「CURATION⇄FAIR」の第2部「Art Kudan」が開幕。ローカルフェアだからこそのインパクトを狙う
3月3日まで開催された展覧会「美しさ、あいまいさ、時と場合に依る」に続き、新たなアートイベント「CURATION⇄FAIR Tokyo」の第2部となるアートフェア「Art Kudan」が東京・九段のkudan houseで始まった。会期は3月11日まで。
東京・九段にある一般非公開の登録有形文化財「kudan house」を舞台に行われる新たなアートイベント「CURATION⇄FAIR Tokyo」。その第2部となるアートフェア「Art Kudan」がスタートした。
第1部の展覧会「美しさ、あいまいさ、時と場合に依る」(2月22日〜3月3日)では、インディペンデントキュレーター・遠藤水城によるキュレーションのもと、李朝白磁壷や信楽壷などの古美術から、パブロ・ピカソや香月泰男、山口長男、熊谷守一、青木野枝などの近代・現代美術までの多様な作品が展示。第2部では、これらの作品を出品した15軒のギャラリーがそれぞれひとつの部屋を使い、第1部の展示作品の一部に加えて幅広い年代やジャンルの作品を展示・販売している。
例えば、しぶや黒田陶苑はイラン出土の紀元前10世紀の《牛形水注》をはじめ、9〜10世紀の中央アジアの陶磁器を多数展示。大塚美術は平安時代後期(12世紀)の女神坐像や経筒、銀座 古美術宮下は鎌倉時代から室町時代までの絵巻断簡、浦上蒼穹堂は喜多川歌麿や歌川国貞らによる数十点の春画を紹介している。
地下1階では、ギャラリー広田美術によって出品されたパプロ・ピカソのデッサンやベルナール・ビュッフェの油彩画、中長小西によって展示された山口長男の絵画などの近代美術の作品を鑑賞できるいっぽうで、ケリス・ウィン・エヴァンス(タカ・イシイギャラリー)や伊藤慶二(小山登美夫ギャラリー)、カズ・オオシロ、ジェイソン・ベレスウィル(MAKI Gallery)、玉山拓郎、潘逸舟(ANOMALY)などによる現代美術の作品を見ることもできる。
「CURATION」をキーワードに挙げたこのイベント。主催者の川上尚志(ユニバーサルアドネットワーク代表)は次のように話している。「遠藤さんのキュレーションによってひとつの評価軸が形成され、そのうえで各ギャラリーから新たな作品が追加された。これは、初心者コレクターにとっては、どんな作品を買えばいいのか迷ったときの参考になるし、ベテランコレクターにとっては、コレクションに幅と深みを持たせるきっかけにもなる」。
作品の価格は10万円未満から4000万円以上までと幅広く、様々な予算を持つコレクターに適合している。また、古美術から近代・現代美術までの作品を一堂に展示することで、古美術を主に収集しているコレクター、または近代・現代美術を主に収集しているコレクターたちにも、洗練されたキュレーションを通じて異なるジャンルの作品について知り、それを収集する機会を提供している。「結果的に新しいアートマーケットの広がりになるのではないかと思ってわくわく期待している」(川上)。
さらに、同フェアのシニアアドバイザーを務める山本豊津(株式会社東京画廊 代表取締役社長)は、フェアタイトルにある「キュレーション」とは会場で展示されている作品のキュレーションを意味するだけでなく、購入者自身のコレクションがひとつのキュレーションを構成することを指すという。同フェアを通じて作品を購入する際に、それが美術史においてどのような文脈を持っているかということをもっと意識してもらいたいと期待を寄せている。
旧山口萬吉邸の居住空間であった会場に作品を展示することで、コレクターは作品を自宅に展示することを想像しやすい。また、Satoko Oe ContemporaryやMISAKO & ROSENのように、展示台を使わずに作品を本来の家具に置いて展示したり、窓の外の庭を借景したりすることで、従来のアートフェアにはない鑑賞体験も生み出されている。しかし、このユニークな空間だからこそ、会場には同時に多くの人を収容することができるとは言えない。
これが作品販売に影響を与えるのか、と川上に尋ねたところ、楽観的な答えが返ってきた。同フェアの会期は4日間と短いものの、第1部の展覧会の10日間以上の会期を含めれば、イベントの前半ですでに集客効果を上げており、そこで興味を持った作品を見つけたコレクターは、再びフェアに足を運んで作品を購入する可能性が高いという。
アジア各国で国際的なアートフェアが増え、日本のアートマーケットのガラパゴス化が懸念されるなか、川上は「ローカリズムを積極的に見せていくことが、僕は最大のグローバル化につながると考える」と断言する。「僕らが海外に出ていくのはいろんな意味で大変だが、これだけ多くの人が日本に来ているので、このようなイベントは僕なりのグローバル化に対する日本のアートシーンのプレゼンテーションだと思っている」。
川上は、同イベントは今後も継続的に開催していくことを明らかにした。歴史的建造物であるkudan houseのユニークな空間で、「キュレーション」に焦点を当てることで様々な角度から新たな美術の流れを生み出すことを試みるこのイベントが、日本のアートマーケットにどのようなインパクトを与えるのか、今後も注目していきたい。