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2025.3.20

「大カプコン展 ―世界を魅了するゲームクリエイション」(大阪中之島美術館)開幕レポート。ゲーム制作者はどのように名作をつくり出したのか

大阪中之島美術館で企画展「大カプコン展 ―世界を魅了するゲームクリエイション」が開幕した。会期は6月22日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

ROUND1「カプコン ゲームクロニクル」展示風景より、キャラクター展示 ⓒCAPCOM
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 大阪中之島美術館で企画展「大カプコン展 ―世界を魅了するゲームクリエイション」が開幕した。会期は6月22日まで。なお、本展はカプコンの本社がある大阪展から始まり、名古屋市美術館(7月5日〜9月7日)、鳥取県立博物館(10月19日〜12月7日)、CREATIVE MUSEUM TOKYO(12月20日〜2026年2月22日)と巡回する。

展示風景より、左が「吉田沙保里 vs リュウ –私より強い奴に会いに行く–」 ⓒCAPCOM

 カプコンは1983年大阪に本社が設立されたゲームソフトメーカー。対戦格闘ゲームの歴史を築いてきた「ストリートファイター」シリーズや、サバイバルホラーゲーム 「バイオハザード」シリーズ、広大な世界を旅してモンスターを捕獲する「モンスターハンター」シリーズなど、数多くのタイトルを開発してきた。本展は、創業40周年を迎えたカプコンのゲームクリエイションに注目し、その原点から最新技術まで、総合的に紹介する初の展覧会だ。

ROUND1「カプコン ゲームクロニクル」展示風景より、ポスターやメインアートの展示 ⓒCAPCOM

 監修を手がけたカプコンのプロデューサー・牧野泰之は本展の目指すところについて、次のように語った。「ゲームの開発においてどのような創意工夫やプロセスがあったのかを可視化することにこだわった。ゲームを遊ぶだけでなく、どのようなかたちでクリエイターたちゲームをつくったのかを会場で触れてもらえれば」。

展示風景より、「ファイナルファイト メトロシティ サブウェイ」 ⓒCAPCOM

 展覧会はROUND1〜3とBONUS STAGE、FINAL ROUNDの5章で構成されている。会場入口ではイントロダクションとして、カプコンキャラクターが大行進するアニメーションを上映。16メートルにわたる巨大なスクリーンに映し出された「ストリートファイター」「ロックマン」「バイオハザード」「デビルメイクライ」「逆転裁判」「モンスターハンター」といった、同社の代表的なゲームシリーズのキャラクターが気分を盛り上げる。

展示風景より、キャラクターパレード ⓒCAPCOM

 ROUND1「カプコン ゲームクロニクル」は、カプコンのこれまでの活動を軸に、ゲームの歴史を振り返るエリアだ。本章の冒頭では、同社の代表的な作品シリーズの系譜が壁一面の系統図やプレイ画面、ゲームパッケージ、ととも紹介されており、40年にわたるその歴史を振り返ることができる。

ROUND1「カプコン ゲームクロニクル」展示風景より、主要タイトル系統図 ⓒCAPCOM

  加えて、「ストリートファイター」のリュウ、「ロックマン」のロックマン、「バイオハザード」のレオン、「戦国BASARA」の伊達政宗といったキャラクターを、衣装や小道具、フィギュア、歴代のグラフィックや開発資料とともに紹介。さらに、ゲームのパッケージやポスターなども壁一面に並ぶ。

ROUND1「カプコン ゲームクロニクル」展示風景より、キャラクター展示 ⓒCAPCOM

 ROUND2「テクノロジーとアイデアの進化」は、「テクノロジー」「アート」「アイデア」を掛けあわせながら進化してきた、ゲーム業界とカプコンの創意工夫の歴史を、体感展示とともにたどる。

ROUND2「テクノロジーとアイデアの進化」展示風景より、「新旧波動拳の作り方」 ⓒCAPCOM

 例えば初代「ロックマン」は任天堂のファミリーコンピュータ向けのソフトとして開発されたが、同機のスペックではグラフィックを制作するときに使える色数やドット(マス)数に制約がある。この制限のなかでいかにプレイヤーの操作に呼応する動きや、存在感のあるキャラクターをつくりあげるのかが課題だった。これらの課題にいかに挑んだのか、会場では解説を見つつ、「カプコンピクセルラボ」と名打たれたタブレット端末を操作し、マスを塗りつぶしていくことで作中のキャラクター制作を体感することができる。

ROUND2「テクノロジーとアイデアの進化」展示風景より、「ドット絵時代の創意工夫」 ⓒCAPCOM

 ほかにも、実際の人間の表情の変化がキャラクターの表情に反映される「フェイシャルトラッキングミラー」の体験や、ゲームのBGMや効果音がどのように作られているのかを来場者自らフェーダーを操作して体感できる展示もある。

ROUND2「テクノロジーとアイデアの進化」展示風景より、「カプコン流BGM演出」 ⓒCAPCOM

 ROUND3「ファンタジーとリアリティ」は、現実にはないキャラクターや世界をいかにリアリティを付与しながら表現するのか、技術やデザイン面から考える。

ROUND3「ファンタジーとリアリティ」展示風景より、「『らしさ』を描く –キャラクター造形の秘伝書–」 ⓒCAPCOM

 会場では「ストリートファイター」シリーズの登場キャラクター・春麗の白い石膏像にプロジェクション・マッピングによってグラフィックを重ねることで、3DCGモデルにいかなるつくり込みがされているのかを視覚的に紹介。また、キャラクター造形において、デザイナーたちがその人体構造をどのようにとらえているのかなどもパネルなどで紹介されている。

ROUND3「ファンタジーとリアリティ」展示風景より、「『らしさ』を描く –キャラクター造形の秘伝書–」の春麗 ⓒCAPCOM

 さらに「モンスターハンター」シリーズのフィールドの模型にも、プロジェクション・マッピングが施され、ゲーム内の自然環境がどのようにつくりこまれていったのかを表現。ほかにも、懐中電灯を模したセンサーを壁面に向けることでゾンビなどの映像が投影されることで、「バイオハザード」の世界観を体験できる「新ウォークスルー体験」のコーナーなども用意されている。

ROUND3「ファンタジーとリアリティ」展示風景より、「モンスターハンター超立体図鑑」 ⓒCAPCOM

 「BONUS STAGE」の章では、モーションキャプチャーによってゲームのキャラクターの動きを来場者が自らの身体によって作り出せる「モーションキャプチャーミラー」や、元レスリング女子日本代表選手の吉田沙保里が「ストリートファイター6」のなかに入り込み、リュウと対戦する展示「吉田沙保里 vs リュウ –私より強い奴に会いに行く–」などを楽しむことができる。

「BONUS STAGE」展示風景より、「モーションキャプチャーミラー」 ⓒCAPCOM
「BONUS STAGE」展示風景より、「吉田沙保里 vs リュウ –私より強い奴に会いに行く–」 ⓒCAPCOM

 最後となる「FINAL ROUND」は、カプコンでゲーム開発に携わる開発者12人のインタビュー映像を上映。さらに、この章で圧巻なのは「伝説の企画書」と題された、過去の名作の企画書の展示だ。例えば「ストリートファイターⅡ」であれば格闘時の動きがどのように設計されたのか、「ロックマン」であればボスを倒して入手した武器をいかに活用できるようにしたのか、ゲームの根幹に関わるコンセプトに触れられる。

「FINAL ROUND」展示風景より、開発者インタビュー ⓒCAPCOM
「FINAL ROUND」展示風景より、伝説の企画書たち ⓒCAPCOM

 また、「ストリートファイターⅡ」の世界各国を舞台にしたステージの背景美術スケッチも見応えがある。各スケッチはスキャナーで取り込まれたのち、1ドットずつキーボードで打ち込んで彩色されたというが、イメージを制約のなかで表現したことで、ゲームの背景だからこその強度が生まれていることに気づかされる。

「FINAL ROUND」展示風景より、伝説の企画書たち ⓒCAPCOM

 ゲームを楽しむだけでなく、そのゲームがどのような思想によって企画され、制約のなかいかなる発想と技術でつくられたのかを学ぶことができる本展。これからゲームをプレイするときに、より深く楽しむことができるヒントをもらえる展覧会だ。