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2024.12.7

「川端龍子+高橋龍太郎コレクション ファンタジーの力」(大田区立龍子記念館)開幕レポート。現代美術の多彩な目で見る川端龍子の「ファンタジー」

日本画家・川端龍子(1885〜1966)の作品と高橋龍太郎の現代美術コレクション作品とを融合させた企画展「ファンタジーの力」が、東京・大森の大田区立龍子記念館で開幕した。会期は2025年3月2日まで。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

展示風景より、加藤泉《無題》(2007-08)
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 東京都現代美術館での大規模展「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」も話題を集めた、日本を代表するアートコレクターで精神科医の高橋龍太郎。そのコレクションを日本画家・川端龍子(1885〜1966)の作品と融合させた企画展「ファンタジーの力」が、大田区・大森の大田区立龍子記念館で開幕した。会期は2025年3月2日まで。

展示風景より、草間彌生《海底》と《自転車と三輪車》(ともに1983)

 本展は、2021年に開催され好評を博した「川端龍子vs.高橋龍太郎コレクション」の続編。今回の展示では、「ファンタジー」をテーマに、高橋コレクションが所蔵する草間彌生李禹煥奈良美智加藤泉丸山直文宮永愛子ら24名の現代アーティストの作品と、川端龍子の日本画が館内のみならず、館と隣接する国の有形文化財・旧川端龍子邸のアトリエ「画室」でも共演する。

 今回の展覧会における「ファンタジー」は「誰もが心に描ける世界」のことであり、本展では他者の物語を大切に想像する時間を本展にて提供することで、混迷の時代におけるより良い生き方を志向することを目指す。また、会場各所には、ブックディレクター・幅允孝がセレクトした、鑑賞者の「ファンタジー」を拡張する契機になるような本を収めた本棚も設置されており、作品との様々な関係性を創出する可能性が提示されている。

 第1章「旅立ち」で、まず目を引くのは会場入口の横幅が7メートルを超える巨大な龍子の作品《花摘雲》(1940)だ。本作は、龍子が太平洋戦争開戦の直前に満州を旅したときの雄大な草原に着想したものであり、龍子が旅を通じて自身の「ファンタジー」を拡げていたことを物語る。

展示風景より、川端龍子《花摘雲》(1940)

 本章では旅行時に龍子が使っていたトランクとともに、宮永愛子によるカバンや鍵を樹脂のなかに閉じ込めたインスタレーション《letter》(2013)も展開されている。龍子が旅した記憶が作品にも持ち物にも染みついていることが、宮永の作品と呼応することで強調された。

展示風景より、宮永愛子《letter》(2013)と川端龍子のトランク

 第2章「そこにいるのは誰?」では、アートチーム・目[mé]の、雲を立体的に切り取ったような作品《アクリルガス T-1919》(2019)や、下半分が鏡のように反転している丸山直文の風景画《Island of Mirror》(2003)など、存在と不在の境界が曖昧になるような作品を展示。

展示風景より、左が目[mé]《アクリルガス T-1919》(2019)
展示風景より、左が丸山直文《Island of Mirror》(2003)

 第3章「土と光、風の物語」では、龍子の《土》(1919)や《日々日蝕》(1958)といった、土や光を感じさせる作品とともに、李禹煥(リ・ウファン)や伊勢周平の絵画、さらに周囲の風景を反射するアクリルミラーを使用した玉山拓郎の作品が並ぶ。いずれも見る人それぞれにとって異なる風景をみせてくれる作品だ。

展示風景より、中央が川端龍子《日々日蝕》(1958)
展示風景より、左が玉山拓郎《5 Shapes(Sally Green)》(2020)

 第4章「夢の領域」で中心となるのは、龍子が岩手・平泉の中尊寺金色堂の奥州藤原氏のミイラから着想を得た作品《夢》(1951)で、棺桶に入ったミイラとともに様々な種類の蛾が描かれている。死者の夢を想起させる本作は、安藤正子の実在感の薄い不思議な雰囲気を漂わせる女性や、池田学の緻密な風景画、大野智史の抽象画とともに、非現実の世界へと見る者をいざなう。

展示風景より、右が川端龍子《夢》(1951)

 第5章「海の物語」では、龍子の《龍巻》(1933)と草間彌生《海底》(1983)、《自転車と三輪車》(1983)の並びが強い印象を残す。海洋生物が自然のエネルギーの塊である竜巻とともに描かれる龍子の海と、強烈な青を用いて絵と立体で表した草間の海、それぞれの海を堪能したい。

展示風景より、右が川端龍子《龍巻》(1933)、左が草間彌生《海底》と《自転車と三輪車》(ともに1983)

 第6章「日々、物語はつづく 〜見慣れた光景、大切なもの」では、奈良美智の描く女の子や猫、あるいは名和晃平の気泡で包まれたようなトランペットやスニーカー、青山悟が刺繍で描いた都市など、日常のなかで身の回りに寄り添うようなものを表現した作品を見ることができる。

展示風景より、右が名和晃平《PixCell-Shoe#4(R)》(2006)

 番外編としては、川端龍子がアトリエとして使っていた、記念館に隣接する邸宅で展示が行われている。とくに、加藤泉による布を使った大型作品《Untitled》(2020)が、室外の庭園の風景と呼応しながら存在感を放つさまは、本展ならではの景色といえるだろう。本邸宅は太平洋戦争中に爆弾が落ち、半壊したという歴史も持つ。龍子の代表作のひとつ《爆弾散華》(1945)はその経験をもとに描かれた作品であるが、こうした龍子の人生の厚みをじっと佇むように感じている加藤の作品は、見るものの様々な感情を呼び起こすはずだ。

展示風景より、加藤泉《無題》(2007-08)

 川端龍子と現代美術家たちの、ここでしか見られないコラボレーション第2段。バリエーション豊かな作品が、龍子の作品、そして人となりまでを改めて再認知させてくれる展覧会となっている。