2025.5.20

「生誕150 年記念 上村松園と麗しき女性たち」(山種美術館)に見る、松園が追い求めたもの

東京・広尾の山種美術館で、特別展「生誕150 年記念 上村松園と麗しき女性たち」が開催中だ。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、中央が上村松園《蛍》(1913)
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 「一点の卑俗なところもなく、清澄な感じのする香高い珠玉のような絵こそ私の念願」と語った日本画家・上村松園(1875〜1949)。今年生誕から150年を数えるこの画家の回顧展が、東京・広尾の山種美術館で開催中だ。

展示風景より

 松園は1875年京都生まれ。幼い頃より絵を描くことを好み、外形の美しさだけではなく、高い品格を伴った自身の理想とする女性像の表現を、生涯をかけて追求した。「美人画の名手」として高く評価され、73歳で女性として初めて文化勲章を受章したことは、いまあらためて注目すべきだろう。

 上村松園の回顧展を山種美術館が開催することにも意味がある。松園は同館創設者の山崎種二と親しく交流を重ねていたからだ。種二は松園の作品をいくつも蒐集し、日本有数の松園コレクションを築いた。本展ではその松園コレクションのなかから、初期から晩年までを概観できる22点の優品が並ぶ。

 例えば《蛍》(1913)は、蚊帳を吊った女性がふと蛍の存在に気づく瞬間をとらえた名作。喜多川歌麿の浮世絵《絵本四季花(上) 雷雨と蚊帳の女》をヒントに描かれたとされるものであり、足の指の長さは曾我蕭白の美人図と類似性を持つと指摘されている。

展示風景より、上村松園《蛍》(1913)

 《新蛍》(1929)も同じく蛍を描いたもので、1930年にローマ日本美術展覧会で出品された来歴を持つ。

展示風景より、《新蛍》(1929)

 大作《砧》(1938)は第二回新文展の出品作で、松園作品のなかでももっとも大きなサイズのひとつ。40代以降、能を題材とした作品を得意としていた松園。世阿弥作の「砧」に由来する本作は、夫の帰りを待つ妻の姿を、等身大とも言える大きさで描いた。巨大なサイズではあるが、その筆は寸分も狂っておらず、松園の力量をまざまざと実感させられる。

展示風景より、手前が《砧》(1938)

 文化勲章受章の年に描いた《庭の雪》(1948)は、《牡丹雪》(1944)、《杜鵑を聴く》(1948)と並んで展示。雪が散るなかで身を縮める姿をみずみずしくとらえているこの作品。73歳で描いたとは思えない表現の繊細さに注目してほしい。

展示風景より、左から《庭の雪》(1948)、《牡丹雪》(1944)

 本展では個人蔵の松園作品にも注目だ。《つれづれ》(1940頃)、《姉妹》(1903頃)、《姉妹》(1897〜1906)、《美人観書図》(1940頃)の4点が並ぶ。

 松園が22〜31歳の頃に描いたとみられる《姉妹》は、じつに繊細に描かれた姉妹の髪飾りや牡丹の花などから、松園が若い頃から高い力量を持っていたことがわかる。また28歳の頃に描いた同名の《姉妹》は、シャボン玉を楽しむ姉妹を描いたもの。夢中になってシャボン玉で遊ぶ妹と、それを見守る姉の優しい眼差しが、画面全体にあたたかさを与えている。

展示風景より、左から《姉妹》(1903頃)、《姉妹》(1897〜1906)

 京都の風俗を重んじて、芯のある女性たちを描き続けた松園。生涯をかけて追い求めた美人画の極致を会場で堪能してほしい。

 なお本展では松園のほかに、今年生誕130 年を迎える小倉遊亀(1895〜2000)、生誕120年の片岡球子(1905〜2008)のほか、菊池契月や伊東深水、そして松園と並んで「東の松園、西の清方」と評された鏑木清方など、様々な画家による粒選りの美人画も展覧。松園と比較しながら見るのもまた楽しい。

展示風景より、伊東深水の作品群
展示風景より、小倉亀遊と片岡球子、橋本明治の作品
展示風景より、左から京都絵美《ゆめうつつ》(2016)、野島青茲《麗衣》(1962)