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2025.10.12

大阪・関西万博、そして「静けさの森」を未来へ。藤本壮介、宮田裕章、SANAAが考える都市の未来

10月8日、万博閉幕を間近に控え、未来へ引き継がれる「レガシー」をテーマとした2025年日本国際博覧会テーマウィークプログラム「共鳴と森―突き破る塔(1970)から開かれる空(2025)へ」が開催された。とくに万博の経験を未来の都市づくりにいかに活かすかがテーマとなった宮田裕章、SANAA(妹島和世/西沢立衛)、藤本壮介が参加した第3部「Expo2025 以降の都市」の内容をレポートしたい。

文=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

大阪・関西万博の「Better Co-Being」
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 10月8日、万博閉幕を間近に控え、未来へ引き継がれる「レガシー」をテーマとした2025年日本国際博覧会テーマウィークプログラム「共鳴と森―突き破る塔(1970)から開かれる空(2025)へ」が開催された。会場の様子をレポートする。 

 このイベントには、大屋根リングを設計した藤本壮介、会場中央「静けさの森」をプロデュースする宮田裕章、ランドスケープデザインを手がけた忽那裕樹、建築ユニットSANAA(妹島和世/西沢立衛)、横山英幸(大阪市長)らが登壇し、万博の終幕とその先の展望について語った。

 なかでも万博というレガシーを生かした都市の未来について考えた宮田、藤本、SANAAの2人が登壇した第3部「Expo2025 以降の都市」の内容についてレポートしたい。

2025年日本国際博覧会テーマウィークプログラム「共鳴と森―突き破る塔(1970)から開かれる空(2025)へ」より、左から宮田裕章、妹島和世、西沢立衛、藤本壮介

都市における目的のない場所の可能性

 万博会場中央に位置する「静けさの森」は、万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」の象徴となる場所としてつくられた。宮田と藤本が企画・監修を担っており、キュレーションは宮田と長谷川祐子が共同で担った。そして、静けさの森の一角にあるパビリオンが宮田プロデュースのシグネチャーパビリオン「Better Co-Being」だ。人類がデータを分かち合い、共創する未来社会の象徴として「森」を構想した宮田。SANAAが設計したパビリオンは、壁も天井もない開放的なデザインが大きな特徴で、塩田千春宮島達男、クリエイティブチームEiMがアーティストとして参加している。

「静けさの森」のトマス・サラセーノ《Conviviality》

 この「静けさの森」と万博リングの一部は、夢洲の会場跡に残されることが決まった。万博の跡地をどのように活用するのか、計画はまだ決まっていないが、宮田は「静けさの森」について、育まれた森の生態系を残しつつ、教育の場として活かしていくことが重要だと語った。トークはこれを踏まえたうえで、どのような都市をつくっていくことができるのか、という問いから始まった。

「静けさの森」のレアンドロ・エルリッヒ《Infinite Garden - The Joy of diversity》

 宮田はまず、万博の会場に生まれていた人々が自然と集まる広場空間としての性格を高く評価した。「藤本さんが設計した会場は大きな広場のようであり、パビリオンに入らなくともその場にいることを楽しむ人たちが集まっていました。様々な人が滞留できる場は都市空間として非常に重要だと思っています。効率と購買力を追求する経済性に絞った街づくりでは、街の魅力がなくなるし、富裕層も来なくなってしまいますよね。梅田にあるグラングリーン大阪のうめきた公園のような都市における広場空間で自由に過ごす人々が話題になりましたが、あのような、金銭的な利益を産むわけではないが、人が集まることができる場所というのが、これからの街づくりには非常に重要だと思います」。

大屋根リング

 グラングリーン大阪の大屋根スペースの設計にはSANAAが関わっている。街づくりのコンセプトについて、妹島は次のように語った。「企画段階から市とは緑を中心にするというコンセプトを共有していました。ただ、大都市の駅のすぐそばに人々が集まることができる広場が存在することが、ここまで素晴らしい効果を生むことは想像ができませんでした。現地を訪れると、人々が思い思いの時間を過ごしていて、あそこにいると、人が都市をつくっていることを感じられます」。

 妹島は、こうしたグラングリーン大阪の広場と同様の機能が万博の大屋根リングにもあったのではないかと設計者の藤本に問いかけた。藤本は次のように回答。「私は田舎出身なので、上京したときに心地よかったのが、たくさんの知らない人たちが同じ空間にいることだったので、妹島さんのおっしゃることはとてもよくわかります。リングの上をとくに明確な目的もなく人が歩き、ときには寝転がっている、という風景は、目的性から切り離されて人が共存する場所としてとても重要なことだと強く感じています」。

「Better Co-Being」に見る未来の都市のあり方

大屋根リングと森万里子《Cycloid Ⅲ》(2015)

 SANAAが設計したパビリオン「Better Co-Being」には、どのような未来の都市づくりのためのヒントが隠されているのだろうか。西沢は同パビリオンにおいては「静謐さ」を意識したと語る。「アジアの都市の魅力のひとつに、静謐さがあると思います。例えばインドの都市は、濁流のような騒音にあふれていますが、しかしそれがひとつの大きな流れになっていて、どこか静けさがあります。日本もそうですね、日本の都市のひとつの特徴が静寂なのだと思います。これだけの人やものが溢れているのに、どこか静かです」。加えて西沢は磯崎新の「間」(パリ装飾美術館から始まり、ヨーロッパを巡回した磯崎の個展が「間-日本の時空間」であった)を引きながら、ヨーロッパでは余計なものとしてとらえられる「間」の感覚が、東洋的な価値観においては肯定されるのではないかとも語った。

 SANAAは「Better Co-Being」での経験を踏まえて、今後はどのようなチャレンジをしていくのだろうか。この問いについて、西沢はかつて未来の建築のあり方を原広司に尋ねたときに出てきた2つのキーワードが参考になるのではないかと語った。それは「工業物としては割り切れない生命的建築」と「気候の変化を告げるような気象台としての建築」だったという。また、妹島は今回のパビリオンで、地面から浮かぶような浮遊感のある建築にチャレンジできたと語った。これが、今後自分たちがやろうとしていることにつながっていく予感がするのだという。

大阪・関西万博の「Better Co-Being」

 最後に、未来の都市について必要なことについて3人それぞれが意見を述べた。藤本は「現代の都市は同じモジュールの繰り返しになるという原則から逃れられないが、違うもの同士がありえなくらい隣接する場が未来の都市なのではないか」と語った。

 西沢は次のように述べた。「街に熊が出てくるニュースを見ても思うが、人間は本来自然のなかで生き残るために街をつくっていたことがわかる。街が自分たちの生命の延長であることを、より意識する時代になるのではないか」。

 そして妹島は「いま時代の節目であり、大きな変化が始まる予感がある。だからこそ、これまでの歴史の蓄積を踏まえたうえで、街に多くの人々が関わっていく仕組みが必要なのではないか」とまとめた。