、より多彩なアプローチで独自の存在感を放つAFAF。来場者も年々増加傾向にあるようだ。「規模やアプローチの幅に広がりがある」「福岡市として力を入れているように感じる」といった意見が複数のギャラリーより挙がったものの、小山登美夫ギャラリーからは「韓国・台湾からの出展ギャラリーをもっと増やしたほうが“アート・フェア・アジア”としての幅がより広がっていくのではないか」という意見もあった。福岡という土地の魅力をアートフェアに織り交ぜ、中規模ながらも独自のアプローチを続けるAFAFに今後も期待が高まるばかりだ。

「10th Editon」ブース