2024.7.21

「浅間国際フォトフェスティバル2024 PHOTO MIYOTA」開幕レポート

2018年にスタートした「浅間国際フォトフェスティバルPHOTO MIYOTA」が、今年5回目の開幕を迎えた。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

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 自然豊かな長野・御代田町。ここにある複合施設MMoP (御代田写真美術館=Miyota Museum of Photography)」で「浅間国際フォトフェスティバル 2024 PHOTO MIYOTA」が始まった。

 「浅間国際フォトフェスティバルPHOTO MIYOTA」は2018年にスタートし、今年で5回目。昨年は過去最多となる約3万人の来場者を迎えた。会場となるMMoPは、かつてのメルシャン軽井沢美術館の建物を中心に、衣食住と多様な写真表現を楽しむ複合施設。ここを舞台に、屋内外で世界各地から集まった17組の写真表現を楽しむことができる。

会場風景より、サンドラ・カンタネンの《Smokeworks》

 ロエベ財団がメインスポンサーを務める今回のテーマは、「Memories Through Photography 写真の中の記憶」。これは写真を記録媒体であると同時に記憶の装置であると考えるもので、本フェスティバルでは世界の写真家たちの視点を通し、⼈、⾃然、社会、⺠族やその場所、モノなどがもつ記憶をテーマに、そこに秘められた物語や歴史、思い、問題などを写真であぶり出すことを目指す。

 今回の中心的な存在と言えるのが、会場中心部にある2階建ての巨大な建物で展開されるロエベ財団による展示だ。

 同財団は、昨年から400年以上続く京都の「釜師」大西清右衛門家への6年間に渡る活動支援を行っており、会場にがその大西清右衛門家を題材にした、小見山峻、五十嵐邦之、横浪修による作品の数々が展示されている。

展示風景より

 会場1階の中心には、畳を設えた茶室のような空間が出現。そこには16代 大西清右衛門の茶ノ湯釜を中心に、大西家所有の茶器の数々を横浪の写真とともに見ることができる。またその周囲では、小見山と五十嵐が撮影した、職人としての大西家の姿が展覧。いっぽう2階に並ぶのは、横浪がとらえた大西家の家族としての日常風景だ。大西家の人々と対話するような空間を楽しみたい。

展示風景より
展示風景より
展示風景より

 もうひとつの建物では、カルロス・イドゥン・タウィア、須田一政、カート・トン、鈴木理策の4作家が展示。

 カルロス・イドゥン・タウィアの《Sunday Special》は、作家の記憶と接続するシリーズだ。ガーナでキリスト教を信仰する家庭に育ったタウィアは、自身の家族アルバムを観察し、一般的な視点から「日曜日の日常」を時代考証を踏まえて演出。記憶の中にあるが、いまは届かない心象風景を生み出した。

展示風景より、カルロス・イドゥン・タウィア《Sunday Special》

 カートン・トンの作品《Combing for Ice and Jade》にも注目したい。2018年のアルル国際写真祭でPhoto Folio Awardを受賞した本作は、作家が幼少期から家族同様に過ごしてきた乳母を題材にしたもの。この乳母は、かつての中国で一生独身を貫くと宣言した女性「自梳女(じそじょ)」のひとりだという。本作は、乳母が持っていた8枚だけのポートレイト、乳母が映り込んでいる作家の家族写真などで構成されており、中国の歴史や文化、そして女性の生き方を映し出す。

展示風景より、カートン・トン《Combing for Ice and Jade》

 フェスティバルならでは屋内展示も楽しみたい。

 ベルリン在住のアーティスト・武村今日子が《Taste of Ostalgie》で撮影したのは素朴な食事だ。本作タイトルにある「Ostalgie」とは、旧東ドイツの生活や文化を懐かしむ言葉。本作で武村は食糧不足の旧東ドイツ時代に市民が知恵を振り絞り生み出した独自の料理を再現。庶民の知恵の記憶と言えるものを現代に甦らせた。

展示風景より、武村今日子《Taste of Ostalgie》

 バハラ・シッカの《The Sapper》は、インド陸軍で工兵だった作家の父を被写体にした作品。カースト制度が残るインドにおいて、中産階級に属する父を長期に渡り撮影することで、インドの発展とそれに伴う痛みを個人の姿に託した。

展示風景より、バハラ・シッカ《The Sapper》

 余宮飛翔の《amnesia》は、作家の幼少期の記憶をトリガーとして作成されたもの。複数のイメージを組み合わせて構築し、プリントアウトしたものにカットやレリーフを施し、またデータへと変換するという複雑な過程で成り立っている。

展示風景より、余宮飛翔《amnesia》

 高木康行が見せるのは、1993年から10年間にわたって撮りためたブルックリンの空地の記録だ。2001年のアメリカ同時多発テロを挟み、ジェントリフィケーションによって大きく変化したブルックリン。高木の写真は、かつての街の姿をいまに伝える。

展示風景より、高木康行《BLR: Brooklyn Lot Recordings》

 屋外ではこのほか、世界各地の新聞にマーブリングを施した吉楽洋平の《Formless》や、作者と語り手が同一人物となってフィクションを紡ぐエルザ&ジョアンナの《The Timeless Story of Moormerland》、野湯に人間の身体を介在させた写真を撮り続ける山谷佑介の《ONSEN》、横浪修がライフワークとして続けている、子供を被写体に、フルーツや野菜を身体のどこかに挟んで撮影するシリーズの延長《PRIMAL》、ニコンフォトコンテストの過去受賞作など、多様な写真表現が集まる。

 今年は涼やかな御代田で、写真の世界に浸ってみてはいかがだろうか。

展示風景より、吉楽洋平《Formless》
展示風景より、エルザ&ジョアンナ《The Timeless Story of Moormerland》
展示風景より、山谷佑介《ONSEN》
展示風景より、横浪修《PRIMAL》
展示風景より、ニコンフォトコンテストの過去受賞作