2026.6.24

「Dialectical Landscape / 弁証法的風景」展(Art Center NEW)開幕レポート。地下空間で体感するアースワークの新地平

横浜市の新高島駅地下1階にあるArt Center NEWで、「Dialectical Landscape / 弁証法的風景」展が開幕した。会期は8月16日まで。

文・撮影=大橋ひな子(編集部)

高橋臨太郎《Da thing》(2026)映像 31分
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 横浜市の新高島駅地下1階にあるArt Center NEWで、「Dialectical Landscape / 弁証法的風景」展が開幕した。会期は8月16日まで。担当キュレーターは秋葉大介。

 本展は「アースワーク」をキーワードに掲げたもの。ここでのアースワークとは、1960年代以降の野外における大規模な芸術作品にとどまらず、それを広く「堆積や浸食といった大地自体の造形作用と、掘削や埋戻しといった人間の造形作用が応答し合う場」と捉えている。トンネルや堤防などの土木構造物も対象に含めながら、人間と大地、サイトとノンサイト、物質と観念といった様々な二項対立を横断する風景を提示する。

 展覧会のコンセプトは、同会場で2025年に実施された芸術理論家・平倉圭によるゲストトーク「知覚、地下、新しさ」を下敷きとしており、タイトルはロバート・スミッソンのテキスト「Frederick Law Olmsted and the Dialectical Landscape」に由来する。

会場の天井に見つけられる炭酸カルシウムの結晶。コンクリートのクラック(ひび割れ)から滲み出た地下水が二酸化炭素に反応して析出される

 会場となるArt Center NEWは地表から約8.5メートル下に位置し、地下水位より低いため、空間全体が「地下水に浸かっている」状態にある。コンクリートの微細な割れ目からは地下水が滲み出ており、二酸化炭素に反応して析出した炭酸カルシウムの結晶が各所で見られる。また、縄文時代の温暖化に伴う海没、明治期の埋め立て、地下鉄建設に伴う掘削という歴史を経た場所でもあり、この会場自体がひとつのアースワークと言えるだろう。

 本展の参加作家は、淺井裕介、ロジャー・アックリング、伊阪柊、石﨑朝子、ロバート・スミッソン、高橋臨太郎、都市と芸術の応答体、永田康祐、百頭たけし、吉川陽一郎の10組。いくつかの作品を取り上げて紹介する。

ロバート・スミッソン、淺井裕介、ロジャー・アックリング、吉川陽一郎

 展示は、1960年代以降にアースワークを牽引した代表的な作家、ロバート・スミッソンの映像作品《Spiral Jetty》(1971)からはじまる。本作は現地で制作された作品だけでなく、映像やテキストとしても展開され、それぞれが独立した作品となっている。映像内では様々な対象による螺旋形態が反復され、本作が静的なモニュメントではなく、つねに変化し続けるものであることを強調している。

淺井裕介作品の展示風景。左:淺井裕介《114層の日本の地層》(2026)木パネルに土、弁柄、炭、鉛筆、アクリルレジン、右:淺井裕介《Ladakh Geoglyphs》(2024〜26)ラダックの日干しレンガ、ラダックの土を使用した陶器、石灰、写真、水糸、映像、ラダックの土を使用した陶器、テキスト
淺井裕介《Ladakh Geoglyphs》(2024〜26) 丘の上から撮影した写真

 身体スケールを超えた大作を手がけてきた淺井裕介は、かねてより構想していた地上絵《Ladakh Geoglyphs》(2024〜26)をインドのラダックで実現させた。現地の岩々を目印に、日干しレンガと石灰を用いて動物と植物が混ざり合うイメージを星座のように描いた、線の総延長約1キロに及ぶ大作だ。会場では丘の上からの写真に加え、実物の日干しレンガや同サイズの陶作品などが紹介されている。また、日本全国114ヵ所の土を採取して南から北へと並べた《114層の日本の地層》(2026)も展示。壁の向こう側に横浜の土が迫る会場環境と呼応している。

ロジャー・アックリング《Norlolk》(2003)木材に太陽光、ピン、輪ゴム Collection of CW McDonald

 巨大な作品を想起させるアースワークにおいて、ロジャー・アックリングは極小のアースワークを手がけた。会場で紹介されているのは、海岸などで集めた流木に、虫眼鏡で太陽光を集光して焦げ目をつけ、模様を描く作品群だ。作業は必ず流木を拾った現地で行われる。小さなサイズでありながら、流木の形成、太陽光の到達、そして太陽光を用いた描画に至るまでの膨大な時間の蓄積がそこに集約されている。

吉川陽一郎《きもちのきわを歩くーReceptor 2026》(2026)木(イタリアンサイプラス)、合板、椅子(山桜)、車輪(鉄)、薬研(鉄)、ポット(磁器)、スパイス(グリーンカルダモン・ホール)
吉川陽一郎《きもちのきわを歩くーReceptor 2026》(2026) グリーンカルダモンを手で軽く挽いたのちに木製立体を使用する
吉川陽一郎《散歩のお供》(9台)(2022〜26)木(欅、オリーブ、樫)、鉄、鋳鉄

 吉川陽一郎は、鑑賞者の行為そのものを作品の一部として取り込む。会場の《きもちのきわを歩くーReceptor 2026》(2022〜26)は、鑑賞者が木製立体の下部にグリーンカルダモンを敷き、それを押し回しながら挽く作品だ。歩きながらもどこにも辿り着かないこの円運動は、一見すると「目的のない行為」である。しかし、その行為によって会場に満ちていくカルダモンの香りは、その無変化に見える行為のなかで、確実に何かが変わり続けていることの証左となる。作家は、この目的のない行為の繰り返しを、一見動きを止めているように見えて変化し続けている大地の営みへと接続させている。また、入り口にある《散歩のお供》(2026)も体験型作品だ。靴によって大地との接触を失った現代人の足裏に対し、車輪を通して床面の凹凸や硬さを身体へと伝達する。

伊阪柊、百頭たけし、高橋臨太郎

 伊阪柊は、人間活動が地理条件を変え、その地理が再び社会や技術の方向性を規定していく地政学的プロセスに着目する。出展作《The Earth Workom》(2026)は、北極圏航路の開発への疑問と、本会場のある横浜で建造されている北極域研究船「みらいII」から着想を得た。温暖化による海氷融解を進歩として正当化する人間のスタンスに疑問を投げかける。会場内外のセンサーに反応してリアルタイムに生成される航路の映像は、北極圏に近づこうとしながらも決して到達できない様子を描き出す。

伊阪柊《The Earth Workom》(2026)リアルタイムシネマ、軽天、藏骼、センサー、アトラクター
左:百頭たけし《無題》(2026)ピグメントプリント、右:百頭たけし《GEOGAZZR》(2026)映像 18分3秒
百頭たけし《無題》(2026)ピグメントプリント

 百頭たけしは、産業廃棄物や家庭ゴミ、漂着物が集まる大都市郊外の「ジャンクヤード」を撮影してきた。今回は、近年はじめたドローンによる上空からの写真・映像を含む作品群を紹介している。解体車両を捉えた作品からは、無造作に配置された人工物と、それを覆う植物という「人為と自然の関係」が写し出される。また、近年の世界情勢による鉄価格高騰でジャンクヤード自体が縮小している現実も重ねられ、世界の動向と、それを容赦なく覆いつくす自然の脅威が表現されている。

高橋臨太郎《Da thing》(2026)映像 31分

 高橋臨太郎は、風や波といった都市空間に潜む「かたちを持たずに作用する力」に着目する。映像作品《Da thing》(2026)では、航行する船の甲板に電子楽器テルミンのアンテナ(銅板)を設置し、作家自身がその上に立って演奏を行う。船の揺れや風といった環境の力が作家の身体を揺らし、その動きがそのまま音へと変換される。

 大地自体の造形作用と人間の造形作用が応答し合う場として「アースワーク」を捉える本展は、会場空間そのものがアースワークの一部として機能している。表現方法の異なる作家たちが、この地下空間の特徴に応答するように作品を展開しており、ホワイトキューブではないこの場所だからこそ実現できた、自然と人間の応答を実感できる機会となるだろう。