2025.11.28

「KOGEI Art Fair Kanazawa 2025」が開幕。高まる「工芸」への熱視線

工芸に特化したアートフェア「KOGEI Art Fair Kanazawa 2025」が、石川・金沢で開幕を迎えた。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

もっとも注目したいルンパルンパのブース
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工芸が持つ広がりに注目

 日本で唯一、工芸に特化したアートフェア「KOGEI Art Fair Kanazawa」が9回目の開催を迎えた。

 2020年には金沢に国立工芸館が開館し、同年から工芸に特化した芸術祭「GO FOR KOGEI」がスタート。また23年には日本を代表する金融会社・株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループが「MUFG工芸プロジェクト」を発足させるなど、国内において工芸に対する関心は高まりを見せている。

 そうした背景のなか、9回目の開幕を迎えた同フェア。2017年の初開催以来、来場者数や販売額、出品作家ともに年々増加を見せている。2024年は国内外40ギャラリーが出展し、アーティスト約210名の作品を展示販売した。今年はさらに出展者が増え、現代アートや工芸を扱う全国の40ギャラリーに韓国、台湾を加えた総勢42ギャラリーが参加(うち8ギャラリーが初参加)。約200名(組)の2000点を超える作品が購入可能となる。

 会場となるハイアット セントリック 金沢は、金沢駅に隣接する好立地だ。ホテルの客室を舞台とすることで、来場者が部屋に実際に飾ったときのイメージがしやすい。また作品は数千円のものから用意されており、初めてアート作品を買う人にとっても手が届きやすい価格帯だ。

KOTARO NUKAGAは地村洋平の錫を取り込んだガラス作品に注目

 KOGEI Art Fair Kanazawa ディレクターを務める薄井寛(株式会社ノエチカ)は、「セールスも毎年上がり続けており、回を重ねるごとに、新しい工芸が認知されている。支える人のパイが大きくなっている印象だ」と語る。「『工芸』というワードを聞く機会も増えてきた。工芸に対する印象も変わってきたのではないか。今後は海外ギャラリーももっと参加してもらえるようなフェアにできれば」。

 また同フェアのアドバイザーを務める秋元雄史(東京藝術大学名誉教授)は、工芸における技術継承の厳しさは依然として存在するものの、「伝統技法を活用し、アーティストたちがそれぞれの独創性を加えた豊かな作品が生まれてきている。工芸が持つ広がりに注目が集まっている」と希望を覗かせた。

注目のギャラリーは?

 今回の出展ギャラリーは以下の通り。そのなかから、とくに注目したいギャラリーを紹介したい。

hide gallery(東京)、GALLERY NAO(東京、初参加)、⽩⽩庵(東京)、和⽥画廊(東京)、⼩⼭登美夫ギャラリー(東京)、しぶや⿊⽥陶苑(東京)、KOGEI Art Gallery 銀座の⾦沢(東京)、Art+Craft Gallery 蚕室(東京)、春⾵洞画廊(東京)、TARO NASU(東京)、SHUKADO+SCENA(東京)、KOTARO NUKAGA(東京)、レントゲン(東京)、ルンパルンパ(石川)、atelier&gallery creava(|⽯川)、カフェ&ギャラリーミュゼ(⽯川)、⼭ノ上ギャラリー(⽯川、初参加)、ガレリアポンテ(⽯川)、ArtShop ⽉映(⽯川)、縁煌(⽯川)、悠遊舎ぎゃらりぃ SAPPORO(北海道)、⽥⼝美術(岐⾩)、GALLERY CLEF(岐阜)、多治⾒市⽂化⼯房ギャラリーヴォイス(岐⾩)、GALLERY IDF & mini(愛知)、GALLERY ⿓屋(愛知)、GALLERY BORDER(愛知・初)、art gallery Komori(愛知)、ギャラリーMOS(三重)、COMBINE/BAMI gallery(京都)、芦屋画廊 kyoto(京都)、padGALLERY(⼤阪)、アトリエ三⽉(大阪・初)、*サロンモザイク(⼤阪)、⽥中美術(兵庫)、川⽥画廊(兵庫)、GALLERY CLASS(奈良)、3ta2 SANTANI GALLERY(愛媛)、モノノアハレヲ(福岡)、GalleryLVS & CRAFT(韓国)、ギャラリー・コロンビ / ⽺画廊(韓国 / 新潟・初)、ARTISTS IN TAIWAN(台湾・初)。

 2階の会場入口脇に巨大なスペースを構えるのは多治見市文化工房ギャラリーヴォイス。「やきものの現在 土から成るかたち」と題し、9名の作家を一堂に紹介する。有機的なフォルムが目を引く川浦紗季や、マルティン・ロサ、鄭廈縣といった多治見市陶磁器意匠研究所で学ぶ若手までを揃えた。

 初回からこのフェアに参加している多治見市文化工房ギャラリーヴォイス。エグセクティブディレクターの川上智子は本フェアについて、「工芸を広めるという意味でこのフェアには期待をしている。なるべく工芸の多様性を見せたい。世の中の工芸に対する注目の高まりとともに海外の顧客も増えている」と語る。

川浦紗季の《夢うつつ》《甘誘する存在》
マルティン・ロサの作品群
鄭廈縣の《土生Ⅰ》

 小山登美夫ギャラリー今年、岐阜県現代陶芸美術館で大規模個展を開催した伊藤慶二や、現在の日本のペインティングを語るうえで欠かせない工藤麻紀子の作品を紹介。とくに工藤が本フェアのために制作した、木のブロックに絵を描いた作品はペインティングとは異なり、手に取りやすい価格帯も非常に魅力的だ。

小山登美夫ギャラリーのブース
工藤麻紀子の作品は人気を博しそうだ

 金沢のガレリアポンテは、同じく金沢で活動する4名の女性作家を紹介。グラマラスなシェイプをもつ竹村友里、五月女晴佳の造形作品と、化粧をテーマにした沖田愛有美、蒼野甘夏の絵画がリンクする。

ガレリアポンテのブース

 若手作家を中心に紹介するatelier&gallery creava。ここでは様々な文化を取り込み、プリミティブな造形を紐作りの技法を用いて生み出す、やまわきてるりの作品が存在感を放つ。

左がやまわきてるりの作品群

 コンセプチュアル・アーティストを数多く取り扱うことで知られるTARO NASUは、ライアン・ガンダーや中井波花らの作品をメインに展開。代表の那須太郎はこのフェアに参加する意義について、「工芸とアートの境界にいる作家を紹介できる。アーティストと工芸作家とのコラボレーションを見せることができる場であり、作家もギャラリーも真剣に「遊べる」フェアとして楽しんでいる」と話す。

TARO NASUのブース。ベッドにはライアン・ガンダーの「旗」が広がる

 白眉となるのは、石川の現代アートギャラリー・ルンパルンパだろう。これまで実験的な場を数多く企画してきたルンパルンパ。今回は、REVOLVE COLLECTIVEによる《Anthropocene Relic 2025:人新世遺物 2025 ─回転する器の溶解地層─》で勝負をかけた。

 本作は、DJプレイで実際に使用したレコードを焼成。レコードを釉薬に見立て、器の表面に焼き付けるというこれまでにない手法で生み出された作品群。音楽の体験をそのままセラミック作品に落とし込むというユニークな発想だ。会場では実際にDJがレコード盤の上で作陶しており、音も楽しむことができる。

作陶中のDJ
ベッドの上には作品が広がる

 「工芸」と一言で括っても、その表現はじつに多様だ。茶碗や湯呑みといった機能を持つものから、オブジェ、あるいはインスタレーションまで、工芸がもつ可能性は幅広い。本フェアは、そうした工芸の多様性と可能性を身近なかたちでプレゼンテーションする場として、大きな役割を担っている。

 ますます工芸への注目度が高まるなか、今後のフェアのさらなる発展にも期待したい。

 なお、本フェアでは上述したMUFG工芸プロジェクトによるラウンジ「MUFG Lounge」が開設されており、作品展示とともに、様々な作家の陶器でドリンクを楽しむこともできる。見る・買うだけでなく、実際に工芸を使う楽しみを味わってみてはいかだろうか。