2025.5.13

「創造と破壊の閃光」(GYRE GALLERY)開幕レポート。草間彌生と3人の作家が生み出す新たな対話に注目

GYRE GALLERYで、草間彌生、三島喜美代、坂上チユキ、谷原菜摘子によるダイアローグ展「創造と破壊の閃光」が5月14日より開幕する。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より
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 東京・神宮前のGYRE GALLERYで、「創造と破壊の閃光」が5月14日〜6月15日の会期で開催される。キュレーションは飯田髙誉(スクールデレック芸術社会学研究所所長、インディペンデント キュレーター)。

 本展は、アーティスト・草間彌生(1929〜)と3人の現代作家、三島喜美代(1932〜2024)、坂上チユキ(1961〜2017)、谷原菜摘子(1989〜)が作品を通じて対話を行う展覧会だ。飯田は、いまもなお精力的に活動を続ける草間との出会いを振り返りながらも、今回の企画意図について次のように述べた。

 「草間さんとは、自身がフジテレビギャラリーに勤めていた1980年代から交流があった。当時、草間さんはニューヨークで活動をしていたが、帰国後、日本の美術界が彼女を受け入れられる状況になく、マージナルな存在となっていた。怒りを爆発させた草間さんはそれをエネルギーに変え、作品が展開されるようになった。(中略)草間さんの作品が市場に回るようになったのは65歳を過ぎた頃からで、そこからは世界的に活躍する人物となった。(中略)そんな草間さんの作品と対話をする作家として三島喜美代さん、坂上チユキさん、谷原菜摘子さんを選んだ。作品それぞれの対話を通じて、相互の見え方が活性化・循環することを試みる」。

展示風景より

 会場は、4人の作家による作品が一度に目に入るような素直な構成となっている。三島は、大量消費社会のなかで生み出される日用品やそこから発生するゴミを陶の立体作品で制作する作家として知られ、昨年91歳で逝去した。50年代に画家として活動をスタートしたものの、当時は女性画家の発表が難しく、同時代作家とも言える草間とは近しい状況にあったのではないか。

 「自分」という存在が大衆社会(マス)に埋もれていくことに危機感を覚えたという2人の作家に見ることができる、共通した表現とは何か。会場では、そのような目線でも作品を味わってほしい。

展示風景より
展示風景より、手前は三島喜美代《Work22-C7》(2022)

 草間と坂上の接点はどこか。それは、1993年に世田谷美術館で開催された「日本のアウトサイダー・アート」展にあるという。ここで2人はアール・ブリュット作家として紹介された。アール・ブリュットという分類の危うさについては下記の記事(*)を参照していただきたいが、制作をすることと生きることが直結した、生き様がそのまま作品となるような2人の作品からは、どのような目線や感情、そして制作への向き合い方が読み取れるだろうか。

 会場では、紙を支持体としたドローイングが多い坂上の、ペインティング作品が4点展示されるといった貴重な機会にもなっている。

展示風景より、坂上チユキによる作品群
展示風景より、手前は坂上チユキ《我等を試みに 引き賜わざれ Ⅲ 天を突き刺す思いで》(2016)

 谷原は、日本近代絵画史に見られる「くらい絵」の系譜を、自身の体験を描きながらにして受け継ぐ作家だ。プレビューに参加した谷原は、今回の展覧会や出展作品について次のように語る。「自分では及ばない方々とのコラボレーション。この機会に際し、自分なりに3点の新作を制作した。小作品2点《愛惜の部屋》《蝋燭の火を消さなければ》では、“不安”を、つまり自分が感じたしがらみやトラウマを表現した。また、大型の円形作品のタイトルは《方舟は現れない》。タイトルは絶望的だが、逆にどこまでも自由な海は広がるといったニュアンスも含まれている」。

 キャンバスではなく、ベルベットの布地に油彩、さらにはビーズや刺繍などを用いながら描かれる谷原の絵は、幻想的でありながらもどこか深く重い感情を呼び起こすことにも作用する。抽象的ではあるものの強烈なメッセージ性をふんだんに含む草間作品とどのように呼応するのか、会場でぜひ味わってみてほしい。

展示風景より、谷原菜摘子《方舟はもう現れない》(2025)
展示風景より、左から谷原菜摘子《愛惜の部屋》(2025)、《蝋燭の火を消さなければ》(2025)

 最後に、本展のタイトルである「創造と破壊の閃光」とは、フランスの哲学者フェリックス・ガタリにようテキスト「草間彌生の豊饒な感情」からの引用だと飯田。出展作家のなかでも若手作家として参加する谷原、そしてこの展覧会に足を運ぶであろう次世代はこのメッセージをどのように受け取るのだろうか。それも長い年月の果てに知ることとなるひとつの見どころと言えるだろう。

*──「櫛野展正連載27:アウトサイドの隣人たち(番外編) アール・ブリュットという『誤認』」(文=櫛野展正)、2018年12月21日。https://bijutsutecho.com/magazine/series/s6/19030、「アール・ブリュットの誤読と課題、そして可能性。山田創が語る『つくる冒険 日本のアール・ブリュット45人』」(文=山田創[滋賀県立美術館 学芸員])、2024年6月15日。https://bijutsutecho.com/magazine/series/s34/29066