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2024.12.20

「反復と偶然展」(国立工芸館)開幕レポート。正反対のキーワードから工芸・デザインを読み解く

国立工芸館で、工芸やデザインを特徴づける「反復」「偶然」といった2つの性質に注目してコレクションを読み解く展覧会「反復と偶然展」が開催されている。会期は2025年2月24日まで。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、石田亘《パート・ド・ヴェール蓋物 白寿》(2000)
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 金沢の国立工芸館で、「反復」と「偶然」という工芸やデザインを特徴づける2つの性質に注目し、そのコレクションを読み解く展覧会「反復と偶然展」が2025年2月24日まで開催中だ。担当研究員は三木敬介(同館主任研究員)。

 「反復」と「偶然」は一見相反するキーワードであるが、繰り返しの行為から生み出される偶然性を作品に取り入れたり、はたまた偶然性の複製を試みる行為は工芸やデザインの領域においてよく見られるものでもある。

 本展ではそのような視点から、4つのセクションで作品を紹介している。まず、「反復」をテーマとした第1室では、編み物やステンシルのように規則的な作業工程から生み出されるものや、同じ図柄を連続させた幾何学模様の絵付けが特徴的な工芸作品のほか、スタッキングできるよう同じかたちやサイズに規格化されたプロダクトなどが展示されている。

展示風景より、林尚月斎《花編放射文盛器》(1947)
展示風景より、見附正康《無題》(2019)

 これらはシンプルでありふれた形のように思われるが、反復という行為から生み出される造形や装飾は作家・職人らによる熟練の技があってこそであり、そこには美しさとともに、再現性や効率性といった機能面との両立が目指されたものであることにも注目したい。

展示風景より
展示風景より、芹沢銈介《筍文茶地麻部屋着》(1958)

 第2室では、もうひとつのキーワードである「偶然」をテーマに、自然素材の持つ特徴や、制作の技法・環境などの影響も相まって生み出された作品が紹介されている。コントロールすることが難しい要素をあえて作品として取り込むことで、大胆さや繊細さ、有機的な動きといった、想像を超える表情を実現している。

展示風景より、小川待子《Untitled》(1993)
展示風景より、左から有岡良益《肥松節杢三脚盤》(1987)、青峰重倫《黒柿大鉢》(1985)
展示風景より

 このように、第1室と第2室ではそれぞれのキーワードが強くみられる作品を紹介しているが、反復と偶然性は本来切り離せないものでもある。反復行為のなかから偶然が生まれることもありうるし、逆に偶然性を複製しようとする作家らの挑戦もコレクションのなかには見受けられたという。第3室では、こういった試みがとくに見られる作品が紹介されている。

展示風景より、左から三代德田八十吉《燿彩鉢 連菱》(1993)、中島晴美《WORK-0602》(2006)
展示風景より、小松誠《Crinkle Series スーパーバッグ K1、K2、K3》(1975)など。開口部にシワの入った袋から型をつくり、偶然の形を複製する試みを行っている

 また、本展の関連コーナーでは「反復」を用いることで人々の注目を集めたグラフィックデザイナーの福田繁雄や亀倉雄策によるポスターや、イタリアのアーティストでデザイナーのエンツォ・マーリによる同じ形状を連続させることでつくられた実験的なプロダクトも紹介されている。視覚的な反復表現はリズムを生み出しながらも、その(偶然的な、もしくは意図的な)綻びにはより注目が集まるといった効果もある。

 抽象度の高いテーマ設定ではあるが、だからこそ一見なんのつながりもないようにみえる工芸作品やプロダクト(工業製品)、ポスターを通じて、共通するものづくりの思考に目を向けることもできるのではないだろうか。

展示風景より
展示風景より、エンツォ・マーリによる作品群

 なお、会場内で展示されている作品の一部はミュージアムショップでも販売されている。もし気になるものがあれば、ぜひ手に取ってみるのもよいだろう。