「日比野克彦 ひとり橋の上に立ってから、だれかと舟で繰り出すまで」展(水戸芸術館現代美術ギャラリー)開幕レポート。日比野克彦の「ひとり」から「だれかと」へ
日比野克彦の60年以上にわたる創作と実践を660点以上の作品で振り返る展覧会「日比野克彦 ひとり橋の上に立ってから、だれかと舟で繰り出すまで」が、茨城・水戸にある水戸芸術館現代美術ギャラリーでスタートした。会期は10月5日まで。

茨城・水戸にある水戸芸術館現代美術ギャラリーで、「日比野克彦 ひとり橋の上に立ってから、だれかと舟で繰り出すまで」展が始まった。企画担当は竹久侑(水戸芸術館現代美術センター芸術監督)。
本展は、日比野克彦の60年以上にわたる創作と実践を、80シリーズ・660点以上の作品で振り返る、これまでにないスケールの個展である。タイトルにある「ひとり橋の上に立ってから、だれかと舟で繰り出すまで」は、日比野自身の実体験に基づいている。
日比野は幼少期、思いがけずひとりで過ごすことになったある日、橋の上で初めて「ひとり」であることを強く実感したという。その体験以降、彼にとって絵を描くことは、「だれかと会いたい」「つながりたい」という欲求と不可分の行為となった。本展では、こうした〈ひとり〉から〈だれかと〉への移行と変化を軸に、アーティスト日比野克彦の活動の全体像を浮かび上がらせている。

展覧会の序章にあたる第1章「日比野克彦の原点と初期」では、日比野の幼少期から1980年代の初期作品に焦点を当てる。展示冒頭に掲げられた、ゆらゆらと揺れる紙に記された文章は、「なぜ絵を描くのか」という根源的な問いに対する作家の思索が綴られている。手がむずむずと動き出すような感覚、赤ん坊のころの曖昧な記憶が、創作の起点として描かれている。
日比野が後年になって気づいたこととして、作品に頻繁に登場する赤や青の色彩が、幼少期に遊んでいた積み木の色に由来しているというエピソードも紹介される。さらに、東京藝術大学在学中に段ボールを素材として制作された立体作品は、彼の創作活動における大きな転機となった。「日本グラフィック展」などで高く評価されたこれらの作品は、既存のイラストレーションの枠を超えた斬新な表現として注目を集めた。



また、母親との関係性を示すエピソードも紹介されている。実家に送ったドローイングが、本人の知らぬ間に屏風に貼られていたり、Tシャツがクッションカバーに仕立て直されていたりするなど、家族のまなざしのなかで作品が育まれていった過程が丁寧に描かれている。

