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2025.9.27

ピカソのアジア記録が更新。クリスティーズ香港イブニングセールが約109億円の売上を達成

クリスティーズが9月26日、「20・21世紀美術イブニングセール」を開催し、総額5億6564万9000香港ドル(約109億円)の売上を記録した。38点の出品作品のうち35点が落札され、ピカソの《Buste de femme》は約37.8億円で競り落とされアジアにおけるピカソ作品の最高落札額記録を更新した。

文=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

9月26日に開催された「20・21世紀美術イブニングセール」の様子 Courtesy of Christie's
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 クリスティーズが香港のザ・ヘンダーソンへの拠点移転1周年を迎えた9月26日、「20・21世紀美術イブニングセール」が開催され、総額5億6564万9000香港ドル(約7303万米ドル/約109億円)の売上を記録した。38点の出品作品のうち35点が落札され、ハンマープライスの合計は最低予想落札価格の116パーセントを上回る結果となった。

 本セールの白眉となったのは、パブロ・ピカソ《Buste de femme》の落札である。約15分に及ぶ白熱した電話入札の末、予想落札価格8600万〜1億600万香港ドルに対してハンマープライス1億6700万香港ドル/手数料込み1億9675万香港ドル(約37億8000万円)で落札され、アジアにおけるピカソ作品の最高落札額記録を更新した。本作はナチス占領下のパリ末期である1944年に制作されたもので、ピカソのミューズであったドラ・マールを描いた肖像のなかでも、近年市場に現れた作品のなかで最大級のサイズと完成度を誇る一点だ。前回オークションに登場したのは25年以上前であり、久々の市場登場が世界中の注目を集めた。

パブロ・ピカソ Buste de femme 1944

 同作について、クリスティーズ アジア太平洋地域20・21世紀美術部門イブニングセール責任者のエイダ・ツイは「この結果は私たちの予想を超えるものでした。コレクターは真の傑作を求め、価格に関わらず競り合っていた。3倍の入札単位で競争が起こる場面もあった」とコメントしている。また、この落札結果はピカソ作品としての記録にとどまらず、クリスティーズが今年世界各地で開催した20・21世紀美術セールのなかでも6番目に高額な落札例ともなった。

 本セールでは、ザオ・ウーキーの《17.3.63》が最低予想落札価格7000万香港ドルで落札され、手数料込みで8520万香港ドル(約16億3700万円)となった。本作はザオが国際的な評価を確立し始めた1960年代初頭に制作されたもので、65年にはドイツ・エッセンのフォルクヴァング美術館で開催された初の回顧展にも出品された。1960年代に制作された赤を主調とする大作はわずか19点しか現存せず、そのうちオークションに出ていないのは本作を含めて8点のみという希少性の高い一作である。

ザオ・ウーキー 17.3.63 1963

 この結果により、今年アジアで落札された作品のうちもっとも高額なトップ3すべてをクリスティーズが手がけたことになる。3月のイブニングセールで1億1262万香港ドルで落札されたジャン=ミシェル・バスキアの作品とあわせ、アジア市場における同社の存在感を改めて印象づける結果となった。

 本セールでは印象派から現代美術まで、幅広い時代とスタイルの作品が出品され、市場の多様な関心を反映するラインナップとなった。クロード・モネがジヴェルニーに移り住んで2年後の1885年に描いた《Printemps à Giverny, effet d’après-midi》は、春のジヴェルニーの詩情を瑞々しい筆致で描き出す作品であり、3000万香港ドル/手数料込み3710万香港ドル(約7億1300万円)で落札された。本作は2019年に313.5万ポンドで取引されて以来、5年ぶりの市場登場となった。

クロード・モネ Printemps à Giverny, effet d’après-midi 1885

 草間彌生の絵画《PUMPKIN [TWAQN]》は、本セールで市場初登場となった作品で、過去5年間にオークションに出品されたなかで最大サイズの「複数の南瓜」を描いた作品でもある。シンガポール国立美術館やブリスベンのクイーンズランド美術館・現代美術館での回顧展にも出品されており、2800万香港ドル/手数料込み3466万香港ドル(約6億6600万円)で落札された。さらに、草間の彫刻作品《Reach Up to the Universe, Dotted Pumpkin (Vermilion)》は600万香港ドルから入札が始まり、950万香港ドル/手数料込み1206万香港ドル(約2億3200万円)で落札されている。

草間彌生 PUMPKIN [TWAQN] 2015

 ピカソが晩年に妻ジャクリーヌ・ロックを描いた《Nu assis appuyé sur des coussins》も2600万香港ドル/手数料込み3222万香港ドル(約6億1900万円)で落札された。2019年にニューヨークで253.5万米ドルで取引された作品であり、ピカソ晩年の成熟した筆致が見て取れる一作だ。

 現代美術の分野では、村上隆の《The Double Helix, Reversal》が700万香港ドル/手数料込み889万香港ドル(約1億7100万円)で落札され、Mr.の《Untitled》が480万香港ドル/手数料込み609万香港ドル(約1億1700万円)で落札された。

村上隆 The Double Helix, Reversal 2001

 今回の総額は、昨年のザ・ヘンダーソンでの記念的な初セールと比較すると下回っているものの、クリスティーズのCEOボニー・ブレナンは市場全体の健全性を強調する。「ここ数年、最大の課題は供給の確保でした。今年上半期のクリスティーズのグローバル売上は21億米ドルで前年と同水準です。市場の減速を指摘する声もありますが、私たちは非常に安定した段階に入ったと考えています。質の高い作品を提供できれば、需要は確実に存在します」と述べた。

 また、ライブオークションだけでなく、オンラインセールやプライベートセールなど顧客との接点を多様化させている点も指摘し、「単発のセール結果だけではなく、年間を通じたグローバルな数字を包括的に見てほしい」と語った。

 クリスティーズは10月にロンドン、11月にニューヨークでも貴重な作品が集まる20・21世紀美術イブニングセールを予定している。変化の激しい市場環境のなかで、香港での今季初のイブニングセールは、アジア市場におけるクリスティーズの存在感を改めて示す結果となった。適切な価格設定で質の高い作品が出品されれば、需要は揺るがないという確信とともに、秋のセールシーズンは幸先の良いスタートを切ったといえる。