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2026.1.6

「浮世絵おじさんフェスティバル」(太田記念美術館)開幕レポート。「おじさん」から浮世絵の世界を深堀りしよう

東京・原宿の太田記念美術館で、浮世絵の片隅にいる、味わい深い「おじさん」に着目した展覧会「浮世絵おじさんフェスティバル」が開幕した。会期は3月1日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

展示風景より、歌川広重《木曽街道六拾九次之内 三拾 下諏訪》(1836〜37、天保7〜8)
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 東京・原宿の太田記念美術館で、浮世絵の名所絵などの片隅にいる、味わい深い人物「おじさん」たちに着目する展覧会「浮世絵おじさんフェスティバル」が開幕した。会期中には展示替えがあり、前期が~2月1日まで、後期が2月5日~3月1日となっている。担当は同館上席学芸員の渡邉晃。なお、本展は中山道広重美術館で好評を博した「浮世絵おじさんフェスティバル」展のコンセプトをもとに、新たに構成した展覧会となっている。

展示風景より、左が歌川広重《東海道 五十四 五十三次 大津》(1851、嘉永4)

 太田記念美術館においては2023年の「広重おじさん図譜」以来、約3年ぶりとなる「おじさん」展となる本展。前後期あわせて 150点を超える作品を展示し、浮世絵に描かれた多彩な「おじさん」たちを紹介しつつ、作風も時代も異なる絵師たちの作品が一堂に会する。

 冒頭のプロローグ「ようこそ 浮世絵おじさんフェスティバルへ!」は、歌川広重の《東海道 丗四 五十三次 二川 猿か馬場》(1851、嘉永4)から始まる。中央に描かれた、小さいながらも街道の中央で扇子を仰ぎつつリラックスした表情を見せる「おじさん」が来場者を迎える。

展示風景より、歌川広重《東海道 丗四 五十三次 二川 猿か馬場》(1851、嘉永4)

 ほかにも桜満開の吉野の花を背景になぜか鑑賞者のほうを見ている葛飾北斎《雪花月 吉野》(1830〜34、天保前期)のふたりの「おじさん」や、歌川国芳《東都名所 新吉原》(1832〜36、天保4〜7)の月の下で悲しそうな顔をする「おじさん」などが並ぶ。

展示風景より、葛飾北斎《雪花月 吉野》(1830〜34、天保前期)
展示風景より、歌川国芳《東都名所 新吉原》(1832〜36、天保4〜7)

 また、明治以降の浮世絵としては、小林清親《本所御蔵橋》(1880、明治13)の、後ろ姿のシルエットながらもシルクハットをかぶっていることがわかり、明治という時代の変化を感じさせる「おじさん」も興味深い。

展示風景より、小林清親《本所御蔵橋》(1880、明治13)

 第1章「広重おじさんワールド」は、広重が描いた東海道や木曽街道といった街道を旅する「おじさん」たちを紹介。煙管を片手に多摩川を悠々と渡し船で渡ったり、力士の乗った駕籠を担いで疲れた表情をみせたり、宿場で足を水で洗って満面の笑みを見せたりと、数々の旅する「おじさん」たちが目を楽しませてくれる。

展示風景より、歌川広重《東海道五拾三次之内 川崎 六郷渡舟》(1833〜36、天保4〜7)
展示風景より、歌川広重《東海道五拾三次之内 奥津 興津川》(1833〜36、天保4〜7)
展示風景より、歌川広重《東海道五拾三次之内 関 旅籠屋見世之図》(1843〜46、天保14〜弘化3)

 第2章「みんなのおじさん」では、「おじさん」を通して見えてくる、浮世絵師たちの個性に着目する。本章の目的について、渡邉は次のように説明する。「浮世絵は当時の流行が反映されるものだが、脇役である『おじさん』に関しては、どこか流行りの画風に左右されず、描き手の力も抜けており、絵師の個性がよく現れているといえる。絵師本来の個性が反映されている『おじさん』を通して、絵師の個性を再発見してもらえれば」。

 例えば北斎は《諸国瀧廻り 木曽海道小野ノ瀑布》(1834、天保5頃)のような壮大な風景のなかに、たしかなデッサン力にもとづく存在感のある「おじさん」を表している。また歌川国芳は得意な細部描写によって、《東都名所 かすみが関》(1832〜33、天保3〜4)のように、生き生きとした「おじさん」を片隅に配している。

展示風景より、葛飾北斎《諸国瀧廻り 木曽海道小野ノ瀑布》(1834、天保5頃)
展示風景より、歌川国芳《東都名所 かすみが関》(1832〜33、天保3〜4)

 最後となる第3章「物語の中のおじさん」は、広重が『平家物語』のパロディを描いた《童戯武者尽 源頼政・熊谷直実》(1854、嘉永7)や、『金手本忠臣蔵』の賄賂の場面《忠臣蔵 三段目》(1837〜38、天保8〜9)など、物語のなかの「おじさん」を取り上げる。

展示風景より、歌川広重《童戯武者尽 源頼政・熊谷直実》(1854、嘉永7)

 そして最後となる第4章「おじさんを探そう」では、群衆のなかの「おじさん」に着目し、探す楽しみを提案。隅田川の納涼花火の混雑のなかで商売をする英泉の描く渓斎英泉の《江戸両国橋納涼之夜景》(1830〜44、天保後期)の「おじさん」や、歌川豊春の《浮絵駿河町呉服屋図》(1764〜72、明和後期)三井越後屋の店内で様々に反物を吟味する「おじさん」など、まるでマーティン・ハンドフォードによる絵本『ウォーリーをさがせ!』のように楽しむことができるだろう。

展示風景より、左が江戸両国橋

 「おじさん」という、同館のSNSの投稿でも人気を集めるキーワードで浮世絵の楽しみを幅広い層に伝えつつも、これまでとは異なる観点での鑑賞を提案してくれる本展。奥深い浮世絵の世界を「おじさん」に案内してもらえる展覧会といえるだろう。