2025.4.12

「PARALLEL MODE オディロン・ルドン ―光の夢、影の輝き」(パナソニック汐留美術館)開幕レポート

近代美術の巨匠、オディロン・ルドンの豊穣な画業をたどる展覧会「PARALLEL MODE オディロン・ルドン ―光の夢、影の輝き」が、パナソニック汐留美術館でスタートした。本展の見どころをレポートする。

文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より
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 パナソニック汐留美術館で「PARALLEL MODE:オディロン・ルドン ―光の夢、影の輝き」が開幕した。会期は6月22日まで。

 本展は、昨年岐阜県美術館での開催(2024年9月27日〜12月8日)に続き、ひろしま美術館(1月11日 ~ 3月23日)を経て、最終的に同館へと巡回したもの。世界有数のルドン作品を収蔵している岐阜県美術館から出品される約80点の作品に加え、国内の美術館や個人に所蔵される優品、さらにパリのオルセー美術館所蔵の油彩画と木炭画など、約110点の作品によりルドンの豊穣な画業の全容を紹介する内容となっている。

 会場はプロローグと3章で構成。展覧会の監修は、19世紀フランス美術史を専門とし、ルドンに関する著作や論考を多く発表している高橋明也(美術史家/東京都美術館館長)で、担当学芸員は萩原敦子。

展示風景より

 ルドンの名前が日本で初めて紹介されたのは、1912年に洋画家の石井柏亭が『早稲田文學』に掲載した評論がきっかけであった。それ以来、ルドンの作品は日本の美術雑誌や書籍で定期的に紹介され、多くの美術愛好家や芸術家たちを魅了してきた。

 ルドンの影響を受け、竹内栖鳳や岡鹿之助などの日本画家、洋画家がその作品を所有するようになり、プロローグ「日本とルドン」では、こうした日本人画家が所蔵していたルドンの作品を紹介し、ルドンの日本における受容の歴史をたどる。

 第1章「画家の誕生と形成 1840-1884」では、ルドンの形成期にあたる作品群を展示し、彼がどのようにして独自の世界観を築いたのかを探る。

 ルドンはボルドーで水彩画家スタニスラス・ゴランに素描を学び、1864年にはパリに移住し、ジャン=レオン・ジェロームの画塾でさらに技術を磨いた。その後、版画家ロドルフ・ブレスダンに銅版画を学び、ボルドーの植物学者アルマン・クラヴォーとの出会いが彼の芸術に大きな影響を与えた。クラヴォーを通して、ルドンは自然科学や文学、哲学に触れ、後の芸術表現の素地を築いていった。

 この章では、オルセー美術館が所蔵している、ルドンが27歳のときに描いた自画像をはじめ、郷里を描いた風景画、木炭画、初期の石版画集などの作品が展覧されている。

第1章の展示風景より

 ルドンは1880年代後半から、木炭画や石版画で描かれた「黒」のイメージを世紀末のデカダンスの象徴として多くの文学者たちに注目されるようになる。作家ジョリス=カルル・ユイスマンスがルドンの芸術を紹介したことで、彼の作品はフランス、ベルギー、オランダの文学者たちを中心に広まり、次第に新たな人脈が形成されていった。

 1890年代には、ナビ派の画家たちとの交流を深め、若い芸術家たちからは新しい芸術への先導者として慕われるようになる。ルドンの作品のテーマは、闇の世界から神秘的な光の世界へと移行し、彼の黒色の使い方は光そのものを表現する方法へと進化した。第2章「忍び寄る世紀末:発表の場の広がり、別れと出会い 1885-1895」では、色彩への志向が芽生え、ルドンが光を表現するための技法への探求をたどることができる。

第2章の展示風景より

 第3章「Modernist/Contemporarian・ルドン 新時代の幕開け 1896-1916」では、「黒」の時代最後の作品から、晩年の色彩の輝きに満ちたパステル画、油彩画を楽しむことができる。

第3章の展示風景より

 1896年にパリに戻ったルドンは、新しい環境での制作を開始し、ナビ派の装飾的な絵画にも取り組みながら、神秘的なテーマに加えて神話や宗教、人物画なども手掛けた。とくに晩年のルドンの代表作である「花瓶の花」は、彼の芸術の集大成とも言える作品となった。技法においても、パステルの重ね塗りや油絵具の使用により、光の表現に新たな次元を加えた。

「花瓶の花」の特集展示コーナー

 この章では、「花瓶の花」の特集展示コーナーや、ルドンの晩年の主要な画題のひとつである「ステンドグラス」を描いた作品であり、東京で初公開された岐阜県美術館所蔵の《窓》(1906頃)などが紹介されており、ルドンの技法の進化やその芸術における新たな表現への探求が感じられる。

展示風景より、右は《窓》(1906頃)

 前述の高橋は、「ルドンの白黒作品が非常に多くの人々に愛されてきたが、今回の展覧会での大きなポイントのひとつは、前半の『黒』の世界から、後半では非常に明るく、色彩に満ちた光の世界に移行していく展開が、非常にロマンチックで、心に染み入るような感覚を与えることだ」と話している。

 また、萩原学芸員も「これらの作品を通じて、従来のルドンの愛好者の方から、初めてルドンを知る方まで、ルドンの作品とその芸術の深さに触れることができる内容となっている」と述べている。

 さらに、展覧会の最後には、同館のルオー・ギャラリーで「ルオーとルドン」をテーマにした小企画展も開催されている。20世紀初頭の芸術家たちの共通する芸術的関心にも光を当てることで、ルオーの作品にあるルドン芸術につながる水脈を探る。光と影を駆使し、夢幻的で神秘的な世界を描き出したルドン。その芸術の魅力に触れることができる貴重な機会をお見逃しなく。