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2025.2.1

「ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト」(森アーツセンターギャラリー)レポート。米国最大規模のコレクションが語る古代エジプト人のいとなみ

米国で最大かつもっとも質の高い古代エジプト美術のコレクションを誇るブルックリン博物館から、よりすぐりの遺物が来日。気鋭のエジプト考古学者・河江肖剰の案内と、最新の調査・研究成果とともにたどる「ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト」が森アーツセンターギャラリーで始まった。これまであまり知られていなかった古代エジプト人の生活が感じられる空間は、映像や音声も加わって新たな感覚を呼び覚ます。

文=坂本裕子

展示風景より、ミイラと棺
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古代エジプト人の生活を感じる

 ニューヨークではメトロポリタン美術館に次ぐ規模を誇るブルックリン博物館の収蔵品は150万点強。なかでも古代エジプト美術のコレクションは、彫刻、レリーフ、絵画、土器、パピルスなどの1200点を超える貴重な作品を擁し、質・量ともに米国最大といわれ、世界的に知られている。

 このコレクションから、宝飾品に人や猫のミイラも含む約150点の名品が集結する「ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト」が森アーツセンターギャラリーで開催中だ。同館の所蔵する古代エジプト美術の遺物が紹介されるのは、およそ40年ぶり。

 エジプト学においては、2022年がジャン=フランソワ・シャンポリオンがヒエログリフを解読してから200周年、ハワード・カーターがツタンカーメン王墓を発見してから100周年にあたっていたが、新型コロナウイルスの世界的蔓延の影響により記念的な展覧会の開催にはいたらなかった。本展は、ポストコロナの日本における初の大規模な展覧会となる。

「1st Stage 古代エジプト人の謎を解け!」展示風景より

 案内役を務めるのは河江肖剰(かわえゆきのり)。最新テクノロジーを使った数々のピラミッドの3D計測調査や、ネクロポリスと思われてきたギザの3大ピラミッドのそばで見つかった、人々が暮らしていた区画遺構「ピラミッド・タウン」の発掘など、様々な考古学調査に携わってきた、気鋭のエジプト考古学者だ。

 本展では、最新の調査・研究の成果とともに、古代エジプト文明の先王朝時代からプトレマイオス朝時代まで、5000年以上にわたって、エジプト全土の各所から出土した遺物が紹介される。そこには、神ともされたファラオの壮大な神殿や墓所を彩ったきらびやかな遺物、ミイラで知られる独特の死生観と葬送儀礼だけではなく、はるか昔に驚くほど高度な文化を生み出しつつ、日々を営んで生きていた人々の姿が浮かび上がる。

「ピラミッド調査研究のいま」展示風景より、ギザの三大ピラミッドの内部構造やドローンによる空撮映像などが見られる

 会場は「生活」「ファラオ」「死生観」で大きく3つのステージに分けられ、それぞれ細かなテーマ設定が、遺物をたどるキーワードとなる。解説のほか装飾パネルも多用されており、家族やグループで楽しみながら回れる空間になっている。

1st Stage 古代エジプト人の謎を解け!

 日本でも人気が高く、過去多くの古代エジプト展が開催されてきたが、意外にも、そこに生き、生活を営んできた人々の姿についてはあまり語られてこなかった。ここでは「日常生活」をテーマに、当時の住居環境や食生活、仕事や身だしなみ、出産と育児など、彼らの日々の暮らしぶりが垣間見える作品を見ていく。多くは貴族階級のものとはいいながら、衣食住と仕事、家族との時間は現代でも共感できる要素だ。同時に、使われているものの多様な素材、優れた造形技術に魅入ってしまう。

「1st Stage 古代エジプト人の謎を解け!」展示風景より、左は《貴族の男性のレリーフ》(前1292~前1075頃)
「1st Stage 古代エジプト人の謎を解け!」展示風景より、右は《ニカーラーとその家族の像》(前2455~前2350頃)
「1st Stage 古代エジプト人の謎を解け!」展示風景より、左から《上流階級の女性の小像》(前1390~前1353頃)、《女性と供物を描いた墓の壁画》(前1539~前1425頃)
「1st Stage 古代エジプト人の謎を解け!」展示風景より、左から《出産の神タウェレトの護符》(前1539~前1479頃)、《授乳をする女性の像》(前1938~前1630頃)

2nd Stage ファラオの実像を解明せよ!

 古代エジプトで絶対的な権力を有し、人々の頂点に君臨したファラオ(王)。ピラミッドや神殿などの壮大な建築はもちろん、その壁面や空間、王族の身体を飾った豪華な装飾品や調度品の数々は、王の威光と高い技術力を示す。このステージでは、先王朝時代からプトレマイオス朝時代までの3000年に活躍した12人の王にまつわる遺物が紹介される。それは同時に、エジプトの神々に認められ、あるいは神の名を持っていたファラオの歴史が、ギリシャに起源を持つ名のプトレマイオス王の登場に見られるように、エジプト人による国内統治の終焉をたどることにもなる。

「2nd Stage ファラオの実像を解明せよ!」展示風景より、《王の頭部》(前2650~前2600頃)。本展注目の頭部は、クフ王ではないかとされているもの
「2nd Stage ファラオの実像を解明せよ!」展示風景より、左から《クフ王の名前が彫られた指輪》(前664~前404)、《イムヘテプの小像》(前381~前30)
「2nd Stage ファラオの実像を解明せよ!」展示風景より、《ラメセス2世の石碑》(前1279~前1213頃)。アメン・ラー神とその妻・ムト女神がラメセス2世に王権の象徴を授ける場が表される
「2nd Stage ファラオの実像を解明せよ!」 展示風景より、 《ネフェレトイティ(ネフェルティティ)王妃のレリーフ》 と 《王妃の頭部》(ともに前1353~前1336頃)。美女で知られるネフェレトイティとツタンカーメン王の妻であったアンクエスエン パーアテン王妃の頭部と考えられているもの

3rd Stage 死後の世界の門をたたけ!

 古代エジプトでは、人は死後、来世で復活し永遠の命が得られると信じられ、そのために身体を保持する必要からミイラの技術が発達した。最後のステージでは、2体の人間のミイラと、内外ともに装飾された木棺、美しい副葬品や葬儀のための道具、墓に添えられたレリーフなどに、彼らの独特の死生観と、切なる願いを読み取る。猫のミイラや墓に収める動物たちの像が多く作られているのも特徴的だ。また、会場では現存最古の葬送文書といわれる『ピラミッド・テキスト』を古代エジプト語の「発音」から再現した音声が流される。青く染まった空間に祈りの声が響き、ちょっとしたタイムトリップを体感できるかも。

「3rd Stage 死後の世界の門をたたけ!」展示風景より、豪華な装飾品は古代エジプト展の醍醐味のひとつ
「3rd Stage 死後の世界の門をたたけ!」展示風景より、中央のケースにはときに金よりも重宝された銀製の《ハエのペンダント》(前1539〜前1292頃)が
「3rd Stage 死後の世界の門をたたけ!」展示風景より、《ミイラの覆い布》(前332~前30)。女神に導かれる死者は典型的なギリシャ・エジプト風の装いで描かれる
「3rd Stage 死後の世界の門をたたけ!」展示風景より、ミイラ作成の際に臓器を納める容器《カノプス壺と蓋》(前664~前525またはそれ以降)。臓器により頭部の動物が異なる
「3rd Stage 死後の世界の門をたたけ!」 展示風景より、《ネコの棺とミイラ》(前664~前332)
「3rd Stage 死後の世界の門をたたけ!」 展示風景より、ミイラと棺
「3rd Stage 死後の世界の門をたたけ!」展示風景より、《神官ホル(ホルス)のカルトナージュとミイラ》(前760~前558頃)

 人々の生活への視点、3D映像で読み取るピラミッドの構造、そして耳で聞く葬送の想い。解説に付された河江の「ポイント」や各所に掲示される「トリビア」が伝える豆知識も楽しく、古代エジプトを身近に感じる契機となる。知っているつもりでも、じつは意識していなかったかもしれない古代エジプトの「存在」を改めて実感し、新しい好奇心と新鮮な眼を開かせてくれるだろう。