2025.5.28

「第18回shiseido art egg」展(資生堂ギャラリー)レポート。第3期は平田尚也「仮現の反射」展

資生堂ギャラリーで「第18回 shiseido art egg」展が開催中。この公募プログラムに入選した大東忍、すずえり、平田尚也の3名のうち、第3期となる平田尚也の個展がスタートした。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、平田尚也《Sneaky Skins In a Dispersion of Agensy》(2025)
前へ
次へ

 資生堂ギャラリーでは、第18回「shiseido art egg」に入選した大東忍、すずえり(鈴木英倫子)、平田尚也の3名の個展を開催。その第3期展として平田尚也の個展が始まった。

 「shiseido art egg」とは、資生堂が新進アーティストを応援する公募プログラムで、人々の感性と多様な価値観を刺激し、新たな美の可能性を押し広げるアーティストに個展開催の機会を提供するというもの。2006年にスタートして以来、延べ51名(組)の入選アーティストが個展を開催、その後も活躍の幅を広げている。

 第18回目となる今年は、応募総数291件のなかから、大東、すずえり、平田の3名が選出。独自の視点で今日の世界を見つめ、時代が抱える不安や困難に向きあい、そこから新しい価値観や美意識を表現しているかが審査のポイントとなった。

展示風景より

 平田は1991年長野生まれ。2014年に武蔵野美術大学造形学部卒業。デジタルテクノロジーの進展により、身体そのものの仮想化が進み、アバターが一般化しつつある今日において、人々の身体性やアイデンティティを探求しているアーティストだ。

 「仮現の反射 Reflections of Bric-a-Brac」と題した本展は、「身体という表面に宿る魂の在りか」を探る試み。

 本展タイトルにある「仮現」とは、「そこに存在するが、カッコに入った状態で存在している」(平田)という状態を表すことばであり、平田が素材として扱うデータなどの性質とマッチする。

 すべて新作で構成される本展のメインピースとなるのは、ギャラリーの2つの壁面に映し出された映像作品《Sneaky Skins In a Dispersion of Agensy》(2025)だ。

展示風景より、平田尚也《Sneaky Skins In a Dispersion of Agensy》(2025)
展示風景より、平田尚也《Sneaky Skins In a Dispersion of Agensy》(2025)

 同作には、ネットから取得したモーションキャプチャーデータをもとに自作した「3Dモデル」と、プロンプトから生成した「身体」が混在するかたちで登場する。しかしその「身体」は、我々が人間として認識しえないような様々な形状も見せる。しかしその姿は、「デジタル世界において身体は選択可能である」という拡張性を示唆するとともに、これからの未来における身体のあり方を問いかける。

 またこれらの「登場人物」はいずれも軽快なダンスを見せる。この動きの理由について、平田は「身体は我々にとってもっとも身近なもの。仮想の身体が可能になったとき、人間の気配や息づかいを感じられるのが『動き』ではないか」と語る。実際、無機物に見える存在が登場しても、その動きから私たちは何かしらの意思や生命を感じ取ってしまうだろう。

 なお会場には、平田がネット空間から蒐集した3Dスキャンデータをもとにした複数の立体作品が展示されており、これらも映像作品とリンクを見せる。本展担当キュレーターの伊藤賢一朗は「VR空間は平田にとって日常。VRとリアルな空間の境界線は曖昧であり、溶け込んでいる」と語る。展覧会というリアルな空間において、平田は「デジタル時代のアッサンブラージュ」とでも言うべき展開を見せた。

展示風景より、平田尚也《十把一絡げ #3(Piper)》(2025)
展示風景より、平田尚也《Skin-Changer Branch (Magic Carpet)》(2025)
展示風景より、平田尚也《Six-fold Double (Wolf and Rat)》(2025)と《十把一絡げ #3(Piper)》(2025)