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2024.12.9

リュック・タイマンスが描き出す「時間の風景」。中国初の回顧展「The Past」がUCCAで開催中

ベルギーを代表する現代アーティスト、リュック・タイマンスの回顧展「The Past」が、北京の現代美術館「UCCA現代アートセンター」で開催中。87点の作品を通じて、タイマンスの絵画が持つ時間と記憶の奥深さに迫る貴重な機会だ。

文=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より Photograph by Sun Shi, courtesy UCCA Center for Contemporary Art
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 北京の現代美術館「UCCA現代アートセンター」で、ベルギー人アーティスト、リュック・タイマンスの回顧展「The Past」が開催されている。会期は2025年2月16日まで。

 本展は、UCCAの客員キュレーターであるピーター・イリーがタイマンス本人と密接に協力して企画したもので、タイマンスにとって中国における初めての本格的な個展だ。1975年から2023年までに制作された87点の作品を展示し、その絵画表現の独自性と歴史への繊細でときに不気味なアプローチを深く探求するものになっている。

展示風景より、《Turtle》(2007) Photograph by Sun Shi, courtesy UCCA Center for Contemporary Art

 タイマンスは、絵画の分野で独自の地位を築いてきたアーティストであり、その作品は中国とも深い関係を持つ。UCCA館長のフィリップ・ティナリは、次のように述べている。「タイマンスは中国にとっても非常に重要なアーティストだと思う。とくに2000年代以降、多くの中国の画家が過去の象徴的または直線的なコンセプチュアルアプローチから離れ、新たな絵画表現を模索するなかで、タイマンスの作品が重要な参考となった」。

展示風景より Photograph by Sun Shi, courtesy UCCA Center for Contemporary Art

 タイマンスの作品は、日常的な物体から大きな歴史的出来事に至るまで、様々な主題を取り扱う。その特徴的な「写真のような」色褪せたスタイルは、観客を引き込む魅力的な表面をもちながら、その背後にはつねにストーリーや選択、編集のプロセスが存在している点も特徴だ。

 また、タイマンス自身も中国への強い関心を持ち続けてきた。2007年には北京の故宮博物院で開催された展覧会「The Forbidden Empire」をキュレーションし、09年にはベルギーと中国のアーティストによる展覧会「The State of Things」を企画している。本展は2008年に構想が始まったが、約16年の年月を経てようやく開催が実現できた。その意味で本展は、中国の伝統と現代、東洋と西洋の文化的な対話など、タイマンスの関心の集大成とも言える。

展示風景より Photograph by Sun Shi, courtesy UCCA Center for Contemporary Art

 展覧会は概ね年代順に構成されており、展示作品は、MoMAやテート、フィラデルフィア美術館など世界中の15の美術館・機関と41の個人コレクションから集まっている。ティナリ館長は、「このような展覧会を実現するのは、美術館にとってもっとも困難なことだ。一つひとつの絵画が非常に特別なものであり、それぞれに大きな価値がある」と話している。

 例えば、タイマンスが2003年に初めて中国を訪れた後に制作した《Morning Sun》は、当時の上海の浦東新区にある象徴的な東方明珠塔を中心に描いた作品で、その背景には中国の急速な経済成長と都市化の象徴が表現されている。タイトルが示す通り、中国が世界貿易機関(WTO)に加盟し、経済的に台頭し始めた2000年代初頭の希望に満ちた雰囲気を反映した作品だ。

展示風景より、《Morning Sun》(2003) Photograph by Sun Shi, courtesy UCCA Center for Contemporary Art

 その約15年後、タイマンスは香港での展覧会のために《Shenzhen》(2019)という絵画を制作。この作品は、タイマンスがYouTubeで見た中国・深センの動画をもとに制作された作品で、技術革新と未来志向を象徴する風景が描かれている。作品には動画の「再生」「巻き戻し」「早送り」のアイコンがそのまま残されており、デジタル時代のイメージのとらえ方に対するタイマンスの批評的視点が表れている。

展示風景より、左は《Shenzhen》(2019) Photograph by Sun Shi, courtesy UCCA Center for Contemporary Art

 本展キュレーターのイリーは、これらの作品を通じてタイマンスは「近代中国史のふたつの異なる瞬間を結びつけている」としつつ、「タイマンスの作品は、制作された時代だけでなく、将来どのように受け取られるかという時間軸も内包している」と指摘している。その作品は、一種の時間のコラージュのようなものであり、異なる時間の層を記録する媒体として機能し、観客に歴史や記憶について再考する機会を与えると言える。

展示風景より、《Rearview Mirror》(1986) Photograph by Sun Shi, courtesy UCCA Center for Contemporary Art

 さらに、イリーは本展においてとくに注目すべき作品として《Rearview Mirror》(1986)を挙げている。この作品は、車のバックミラーを描いたものであり、本展のタイトル「The Past」を詩的に象徴している。バックミラーに映る風景は過ぎ去った過去であり、車が進む未来へと続くクリーム色の空間が広がっている。この絵画は、動く映像の一瞬を静止させたような作品であり、タイマンスの時間に対する鋭い洞察を示している。

 本展の構成についてタイマンスは、「制作プロセスや思考の進化、絵画技法の変化を包括的に理解できるような構成にした。他の展覧会とは異なり、すべてがひとつの空間に収められている点も特徴的だ。そのため、鑑賞者はつねに展示全体を振り返りながら鑑賞することができる」と話している。北京に行く機会があれば、時間と記憶の複雑な層を持ち、歴史と現在、そして未来をつなぐタイマンスの絵画を、ぜひその目で確かめてほしい。

展示風景より Photograph by Sun Shi, courtesy UCCA Center for Contemporary Art