2026.8.21

「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展 17世紀オランダ絵画の名品、奇跡の再来日」(大阪中之島美術館)開幕レポート。17世紀オランダ絵画の傑作が集結

大阪中之島美術館で、「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展 17世紀オランダ絵画の名品、奇跡の再来日」が開幕した。会期は9月27日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=大橋ひな子(編集部)

ヨハネス・フェルメール《真珠の耳飾りの少女》(1665頃)キャンバスに油彩 44.5×39cm マウリッツハイス美術館
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 大阪中之島美術館で、「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展 17世紀オランダ絵画の名品、奇跡の再来日」が開幕した。会期は9月27日まで。監修はマウリッツハイス美術館 コレクション・研究部長のユーディト・ニーセン、日本側監修は神戸大学大学院人文学研究科教授の宮下規久朗、担当は大阪中之島美術館主任学芸員の小川知子。

 本展は、17世紀オランダ絵画を代表する画家ヨハネス・フェルメール(1632〜75)の傑作を中心に、オランダのマウリッツハイス美術館所蔵の名品を紹介するもの。フェルメール作品2点に加え、レンブラント・ファン・レイン、ヤン・ステーン、パウルス・ポッテル、エマヌエル・デ・ウィッテ、マリア・ファン・オーステルウェイクらによる10点の作品も展示されている貴重な機会となっている。

 会場は大きく3つのエリアに分かれている。まずは、本展の表題として掲げられているフェルメールの作品がどのように展示されているのかを紹介したい。

全長20メートルに及ぶ「フェルメール・シアター」

 フェルメール作品の展示の前段では、全長20メートルに及ぶ大型映像が紹介される「フェルメール・シアター」が登場する。生涯でわずか37点ほどしか作品を残さなかったとされるフェルメール。ここで上映される約8分間の映像では、フェルメールの生涯と作中で描かれたモチーフをたどるほか、普段の鑑賞では決して見ることのできない拡大投影によって《真珠の耳飾りの少女》のディテールや魅力を多角的に解き明かしていく。また、会場には全37作品の実物大複製画も展示されており、フェルメールの画業の全貌を体系的にたどることができる。

14年ぶりに来日したフェルメール作品

 そして、本展の最大の目玉であるフェルメールの2作品は、展覧会の最後を飾る。最初に紹介されるのは、フェルメール最初期の代表作《ディアナとニンフたち》(1653〜54頃)。フェルメールが描いた唯一の歴史画であり、風俗画で評価を確立する以前の20代前半に制作されたとされる。中央に配された月の女神ディアナと、彼女に付き従うニンフ(森の精)たちが森の空き地で静かに過ごす、穏やかな一瞬が描かれている。

ヨハネス・フェルメール《ディアナとニンフたち》(1653〜54頃)キャンバスに油彩 97.8×104.6cm マウリッツハイス美術館
ヨハネス・フェルメール《真珠の耳飾りの少女》(1665頃)キャンバスに油彩 44.5×39cm マウリッツハイス美術館
《真珠の耳飾りの少女》を描くためにフェルメールが使用した10種類の顔料

 青いターバンを思わせる色調の通路を抜けた先に展示されているのが、フェルメールの代名詞とも言える最高傑作《真珠の耳飾りの少女》(1665頃)だ。じつに14年ぶりの来日となる。フェルメールが33歳頃に描いたとされる本作は、特定の人物の肖像ではなく、特定のタイプや性格を表現する「トローニー」に分類される。理想化された表情と異国風の装いが神秘的な雰囲気を醸し出し、少女が頭に巻く青いターバンには、当時「金より高価」とされた鉱物のラピスラズリからつくられる「ウルトラマリン」という絵具が使われている。広い展示室に本作1点のみが飾られた空間には、作品を読み解く鍵となる、モチーフや技法の詳細な解説に加え、制作に用いられた顔料も展示されており、多角的に鑑賞を深められる工夫が施されている。なお、本作は撮影が可能であり、会期中は多くの人が撮影に興じることも予想できる。

 同館のマルティネ・ゴッセリンク館長は、「当館にとって、この『少女』の旅は、日本の皆さまに彼女を送り届けられる、おそらくは最後となるであろう特別な機会です」とメッセージを寄せている。国内で本作を目にする機会がこれで最後になるかもしれないことを考えれば、この再来日自体は非常に価値のある出来事と言える。

 今回のこの再来日は、マウリッツハイス美術館の改修工事による臨時休館に伴い実現したものだ。通常、海外の美術館から作品を招聘する際は3年ほどの準備期間を要する。しかし本展においては、大阪中之島美術館が、2025年に主催の朝日新聞社から相談を受けたことをきっかけに、急遽企画が動き出したという。美術館側の展覧会スケジュール編成のタイミングと重なり、昨年の秋冬に開催が急遽決定。複数回にわたる会場視察を重ね、異例の速さでこの展覧会が結実したという。

17世紀オランダ絵画の名品

 フェルメールの前段となる、展覧会前半のパートも紹介したい。ここは「歴史画」「肖像画・トローニー」「風俗画」「静物画」「教会内景画」「風景画」という6つの章で構成されており、マウリッツハイス美術館側の選定により厳選された作品が各章1〜2点ずつ、計10作品紹介されている。日本初来日となる作品は全4点だ。

左:セイザル・ファン・エーフェルディンヘン《正直者を探すディオゲネス(ある家族の擬意的肖像画)》(1652)キャンバスに油彩 64×97.5cm、右:ピーテル・ラストマン《ラザロの復活》(1622)板に油彩 75.9×103.6cm マウリッツハイス美術館

 「歴史画」では、レンブラントに大きな影響を与えたとされるピーテル・ラストマンの《ラザロの復活》(1622)に加え、セイザル・ファン・エーフェルディンヘンの《正直者を探すディオゲネス(ある家族の擬意的肖像画)》(1652)が並ぶ。両作品とも来日するのは初めてだ。

レンブラント・ファン・レイン《笑う男》(1629〜30年頃)油彩、金箔で覆った銅 15.3×12.2cm マウリッツハイス美術館

 「肖像画・トローニー」では、フェルメールと並び17世紀オランダ美術を代表する芸術家、レンブラント・ファン・レイン(1606〜69)の《笑う男》(1629〜30頃)が紹介されている。肖像画やトローニーの名手として知られるレンブラントの若き日の傑作であり、小ぶりな画面でありながら、金箔を貼った銅板を支持体に用いた実験的な手法や大胆な筆致など、後年のスタイルへとつながる絵画の要素が凝縮されている。

ヤン・ステーン《老いが歌えば若きが笛吹く》(1663〜65頃)キャンバスに油彩 83.8×91.9cm マウリッツハイス美術館

 「風俗画」では、賑やかな群像画で知られる巨匠ヤン・ステーン(1629〜79)の《老いが歌えば若きが笛吹く》(1663〜65頃)が登場。本作は、「老人が歌うように、若者は笛を吹く」というオランダの諺を題材に、世代を超えた家族が音楽や酒、喫煙を楽しむ姿を描いたもの。ステーンの全盛期にあたる1660〜70年代に制作された代表作で、力強い構図と細やかな人間味あふれる描写は、当時から高い評価を受けてきた。

マリア・ファン・オーステルウェイク《装飾的な壺の花》(1670〜75頃)キャンバスに油彩 62×47.5cm マウリッツハイス美術館

 「静物画」の章では、当時としては珍しくヨーロッパ全域で高い名声を獲得した女性画家マリア・ファン・オーステルウェイクによる《装飾的な壺の花》(1670〜75頃)を展示。神を象徴するヒマワリ、闇を表すケシ、神への服従を示すヴィーナス像などが配置され、作中に宗教的なメッセージが込められている。タイムやトリカブトといった当時めったに描かれなかった珍しい植物の描写も見どころだ。

 久々の《真珠の耳飾りの少女》の来日ということもあり話題となっている本展だが、いっぽうで作品数12点に対して一般チケット3000円という高額の設定や、抽選制による鑑賞枠の制限など、鑑賞に至るまでのハードルの高さも感じずにはいられない。展示規模と価格のバランス、そして展示を見たくても見られない人が多く生まれてしまう構造には、課題があるとも言えるだろう。

 特定の目玉作品に大きな注目が集まる大型展覧会において、いかに充実した鑑賞体験と開かれた空間を両立させていくか。本展は、17世紀オランダ絵画の魅力を伝えるとともに、これからの展覧会のあり方を考える契機にもなり得るだろう。