2025.9.19

「ムーンアートナイト2025」開幕レポート。下北沢の街全体を楽しむための新企画も目白押し

東京・下北沢の街を舞台に、「月」をテーマにしたアートフェスティバル「ムーンアートナイト下北沢2025」が今年も開幕した。会期は10月5日まで。

文・撮影=大橋ひな子(ウェブ版「美術手帖」編集部)

会場風景より、Luke Jerram《Museum of the Moon》
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 東京・下北沢の街を舞台に、「月」をテーマにした地域参加型のアートフェスティバル「ムーンアートナイト下北沢2025」が今年も開幕した。イベントでは、アート作品展示を中心に、イマーシブシアターや音楽ライブ、限定メニューの提供や特別イベントの開催等、過去最多の約100企画が集結している。会期は9月19日~10月5日。

 本イベントは、2022年から毎年開催し、今年で4回目を迎える。昨年約50万人を動員した本イベントは、下北線路街以外のエリアも使って街全体を巻き込むことに挑戦する。下北沢という街ならではの音楽や演劇といった様々なジャンルを横断した企画を展開することで、より街自体を楽しめるような内容へとアップデートさせた。

 ただ、やはり本イベントのシンボルともいえるLuke Jerram(ルーク・ジェラム)による《Museum of the Moon》は、今年も登場している。毎年連続で「下北線路街 空き地」に展示されるこの作品は、直径7メートルの大きな月を模しており、クレーターの細部まで表現されている。

会場風景より、Luke Jerram《Museum of the Moon》

 「BONUS TRACK」隣接駐車場には、Nelly Ben Hayoun-Stépanian(ネリー・ベン・ハユン=ステパニアン)が手がけた《Schrödinger's Cats》が展示されている。本作は、量子力学における思考実験「シュレディンガーの猫」をモチーフに、天文学や宇宙環境問題、宇宙とのつながりなどを表現したものとなっており、日本では初公開となる。会場に展示された大きな2匹の猫は、片方は生きている猫、もう片方は死んでいる猫を表しており、ポップな見た目とは裏腹に、哲学的なテーマが隠されている。作家は本作を通じて、常識を疑ってほしいというメッセージを込めたという。

会場風景より、Nelly Ben Hayoun-Stépanian《Schrödinger's Cats》
会場風景より、Nelly Ben Hayoun-Stépanian《Schrödinger's Cats》

 また東北沢駅屋上(改札外)では、岡山を拠点に活動を行うビジュアル・アーティストの森貴之による《Uranometria(ウラノメトリア)》が鑑賞可能(有料)。通常は入場できない駅の屋上を会場とするうえに、紫外線によって光る糸を用いた20mの通路が敷かれることで、異世界へ迷い込んだような感覚を覚えさせる。通路の先には天球状のドームが設置されており、そのなかには同様の蛍光する糸でかたちづくられた星座のモチーフが浮遊している。9、10月の東京の空に見える星座がモチーフとして選ばれている。

会場風景より、森貴之《Uranometria》
会場風景より、森貴之《Uranometria》

 また今年の新企画として、参加者自ら街や会場内を動き、物語の一部として作品に参加する没入型エンターテイメント「イマーシブシアター『猫町』」が開催される(有料)。本作は、下北沢周辺を終の住処とした詩人・萩原朔太郎がモデルとなっており、イヤホンから流れる主人公の声を頼りにしながら下北沢駅前広場から世田谷代田駅までの街をめぐる作品だ。街を舞台に没入型体験を展開するクリエイティブユニットdaisydozeが出がけた新作となる。

 本作も、小田急電鉄が所有する普段は入れない施設を会場として用いている。音声や演者に誘導され地下に向かうと、まるで自身も物語の一部になったかのような動きをうながされ、非日常な体験をすることができる。本作は1日13回公演(土日祝のみ)。

会場風景より、没入型エンターテイメント「イマーシブシアター『猫町』」の様子
会場風景より、没入型エンターテイメント「イマーシブシアター『猫町』」の様子

 さらに会期中は、下北沢駅前広場でも複数名のアーティストの作品が展開される予定だ。

 また、もうひとつ今回の企画の目玉に、下北沢周辺で活動するアーティスト・永原真夏が本イベントのために制作したテーマソング「ムーンライト」があげられる。シモキタカルチャーのひとつである「音楽」にまつわる企画として実現され、このテーマソングは、イベント期間中に地域商店街で放送するほか、下北線路街 空き地でもライブが行われる。さらに「下北沢SHELTER」「下北沢BASEMENTBAR」などの地域ライブハウスによる、「月」をテーマにした音楽ライブやイベントも会期中実施される予定だ。

 初回から4回目となる今年は、過去3回のイベントを踏まえたうえで、下北沢という街をより深く楽しんでもらうための工夫を交えてアップデートされたものとなった。涼しくなってきた秋の夜に、アートや音楽、演劇といった文化を通じて、下北沢の街全体を堪能してほしい。