2025.12.8

「LUMINE ART FAIR -My 1_st Collection vol.4-」開催レポート。初めてのアート作品購入をサポートするアートフェアが目指す未来

11月1日から3日、ニュウマン新宿のルミネゼロで「LUMINE ART FAIR -My 1_st Collection vol.4-」が開催された。初めてアート作品を購入する来場者が多数というアートフェアをルミネが開催する意図とは。

文=中島良平、撮影=Kohichi Ogasahara

会場の様子 
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 駅ビル型商業施設を展開するJR東日本の連結子会社であるルミネが、2010年から展開する「LUMINE meets ART PROJECT(LMAP)」。「アートのある毎日を。」をコンセプトに、アートによるウィンドウの制作やエレベーターのラッピング、公募によるアワードの実施、大山エンリコイサム松山智一といったアーティストの個展を開催するなど、多様なプログラムを実現してきた。そのLMAPが2019年、満を持してスタートしたアートフェアが「LUMINE ART FAIR -My 1_st Collection」だ。 

 コロナ禍での中断を挟み、今年で第4回を迎える同フェアのディレクターを務めるのが、ニューヨークのギャラリー「Nowhere」と東京のギャラリー「Otherwise Gallery」でディレクターを務める、ギャラリストの戸塚憲太郎だ。「LMAPでずっとアートを見せる活動をしてきたので、ルミネのお客さまに、初めてのアート作品を購入していただける場をつくれないか」という発想から、このフェアをスタートしたという。

戸塚憲太郎

 「初めて購入してもらうために、敷居をできるだけ下げたいと考えています。会場にはアーティストに立ってもらい、お客さまとアーティストが直接コミュニケーションをとってもらうことが、1点目のアートを買うというコンセプトに合っているのではないかと感じています。毎回30人ほどのアーティストに参加してもらっていますが、そのうちの半分は、これまでにウィンドウ制作をやっていただいた方や、館内で展示してくださった方など、ルミネに何かしら関わりのあるアーティストか、このフェアに複数回参加していただいているアーティスト。残りの半分が、初参加の作家さんという割合で構成しています」(戸塚)。

 アート作品を初めて購入する来場者に対して、作品に対する親近感も重要だと戸塚は話す。ルミネやニュウマンの館内で見覚えがある作家の作品がポスターになっていれば、会場のルミネゼロに足を運ぼうと思うだろうし、初めて買った作家が次の年も参加していたら、リピーターとなって新しい作品もチェックしようとなるだろう。

 また、新宿駅に直結した商業施設で開催されているので、純粋に駅の利用客や、アパレルブランドのテナントや飲食店を目的に来た方が、ふと立ち寄りたくなるアートフェアを目指しているため、入場料は無料であり、開かれたアートフェアであることが最大の特徴となっている。2023年より3度目の参加となる都築まゆ美は次のように語る。

 「普段のアートフェアやギャラリーだと、アート好きな方がアートを目的に来場されますが、このフェアはおしゃれな若いお客さんがとても多いと思います。初めてのアート作品の購入だというお客さんにも出会えて、そのあとにインスタグラムを見て展覧会に来てくださったり、次につながる出会いがあるフェアとしてもいい機会だと思っています」。

都築まゆ美の作品(一部)

 都築のように絵画を展示している作家もいれば、デジタル画像のレタッチ技術を駆使して都市風景からノイズを消し去り、「TOKYO NUDE」シリーズを展開する安藤瑠美のように写真作品を展示する作家もいる。あるいは、昭和の花柄の毛布を用いて立体作品を手がけ、2015年に第18回岡本太郎芸術賞で特別賞を受賞した江頭誠や、船大工の家に生まれ、実家の木の端材を用いて作品を手がけるEMUなど、立体作品を手がける作家も参加しているように、ジャンルも様々な作品が集まっている。そして、2023年より3度目の参加となる前田麦の「取説:operating instructions」シリーズは、絵とデザインの要素を取り入れた独自の作品だ。

 「簡単に言うと、プロの小学生の教科書の落書きみたいな感じですね(笑)。国内外のいろいろなマニュアルを集めて、そこに落書きをすることで新たなストーリーを生み出すという手法で描いています。今日も初めて会ったお客さんに購入していただいたのですが、作品のコンセプトを説明したら面白がってくれて、自分がつくったEYE OF FIREというキャラクターを大きく描いた作品を選んでもらいました」(前田)。

前田麦の作品

 空想の物語を綴り、そのファンタジーの世界を絵で表現する花梨は、今回初出展。アートフェア自体の参加が初めてであり、参加作家から大きく刺激を受けているという。

 「オープン前に、それぞれの作家さんのブースを周り、皆さんからコンセプトなどを説明していただくツアーが行われました。どうやってプレゼンテーションをしたらよいのかすごく勉強になりましたし、いろいろなジャンルの作家さんとつながりができる場なので、ステップアップできるきっかけにもなると感じています」(花梨)。

花梨の作品(一部)

 ディレクターを務める戸塚は、海外の作家にも参加してもらいたいと考えており、今年は台湾から2名が参加している。コーディネートを行ったのが、台湾で丸久藝術空間館を経営する姜均叡だ。

 「今回は、ペットとして飼っているうさぎと蛇を、自分が好きなデザートや和食と組み合わせて描く陶羽潔さんと、コンクリートとアクリルをメインの素材とする、張庭溦さんに参加していただきました。2人とも日本での展示が初めてなので、ルミネアートフェア運営メンバーにもサポートいただいて、参加作家の方や日本のお客さんとの交流の場としてもいいチャンスになるのではないかと思っています」(姜)。

会場の様子
会場の様子

 このフェアの特徴のひとつが、4名のコンシェルジュの存在だ。購入の方法や、作家の紹介、作品の説明から、家での飾り方の提案や購入後の保管方法の案内まで、来場者の購入を全面的にサポートする。商業施設であるルミネだからこその来場者への気配りだとも思えるが、初めてアートを購入する来場者にとっては、非常に心強い存在だ。

 「ギャラリーに入って、シーンとしていて挨拶もなかったりすると、お客さまにとって失礼ですし、アートに興味をもった人に対しても、購入へのハードルを上げてしまうと思うんです。作品の値段を聞くのもはばかられますよね。お客さまがわからない情報を提供するために、コンシェルジュの存在は非常に重要だと考えています。それと、私が1日2回の会場ツアーを行って、展示の説明や作家の紹介をしているのですが、そこに参加していただければ、気軽に作家さんと話してもいいんだということもわかり、初めてアートを買おうというお客さんのハードルも下がるはずです。とにかくはじめてのアートを購入するハードルを下げたいと思い、そのための工夫はできるだけしています」(戸塚)。

 作品の展示販売がこのフェアのメインコンテンツだが、会場入口には、ミュージアムショップのようにアートにちなんだグッズを販売するスペースや、オリジナルのクラフトビールやコーヒーが飲めるカフェスペースもある。そして、アーティストが行うワークショップも、来場者とアートの関係を近づけるために機能している。今回、ワークショップを実施したアーティストのBoojilは、「大人も子供も関係なく、固定概念を取り払って、自由に描くことを楽しんでほしい」と話す。

Boojilのワークショップの様子

 「前に別の会場でワークショップに参加してくださった60代の方が、今日もいらっしゃったのですが、もう45年も絵を描くのが苦手だと思っていたのが、絵具も買い、最近は絵を描くのが習慣になったと言っていたんですね。それは本当に嬉しかったです。絵は私にとってコミュニケーションツールだと思っているので、対話が生まれるきっかけにもなりますし、ワークショップを行ったり、こういうフェアに出展したりすることで、日本に絵を飾る習慣が広がっていけばいいなと思っています」(Boojil)。

 毎回のアートフェアを終えると、よかった点、改善すべき点などを話し合い、次回のアップデートへとつなげていく。「LUMINE ART FAIR -My 1_st Collection」が続いていけば、常連客も増え、多くの人々の日常にアートが添えられていくだろう。誰もが気軽にアート作品を購入し、家に飾ることで日常を彩る習慣が共有される、豊かな社会が生まれるはずだ。そんな未来を「LMAP」が想像させてくれる。

会場の様子(副産物産展による廃材を再活用したオブジェ)