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2026.2.1

「サラ・モリス 取引権限」(大阪中之島美術館)開幕レポート。日本初の美術館個展に代表作が集結

大阪中之島美術館で「サラ・モリス 取引権限」が開幕した。会期は4月5日まで。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、《スノーデン》(2026)
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 大阪中之島美術館で「サラ・モリス 取引権限」が開幕した。会期は4月5日まで。担当学芸員は中村史子(大阪中之島美術館 主任学芸員)。

 サラ・モリス(1967~)は、ネットワーク、グローバリゼーション、建築、組織や制度、都市への関心を軸に制作を続けてきたアーティストだ。現実と抽象を横断する表現を用い、都市や権力構造を主題とした作品を多数発表している。

サラ・モリス

 大阪中之島美術館は、モリスの作品を日本で初めてコレクションに加えた美術館であり、所蔵作品には大型絵画や映像作品《サクラ》(2018)が含まれる。本展は、そうした収蔵をひとつの契機として開催されるもので、モリスにとって日本初の大規模美術館個展となる。30年以上にわたるキャリアのなかで制作された作品が一堂に会し、代表的な絵画約41点、映像作品17点に加え、ドローイングやポスター、関連資料も多数展示されている。

 開幕に先立つ記者発表で、モリスは本展への思いを次のように語った。「日本でこのような個展を開催できることを光栄に思う。タイトルの“取引権限”は、私たちが日々どのような関係性のなかで生きているのかを示す言葉だ。例えば、アートには影響力というパワーがあり、それはアートにとっての取引権限とも言える。そして、この美術館で個展を開催できることは、私自身にとっての取引権限でもある。展示に関わってくださった多くの方々に感謝したい」。

展示風景より

 来場者を迎えるのは、モリスの初期作品のひとつである「サイン・ペインティング」シリーズだ。1990年代のニューヨークで本格的に活動を始めたモリスは、街中やホームセンターなどで目にした注意喚起の標識に着目した。アメリカ合衆国憲法にいまなお存在する自衛のための武器保有の権利を背景に、都市文化に根付いた過剰なまでの自己防衛意識を、皮肉を込めて描き出している。

展示風景より、「サイン・ペインティング」シリーズ。強い色彩とフォントで示されたこれらの作品は鑑賞者にも強い圧力を与える

 「ミッドタウン」シリーズは、都市に林立する企業ビルを主題とした絵画作品だ。1990年代初頭、タイムズ・スクエア近くにスタジオを構えていたモリスは、大企業のビルがひしめく都市景観をモチーフに制作を行った。たんなる建築の抽象化にとどまらず、それぞれの企業が背負う物語や、ビルの所有や権限がつねに流動的であるという現代社会の不確かさも、作品のなかに織り込まれている。

展示風景より、「ミッドタウン」シリーズ。ニューヨークのみならず、マイアミから香港に至るまでが本シリーズの題材となった

 そのほかにも、映像作品の音声データをもとに描かれた「サウンドグラフ」シリーズや、コロナ禍におけるステイホーム期間中に制作された「スパイダーウェブ」シリーズなど、モリスを代表する絵画作品が並ぶ。

展示風景より、「サウンドグラフ」シリーズ。映像作品《有限のゲームと無限のゲーム》の撮影時にモリスが録音した音声がもととなっている
展示風景より、「スパイダーウェブ」シリーズ

 なかでも本展の大きな見どころとなるのが、本展のために制作された新作壁画《スノーデン》(2026)だ。日本での滞在制作による本作は、日本の都市風景や森の風景から着想を得ているというサイトスペシフィックな作品といえる。タイトルの「スノーデン」は、画面に描かれた雪に由来するのか、あるいは2013年のスノーデン事件を想起させるものなのか。ひとつのイメージに複数の解釈が重なりあう点も、モリス作品の特徴と言えるだろう。

展示風景より、《スノーデン》(2026)
《スノーデン》(2026)のテクニカル図面と制作スケジュール表

 さらに本展では、大阪とゆかりの深い作品として、同館が2018年度に収蔵した映像作品《サクラ》(2018)と、絵画作品《黒松[住吉]》(2023)も展示されている。モリスの視点を通してとらえられた日本の風景は、都市や自然、制度と個人の関係性をあらためて浮かび上がらせる。

展示風景より、《サクラ》(2018)。都市がもつカラーをテーマにした映像作品シリーズであり、これまでにも北京、アブダビ、パリ、ロサンゼルス、リオデジャネイロ、シカゴなどの都市で撮影されてきた
展示風景より、《黒松[住吉]》(2023)

 自身もまたシステムの一部であること、そしてアートを通じて大きなシステムと関わること。モリスの作品群は、鑑賞者にミクロとマクロの両方の視点から世界を見つめ直す新鮮な機会を与えてくれる。