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2025.3.14

「移転開館5周年記念 花と暮らす展」(国立工芸館)開幕レポート。工芸作品を通じて身近な自然に目をむける

国立工芸館で、所蔵作品展「移転開館5周年記念 花と暮らす展」が開幕した。会期は6月22日まで。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、十三代今泉今右衛門(善詔)《色鍋島薄墨石竹文鉢》(1982)
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 金沢の国立工芸館で、所蔵作品展「移転開館5周年記念 花と暮らす展」が開幕した。会期は6月22日まで。担当学芸員は中川智絵(国立工芸館 任期付研究員)。

 同展は、国立工芸館の所蔵作品を中心に、春から夏にかけて咲く花などの植物をテーマにした工芸・デザイン作品と、花のための器を約100点展示。3つの章と同時開催のテーマ展からその様相を紹介するものとなっている。

 開催に先立ち、担当学芸員の中川は次のように語った。「移転記念展として、工芸やデザインにおける普遍的なモチーフである『花』をテーマとして設定した。そのなかでも春から夏の花・植物を選んだのは、鑑賞後にいまの季節とあわせて、身の回りの暮らしに目を向けてほしいという想いからだ」。

展示風景より

 まず1章の「花を象る」では、身の回りに咲く花や植物の姿をかたどり、作品とした工芸作品が並ぶ。ここで注目したいのは、作品に花や植物の姿がそのまま写生されているわけではなく、図案化されているという点だ。そのデフォルメのされ方は、作家ごとの観察力と表現力の表れとも言えるだろう。

展示風景より、井戸川豊《銀泥彩磁鉢》(2015)
展示風景より、手前は田村耕一《銅彩蓮文大皿》(1985)

 2章「花を想う」では、直接的な表現ではなく、花を想起させるような造形の特徴を持つ作品がピックアップされている。作品の媒体や佇まい、タイトルなどから、多様な表現方法に触れることができる。

展示風景より、佐々木英《蒔絵彩切貝乾漆盤 水ぬるむ》(1984)
展示風景より、川上南甫《春燈彩影》(1965)

 3章「花と暮らす」では、日常的に使用される茶器や花器など、日用品に描かれた花の姿にフォーカスしている。ここでは様々な作家による花器のほか、グラフィックデザイナーの先駆けとして昭和期に活躍した杉浦非水による絵はがきや、美しい影を落とす電気スタンドまで幅広く紹介。我々の生活と花・植物がいかに密接なものであるかを再確認できるとともに、現代の規格化された生活用品のあふれる暮らしとのギャップも感じられた。

 また同展示室には、国立西洋美術館の所蔵品から、花とともにある暮らしを描いたモーリス・ドニの《花束を飾った食卓(マルト・ドニと二人の娘ベルナデット,アンヌ=マリー)》(1904)と《ハリエニシダ》(1911頃)といった2点も展示されているため、要チェックだ。

展示風景より
展示風景より、杉浦非水による絵はがき
展示風景より、右は藤井達吉《電気スタンド》(1916-23)

 同時開催のテーマ展示「本と暮らす」では、杉浦非水の旧蔵本を公開。図鑑や写真集、雑誌などといった資料を通じて、杉浦がいかに「図案」の制作に取り組んだかといったプロセスの部分を知ることができる。アウトプットされた作品の図案が、どのように生まれてくるかといった視点からも作品を楽しむことができるだろう。こちらの展示は、同館の資料管理を担当する廣川晶子(国立工芸館 主任研究員)によるキュレーションとなっている。

展示風景より
展示風景より