「須藤玲子:NUNOの布づくり」(水戸芸術館現代美術ギャラリー)が開幕。テキスタイルのもつ多彩な可能性を感じとる
テキスタイルデザイナー・須藤玲子と彼女が率いるテキスタイルデザイン・スタジオ「NUNO」の活動を紹介する大規模展覧会「須藤玲子:NUNOの布づくり」が、水戸芸術館現代美術ギャラリーでスタートした。本展の見どころをレポートする。
国際的に評価されているテキスタイルデザイナー・須藤玲子。須藤と、須藤が率いるテキスタイルデザイン・スタジオ「NUNO」の活動を紹介する大規模展覧会「須藤玲子:NUNOの布づくり」が、水戸芸術館現代美術ギャラリーで開幕した。会期は5月6日まで。
本展は、2019年に香港のアートセンター・CHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile)で企画・開催され、その後、イングランド、スコットランド、スイス、そして国内では丸亀市猪熊弦一郎現代美術館を巡回してきたもの。須藤と「NUNO」の40年にわたる活動をテキスタイルが生まれる過程やその着想源をつまびらかにしながら紹介し、普段見ることのできないテキスタイルづくりの舞台裏を豊富な資料や映像、音響を組み合わせたインスタレーションで展覧している。
本展の企画は高橋瑞木(CHAT館長兼チーフキュレーター)、企画担当は後藤桜子(水戸芸術館現代美術センター学芸員)。高橋は本展の開幕にあたり、須藤を次のように評価している。
「須藤玲子は非常に突出して素晴らしいテキスタイルデザインをつくり上げている。そのデザインは、『きびそ』という捨てられてしまうシルクのマテリアルを使ったり、自分が使ったテキスタイルを裁断し、新しいものに組み合わせてつくり上げたり、あるいは日本各地に散らばった家族経営のテキスタイル工場から大規模な工場まで、マテリアル技術のすべての可能性を引き出したりしている」。
また、本展の特徴について高橋はこう続ける。「今回のテキスタイル展覧会として珍しいのは、完成されたテキスタイルが主役ではなく、須藤さんとNUNOチームのテキスタイルデザインの秘密を全部披露していただいた展覧会だということ。着想源からそれがどうやって織り上がったりプリント技術を使ったりして完成し、どうのようにインスタレーションや建築のなかに使われるかということまで、NUNOのテキスタイルの一面を見ていただくことができる」。
展示室入口付近の吹き抜けでは、須藤が建築家・磯崎新(1931~2022)へのオマージュとして、同氏設計による同館のシンボルタワーをモチーフにデザインした新作テキスタイルを初公開。最初の展示室では、NUNOの重要なインスピレーションの源となる、須藤が1980年代から収集してきた様々な時代や素材、色の古布が集まる。これらの布を取り囲んで展示されているのは、全国26の織物・染物産地から取り寄せた444種類の布をつなぎ合わせた巨大な幔幕で、鑑賞者を布づくりの世界へと誘う。
こうした過去と現在をつなぐ展示について高橋は、「昔といまが断絶しているのではなく、昔の伝統をリスペクトしながら、どんどんアップデートしていくというところを見せたい」と説明している。
続く細長い展示室では、NUNOを代表する7種類のテキスタイルデザインの素材やドローイング、モックアップ、そしてジャカード織機で図柄を織るために用いられる数千枚の紋紙が展示。先に進むと、NUNOのテキスタイルづくりの舞台裏を音や映像による演出とともに紹介し、工場での生産の様子を再現した様々なインスタレーションが出現する。
最後の展示室では、これまでにワシントンD.C.のジョン・F・ケネディ舞台芸術センターやフランスのギメ東洋美術館、東京の国立新美術館などで展示されてきた、空間デザイナーのアドリアン・ガルデールによって考案され、NUNOオリジナルテキスタイルを用いたインスタレーション《こいのぼり》が同館の特徴的な展示空間を泳ぐ。今回は、水戸藩に由来する染色技法「水戸黒」の再生に取り組む水戸市内の職人とともに特別に制作された「こいのぼり」の展示のほか、須藤にとって初めて同作の屋外展示も実現された。
本展について、須藤は次のようなコメントを寄せている。「私たちのテキスタイルづくりは、ひとりではできなくて、糸をつくる人、染める人、織る人、仕上げる人、そして補正をして縫う人、いろんなかたちで多くの方々の手を経て仕上がっている。それがこの展覧会で私たちが一番伝えたかったことだ」。
人類の歴史のなかでもっとも古い工芸品のひとつであり、誰もが日常的に使っているものであるテキスタイルだが、それに関する様々なデザインや技術はあまり知られていない。ぜひ本展を機に、NUNOのテキスタイルづくりを通じてテキスタイルのもつ多彩な可能性を堪能してほしい。