2024.12.25

太田記念美術館で「江戸メシ」開催。見どころをレポート

太田記念美術館で、江戸時代の食文化の魅力を紹介する展覧会「江戸メシ」が2025年1月5日よりスタート。開幕に先駆けて、会場の様子をレポートする。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より
前へ
次へ

 東京・原宿の太田記念美術館で、江戸時代の食文化の魅力を紹介する展覧会「江戸メシ」が2025年1月5日よりスタート。開幕に先駆けて、会場の様子をレポートする。担当学芸員は日野原健司(同館主席学芸員)。

 日本において江戸時代は食文化が大きく発展した時代だ。寿司やそば、天ぷらといった料理がファストフードとして人気を博し、味噌や酢、醤油といった調味料も広く流通するようになった。そして、街の人々は自宅での食事に加えて、料亭や屋台での外食も楽しんでいたという。

 同展では、葛飾北斎や歌川国芳といった人気浮世絵師らによって描かれた庶民の暮らしから、「食」をテーマとした作品91点を展示。「料理」「調味料・素材」「場所」といった3つのセクションからその様相を紹介している。

展示風景より、月岡芳年《風俗三十二相 むまさう 嘉永年間女郎之風俗》(1888)

 1つ目のセクション「さまざまな料理」には、そば、寿司、鰻、天ぷらなど、現代でも人気の料理を食べる江戸の人々が描かれた作品がずらりと並ぶ。例えば、四代歌川国政による《志ん板猫のそばや》は、擬人化されたネコたちが蕎麦屋で食事をしている風景が描かれている。ユニークかつ可愛らしくあるとともに、当時の人々がどのような食事をしていたのかが垣間見えるものとなっている。

展示風景より、歌川国芳《木曽街道六十九次之内 守山 達磨大師》(1852)
展示風景より、四代歌川国政《志ん板猫のそばや》(1873)。店内に机は設置されておらず、座敷のうえに御膳を置いて皆好きな場所で食事を楽しんでいる。中央のネコは、頭のうえにそばがかかってしまうというアクシデントも
展示風景より、歌川国芳《道外十二支 未》(1855)。こちらは新収蔵の作品だ

 料理を一通り楽しんだ後は、スイーツも食べたくなる。歌川国貞(三代豊国)が描いた《誂織当世島 金花糖》には、現代では少し珍しい「金花糖」という砂糖菓子が描かれている。金魚のかたちに固められた金花糖は彩り豊かで可愛らしく、当時の人々にも愛されたという。

展示風景より、歌川国貞(三代豊国)《誂織当世島 金花糖》(1843〜46)

 浮世絵とは少し異なるが、北斎によって絵柄が刷られたお菓子袋も紹介されている。当時の浮世絵師たちがお菓子のパッケージデザインも手掛けていたというのは驚きだ。

展示風景より、葛飾北斎《極製御菓子 江戸八景 両国暮雪》(1833)

 また、年末年始にあわせた季節の料理が描かれた作品も並ぶ。いまはなかなか目にする機会も減ったが、臼と杵でつくられたつきたての餅はさぞかし美味しいにちがいない。国貞による《十二月之内 師走 餅つき》からは、その共同作業の様子も描かれている。

展示風景より、歌川国貞(三代豊国)《十二月之内 師走 餅つき》(1854)

 2つ目のセクションでは、魚介類やフルーツ、味噌、醤油、酒など、浮世絵に描かれた「調味料・食材」にフォーカスしている。二代歌川広重「諸国名所百景」シリーズなどでは、その地域ならではの食材や調味料が描かれているほか、三代歌川広重による《大日本物産会 下総国 醤油製造之図 西瓜畑之図》には、江戸時代後期に名産となった下総国(千葉県)の醤油づくりの様子も記録されている。

展示風景より、左から二代歌川広重《諸国名所百景 若狭かれゐを制す》(1859)、歌川広重《鯛 鯉 鰹》(1837〜44)
展示風景より、三代歌川広重《大日本物産会 下総国 醤油製造之図 西瓜畑之図》(1877)

 国貞の《十二月之内 水無月 土用干》には、様々な柄の美しい着物が虫干しされているなか、女性たちが角切りされたスイカを食べている様子が描かれている。虫干し、着物の柄、スイカなどから季節感がよくわかる作品だ。

展示風景より、歌川国貞(三代豊国)《十二月之内 水無月 土用干》(1854)

 江戸時代は日本の食文化がとくに花開いた時代でもあるというが、それは様々な場所で食事を楽しむといったアイデアがあったことが理由のひとつになっているのではないか。例えば、たまの外食で料亭を訪れたり、広重の《東都名所 高輪廿六夜待遊興之図》に描かれるように、天ぷらやそば、お汁粉などを屋台メシとして楽しむ人々の様子も描かれている。

展示風景より
展示風景より、歌川広重《東都名所 高輪廿六夜待遊興之図》(1837〜44)

 また、《東都両国橋川開繁栄図》では、隅田川に浮かぶ数々の船を描いているが、屋形船の横を通り過ぎる細長い船は、船上で軽食を販売していることがわかる。現代でいうフードデリバリーサービスがこの頃から存在していたのかと思うとなかなか面白い。

展示風景より、歌川国貞(三代豊国)《東都両国橋川開繁栄図》(1858)

 また、こちらは食事をしながら歌舞伎を楽しむ人々を描いた歌川豊国による《三座歌舞伎つゞき絵》だ。昨今のコロナ禍で歌舞伎座での飲食はしばらく禁止されていたが、現在は復活している模様。このように大胆に料理を楽しみながら観劇をしてみたいものだ。

展示風景より、歌川豊国《三座歌舞伎つゞき絵》(1817)
展示風景より、歌川豊国《三座歌舞伎つゞき絵》(1817、部分)

 2025年1月5日より開幕する「江戸メシ」展。出展作品に描かれた様相からは、季節や場所にあわせて食事を楽しむといった古き良き日本の文化を再確認することができるだろう。ただし、鑑賞中にお腹がならないよう注意が必要だ。