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2024.12.21

「歌川国芳展 ―奇才絵師の魔力」(大阪中之島美術館)開幕レポート

大阪中之島美術館で、江戸時代末期に活躍した浮世絵師・歌川国芳の画業を紹介する大規模な展覧会「歌川国芳展 ―奇才絵師の魔力」がスタートした。会期は2025年2月24日まで。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、手前は《大江山酒呑童子》(1851、前期展示)
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 大阪中之島美術館で、江戸時代末期に活躍した浮世絵師・歌川国芳(1797~1861)の画業を紹介する大規模な展覧会「歌川国芳展 ―奇才絵師の魔力」がスタートした。会期は2025年2月24日まで。担当学芸員は清原佐知子(同館学芸員)。

 歌川国芳はその無尽の想像力と圧倒的な画力によって、斬新な作品を数多く世に生み出してきた。奇想天外なアイデアや、現代にも通ずるデザイン力は、浮世絵という枠や時代を超えて多くの人々を魅了し、国内外でいまなお高い人気を誇っている。

 大阪で国芳を大規模に紹介する展覧会はおよそ13年ぶり。会場では、国芳の仕事を「武者絵」「役者絵」「美人画」「風景」「摺物」「動物画」「戯画」「風俗資料」「錦絵」など、ジャンル別に紹介している。

展示風景より、《通俗水滸伝豪傑百八人之一個(壱人) 短冥次郎阮小吾》(1828-29頃、前期展示)

 第1章では、国芳の出世作でもある「武者絵」を取り上げている。当時「役者絵」や「美人画」が主な人気ジャンルとして確立されていたなか、歌川豊国(初代)の弟子であった国芳は「通俗水滸伝豪傑百八人之一個(壱人)」シリーズで一世を風靡し、「武者絵」を新たな人気ジャンルへと押し上げた。

 その卓越した画力はもちろんのこと、国芳ならではの構図や三枚続きのワイドな画面を用いた迫力ある画面が、元となるストーリーの世界観をよりドラマチックなものへと昇華させている。

展示風景より、《坂田怪童丸》(1836頃)
展示風景より、《相馬の古内裏》(1845-46頃)

 第2章では、当時の人気ジャンルのひとつであった「役者絵」を紹介している。国芳が絵師になりたての頃、すでに役者絵のジャンルは歌川派の絵師らによって市場が独占されており、師匠である初代豊国や兄弟子に当たる歌川国貞が人気を博していた。やがて国芳は、国貞らとも異なる独自の表現が注目されるようになるが、とくに《日本駄右ェ門猫之古事》のような大掛かりな仕掛けの舞台をユニークに描いている点や色彩の豊かさには注目すべきところがある。

展示風景より
展示風景より、《日本駄右ェ門猫之古事》(1847)

 第3章で取り上げている「美人画」は当時の人気ジャンルのひとつで、主に流行の最先端でもあった遊女や花魁たちが描かれてきた。そのようななか国芳は、町娘など名もなき女性たちの姿をとらえ、日常のなかで垣間見える女性たちの自然かつ愛嬌のある表情やその健康美を描いている。

展示風景より、《東都東叡山の図》(1847-48頃、前期展示)
展示風景より

 また、葛飾北斎や歌川広重らによって人気ジャンルへと押し上げられた名所絵などの「風景画」を、国芳も西洋の画法を取り入れながら手がけており、人々の目線から街のスケールを描いているのも特徴のひとつだ。こちらは第4章で紹介されている。

展示風景より、《東都名所 かすみが関》(1832-33頃、前期展示)
展示風景より、《忠臣蔵十一段目夜討之図》(1831-32頃)

 第5章では、非売品の配布物として制作された「摺物」や「動物画」、そして第6章では国芳のユニークな発想力が光る「戯画」が展示されている。戯画とは、笑いを誘う滑稽絵のこと。天保の改革で役者絵や美人画の制作が制限されたことをきっかけに、国芳は笑いと幕府への風刺を込めて多数の戯画を制作し、人々の注目を集めた。

展示風景より、歌川国芳・三代歌川豊国・梅素亭玄魚合筆《東西大関俳優》(1850、前期展示)
展示風景より、《魚づくし なまず・真鯉》(1842頃、前期展示)

 とくに国芳は動物があたかも人間のように振る舞う「擬人化」を用いて多くの戯画を制作した。この発想は現代におけるキャラクターデザインなどの在り方にも大きな影響を及ぼしているのではないだろうか。

展示風景より、《きん魚づくし ぼんぼん》(1842頃)
展示風景より
展示風景より、《里すゞめねぐらの仮宿》(1846、前期展示)

 武者絵や役者絵、美人画、風景画など、浮世絵には様々な人気ジャンルが挙げられるが、国芳の作品は庶民の暮らしとも深く結びついてきた。当時のニュースや流行、イベント情報などは浮世絵を通じて人々に知らされ、国芳自身の訃報も弟子であった落合芳幾らによる死絵で伝えられた。

 第7章では、メディアとしての側面を持つ国芳に関連する浮世絵と、国芳作品をより深く知るための参考資料もあわせて展示されている。

展示風景より
展示風景より
展示風景より、落合芳幾《国芳死絵》(1861、前期展示)

 このように様々なジャンルで活躍した国芳だが、彼の奇想天外なアイデアを実現させているのは、その圧倒的な画力でもあることがより一層理解できる展示となっている。

 なお、会期中には国芳の作品を深く知るための講演会やギャラリートークも実施される予定のため、ぜひチェックしてみてほしい。