2025.10.16

大阪中之島美術館で「拡⼤するシュルレアリスム 視覚芸術から広告、ファッション、インテリアへ」が開催

大阪中之島美術館で「拡⼤するシュルレアリスム 視覚芸術から広告、ファッション、インテリアへ」が開催される。会期は12月13日〜2026年3月8日まで。

ルネ・マグリット《王様の美術館》 1966年 横浜美術館
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 大阪中之島美術館で「拡⼤するシュルレアリスム 視覚芸術から広告、ファッション、インテリアへ」が開催される。会期は12月13日〜2026年3月8日まで。

 シュルレアリスム(超現実主義)は、1924年にアンドレ・ブルトンが定義づけた動向で、無意識や夢に着⽬した、フロイトの精神分析学に影響を受けて発⽣した。当初は⽂学における傾向として起こったものだが、徐々にその影響は拡⼤し、オブジェや絵画、写真・映像といった視覚芸術をはじめ、広告やファッション、インテリアへと幅広く展開した。

 ブルトンの定義によれば、シュルレアリスムとは「これまで無視されてきたような種々の連想における⾼次のリアリティと、夢の全能性への信頼に基づく」もの。こうした独⾃の世界観に裏打ちされたシュルレアリスムは、芸術的⾰命をもたらしたものの、共産主義やアナーキズムなど、政治的要素をも内包するものでもあった。いっぽうで、広告やファッション、インテリアなど⽇常に密接した場⾯にも広がりをみせ、社会に対して政治、⽇常の両⾯から影響を与えたともいえる。

 本展は、サルバドール・ダリマックス・エルンストルネ・マグリットをはじめとするシュルレアリスムを代表する作家たちの作品を含め、⽇本国内に所蔵されている多様なジャンルの優品を⼀堂に会し、シュルレアリスムの本質に迫ることを目指す。さらに表現の媒体をキーワードとして解体し、シュルレアリスム像の再構築を試みるものとなる。

 本展は全5章で構成される。第1章は「オブジェ―『客観』と『超現実』の関係」。シュルレアリスムとは、私たちが疑うことなく現実だと認識しているもののなかから、より上位の現実である「超現実」を露呈させること。あらゆる事象を、客体(=オブジェ)として見つめることで「超現実」と向き合ったシュルレアリストたちのオブジェが紹介される。

アンドレ・ブルトン『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』(初版本) 1924年 岡崎市美術博物館
フランシス・ピカビア《黄あげは》 1926年 大阪中之島美術館

 第2章「絵画―視覚芸術の新たな扉」では、文学的な実験に由来するシュルレアリスムの技法「自動筆記」(オートマティスム)による絵画作品に焦点が当てられる。エルンスト、マグリット、デルヴォー、ダリなどの作家による、人の深層心理や夢想を反映した不可思議な光景や人物像が描かれた作品が展覧される。

ルネ・マグリット《レディ・メイドの花束》 1957年 大阪中之島美術館
イヴ・タンギー《失われた鐘》 1929年 豊田市美術館

 第3章「写真―変容するイメージ」では、写真表現によってシュルレアリスムに向き合った作家の作品に迫る。19世紀前半に誕生した写真術は、被写体をそのまま写すという本来の役割を超えて、20世紀美術を彩る主要な表現のひとつとなった。マン・レイを筆頭に、各国の芸術家が挑戦した多彩な写真表現が紹介される。

ヴォルス《美しい肉片》 1939年 個人蔵

 第4章「広告―『機能』する構成」からは、オブジェ、写真、絵画といった芸術と呼ばれる領域から、さらに広く目を向けシュルレアリスムを拡大する。デペイズマンやコラージュ、フォトモンタージュなどシュルレアリスムにおいて多用されたテクニックを発揮した広告に注目する。

クルト・セリグマン《国際シュルレアリスム展》 1938年 サントリーポスターコレクション(大阪中之島美術館寄託)【後期展示】
フリッツ・ビューラー《ポスター「ジオデュの帽子」》 1934年 宇都宮美術館【後期展示】

 第5章「ファッション―欲望の喚起」は、シュルレアリスムとモード、ファッションとの関係に迫った構成となる。服飾そのものや服飾雑誌にシュルレアリスム的手法が用いられるだけでなく、服をまとうマネキンを身体のオブジェ化としてとらえるなど、シュルレアリストたちのインスピレーションの源ともなった。なお本章では、シュルレアリストたちとの交流が深かったデザイナー・スキャパレッリの作品も紹介される。スキャパレッリの代名詞ともいえるショッキング・ピンクのドレス(イヴニング・ドレス「サーカス・コレクション」、島根県立石見美術館所蔵)をはじめ、独自のデザインが施された香水瓶やジュエリーなど、多岐にわたるスキャパレッリ作品も見どころのひとつ。

エルザ・スキャパレッリ《イヴニング・ドレス「サーカス・コレクション」》 1938年 島根県立石見美術館【前期展示】
エルザ・スキャパレッリ《香水瓶「スリーピング」》 1938年 ポーラ美術館

 最後の第6章「インテリア―室内空間の変容」では、家具に焦点が当てられる。違和感を引き起こして現実に揺さぶりをかけるシュルレアリスムにとって、日常生活の場である室内の安定した秩序を転覆させることには大きな意味があった。本章は、家具を奇妙なオブジェに置き換えることで、シュルレアリスムによる空間への関与に挑戦した動きについて紐解く内容となる。

 なお本展の関連イベントとして、速水豊(三重県立美術館長)を迎えた講演会「シュルレアリスムと『偶然の出会い』?―コラージュ・オブジェ・日本」や担当学芸員によるギャラリートークも開催される。