都市における目的のない場所の可能性
万博会場中央に位置する「静けさの森」は、万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」の象徴となる場所としてつくられた。宮田と藤本が企画・監修を担っており、キュレーションは宮田と長谷川祐子が共同で担った。そして、静けさの森の一角にあるパビリオンが宮田プロデュースのシグネチャーパビリオン「Better Co-Being」だ。人類がデータを分かち合い、共創する未来社会の象徴として「森」を構想した宮田。SANAAが設計したパビリオンは、壁も天井もない開放的なデザインが大きな特徴で、塩田千春と宮島達男、クリエイティブチームEiMがアーティストとして参加している。
「静けさの森」のトマス・サラセーノ《Conviviality》 この「静けさの森」と万博リングの一部は、夢洲の会場跡に残されることが決まった。万博の跡地をどのように活用するのか、計画はまだ決まっていないが、宮田は「静けさの森」について、育まれた森の生態系を残しつつ、教育の場として活かしていくことが重要だと語った。トークはこれを踏まえたうえで、どのような都市をつくっていくことができるのか、という問いから始まった。
「静けさの森」のレアンドロ・エルリッヒ《Infinite Garden - The Joy of diversity》 宮田はまず、万博の会場に生まれていた人々が自然と集まる広場空間としての性格を高く評価した。「藤本さんが設計した会場は大きな広場のようであり、パビリオンに入らなくともその場にいることを楽しむ人たちが集まっていました。様々な人が滞留できる場は都市空間として非常に重要だと思っています。効率と購買力を追求する経済性に絞った街づくりでは、街の魅力がなくなるし、富裕層も来なくなってしまいますよね。梅田にあるグラングリーン大阪のうめきた公園のような都市における広場空間で自由に過ごす人々が話題になりましたが、あのような、金銭的な利益を産むわけではないが、人が集まることができる場所というのが、これからの街づくりには非常に重要だと思います」。
大屋根リング グラングリーン大阪の大屋根スペースの設計にはSANAAが関わっている。街づくりのコンセプトについて、妹島は次のように語った。「企画段階から市とは緑を中心にするというコンセプトを共有していました。ただ、大都市の駅のすぐそばに人々が集まることができる広場が存在することが、ここまで素晴らしい効果を生むことは想像ができませんでした。現地を訪れると、人々が思い思いの時間を過ごしていて、あそこにいると、人が都市をつくっていることを感じられます」。
妹島は、こうしたグラングリーン大阪の広場と同様の機能が万博の大屋根リングにもあったのではないかと設計者の藤本に問いかけた。藤本は次のように回答。「私は田舎出身なので、上京したときに心地よかったのが、たくさんの知らない人たちが同じ空間にいることだったので、妹島さんのおっしゃることはとてもよくわかります。リングの上をとくに明確な目的もなく人が歩き、ときには寝転がっている、という風景は、目的性から切り離されて人が共存する場所としてとても重要なことだと強く感じています」。