2025.10.2

バルセロナのガウディ建築カサ・バトリョに現代アート空間誕生。2026年1月開館へ

バルセロナの世界遺産「カサ・バトリョ」が、新たに現代アート専用スペースを開設する。モデルニスモ建築の傑作として知られるこの邸宅の2階が改装され、2026年1月31日より一般公開。建築の記憶を生かしながら、国際的なアーティストの展覧会を年間2本開催する予定だ。

文=貝谷若菜

カサ・バトリョ 正面ファサード
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 バルセロナのカサ・バトリョは、1877年に建てられ、1904〜6年にかけてカタルーニャ出身の建築家アントニ・ガウディによって大規模に改築された邸宅である。モデルニスモ建築の傑作として知られ、2005年にはユネスコ世界遺産に登録された。年間190万人以上が訪れるヨーロッパ有数の観光名所でもある。

 そのカサ・バトリョの2階、約230平方メートルのスペースが、2026年1月31日から現代アートスペースとしてはじめて一般公開される。かつては住居や保存・修復作業場として使われてきたこの空間を改装・再設計したのは、バルセロナ拠点の建築事務所Mesura。年間2本の現代美術展を開催するギャラリーとして、同市の新たな文化拠点となることを目指す。

 改装では、ガウディ建築の特徴である木工細工やステンドグラスを丁寧に保存しつつ、建築的記憶と現代美術創造の交差点として空間を再構築している。最大の見どころは、静かな湖面に水滴が落ちて広がった波紋を思わせる同心円模様をスクリーンプリントした、曲線的な金属天井である。ロボット技術を駆使して制作されたこの天井は、構造的要件を満たしながら、空間に個性を与えている。

Graphic Study of Casa Batlló Façade Mapping Image courtesy of United Visual Artists

 「ガウディ建築に介入することは夢であると同時に、大きな責任でもあります。私たちの目標は、彼の作品に響き合う“ささやき”を加え、その宇宙を損なうことなく広げることでした」とMesuraのパートナー、カルロス・ディマスは語る。

 このスペースのオープニングを飾るのは、マット・クラーク(Matt Clark)が設立したロンドン拠点のアート集団「ユナイテッド・ヴィジュアル・アーティスツ(United Visual Artists/UVA)」による展覧会「Beyond the Façade」である。アート、建築、テクノロジーを融合させた作品で知られるUVAは、これまでにロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ、山口情報芸術センター(YCAM)、シドニー・ビエンナーレなどで作品を発表してきた。

Matt Clark Image Courtesy of United Visual Artists Photo by Anne Ray

 今回の展示では、光と動きを通じて人生の様々な循環を探究し、来場者が作品のなかに自らの姿を見出せるような体験を創出する。さらにクラークは、毎年恒例となっている同館のファサード・マッピング公開イベント(今年はで5回目)のアーティストにも選出されており、展覧会の序章として新作のファサード作品を発表する予定だ。

 カサ・バトリョは2021年以降、没入型の文化体験を積極的に導入してきた。建築を模範的に修復しつつ、最先端のテクノロジーを融合させることでガウディの幻想的な空間を拡張させる先駆的な試みは、国際的に高く評価され、これまでに40以上の賞を受賞している。

 これらの取り組みは、同館のアート・プログラム「カサ・バトリョ・コンテンポラリー(Casa Batlló Contemporary)」の一環として行われている。アーティストが館と協働し、ガウディの遺産を再考・再解釈することを目的とするプロジェクトだ。

 2026年は建築家アントニ・ガウディの没後100年にあたる節目の年であり、本計画は同館にとっても特別な意義を持つ。カサ・バトリョ・コンテンポラリーのディレクター、マリア・ベルナットは次のように語る。

 「カサ・バトリョ・コンテンポラリーは、過去と未来の対話を育み、アントニ・ガウディの遺産を現代的な枠組みのなかに位置づけることを目指しています。アートと建築を通じて彼の急進的なビジョンを探究し、革新と破壊精神に忠実でありながら、バルセロナのダイナミックな芸術的風土と結びつけていきます」。

 新ギャラリーの誕生は、カサ・バトリョが「厳格な保存」と「文化的革新」という二重の使命に挑んでいることを示すものでもある。来場者はカサ・バトリョ全体の見学ルートの一部として、あるいは当スペース専用のチケットを購入して入場することができる。