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2025.9.22

金沢でアートに囲まれる極上の宿泊体験を。5周年を迎えた「ハイアット セントリック 金沢」「ハイアット ハウス 金沢」へ

石川県金沢市に、アートに囲まれる極上の宿泊体験ができるフルサービスホテル「ハイアット セントリック 金沢」と中長期滞在にも適した「ハイアット ハウス 金沢」がある。金沢の伝統を随所に感じさせるインテリアデザインやアートワークが散りばめられた両ホテルの館内をレポートする。

文・撮影=大橋ひな子(ウェブ版「美術手帖」編集部)

ハイアット セントリック 金沢内の「FIVE - Grill & Lounge」
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 2020年、石川県の金沢駅金沢港口(西口)から徒歩2分のロケーションに開業した、アートに囲まれる極上の宿泊体験ができるフルサービスホテル「ハイアット セントリック 金沢」とセレクトサービス「ハイアット ハウス 金沢」が今年で5周年を迎えた。両ホテル内には、金沢の伝統を随所に感じさせるインテリアデザインやアートワークが多数揃っている。

ハイアット セントリック 金沢とハイアット ハウス 金沢

ハイアット セントリック 金沢

ハイアット セントリック 金沢の入り口

 同ホテルのコンセプトとデザインは、庭田良一が代表を務めるデザイン事務所、株式会社BOND DESIGN STUDIO(ボンドデザインスタジオ)が担当。金沢ならではの伝統を尊重しつつ、現代的な技法を取り入れたアートワークを通じて、金沢の過去から未来を繋ぐようにデザインされた。同館内のあらゆる箇所に、地元・金沢にゆかりのあるアーティストらの100点以上のアート作品が展示されていることが特徴のひとつ。そのほとんどはBOND DESIGN STUDIOによってキュレーションされている。館内の様子とともに、各所のアートワークについて紹介する。

 まず1階の正面玄関で迎えてくれるのは、2名の作家による迫力のあるコラボ作品だ。小沢敦志による《野鍛治の門冠》は、金沢の街で使われていた鉄の道具を集め、松のモチーフをかたちづくったのちに金箔を施した作品。その後ろにかけられた青い一筆書きの作品は、金沢大学を卒業した大森慶宣によるもの。金沢の街中を巡り日本海へたどり着く犀川と浅野川から、55の用水がわかれている水の街・金沢を表現している。

ホテル内風景より、手前:小沢敦志《野鍛治の門冠》、奥:大森慶宣《Blue Rhythm》

 また1階のエレベーターホールには、金沢の古地図を下刷りした着物に錆と植物染料で雲唐草が描かれた、三尾瑠璃の作品が展示されている。金沢の街を雲の隙間から覗き込むようなイメージとなっており、着物の上に描かれている加賀前田家の家紋として使われた「梅鉢紋」は、このハイアット セントリック 金沢の場所を指している。

ホテル内風景より、三尾瑠璃《加賀国金沢之絵図 銹雲唐草》

 ほかにも、加賀獅子舞に用いられる獅子頭の試し彫り(見本)を作品にしたものや、金沢出身の文豪・泉鏡花の俳句で使われた文字をモチーフにしてつくられたデザインのエスカレーターなども見ることができる。

ホテル内風景より、加賀獅子舞に用いられる獅子頭の試し彫りを用いた作品
ホテル内風景より、杉山陽平《俳句グラフィックス》

 ロビーがある3階エレベーター内にも作品がある。カラフルな水玉模様は、加賀友禅の制作工程でつくられる色見本が拡大されたものだ。 雨が多い金沢の様子を表した本作からは、この土地ならではの特徴を、尊重し楽しむ姿勢がうかがえる。なお、ロビーから客室フロアへ向かうエレベーター内でも本作を見ることが可能だ。

ホテル内風景より、エレベーター内の様子

 エレベーターが開きホールに出るとすぐに、泉鏡花へのリスペクトを感じる作品が出迎える。「向かい干支の動物を集めると出世する」という金沢の言い伝えを信じていた母から水晶のうさぎをもらったことから、泉は生涯にわたりうさぎの置き物を集めていたという。館内には随所にうさぎモチーフの作品が点在している。

ホテル内風景より

 また、同じホールには、三味線の胴に張る白い革と、郵便配達のバッグから譲り受けた黒い革を使った作品も展示されている。いずれも金箔の箔打ちに使用された道具で、金沢の土地に伝わる工芸の制作過程で利用したものを、さらに再利用してつくられたアートワークだ。

ホテル内風景より

 3階のロビーにもいくつかの作品が展示されている。金沢市生まれの箔デザイナー・高岡愛による揺れる金箔のアートワークが圧倒的な存在感を放つ。金箔の動きを見せるような工夫がされた作品で、来館者は本作に触ることもできる。

ホテル内風景より、高岡愛《Pliant Metal 2020 / Hyatt Centric Kanazawa Ver.》

 また、能登半島地震の復興支援の一環として、伝統工芸の再生と新たな創作の場づくりに取り組む株式会社CACL (カクル) が展開するプロダクトブランド「KAKERA」との共同プロジェクトとして制作した《KAKERA 5》も展示されている。本作品は、2024年の能登半島地震で破損した九谷焼のほか、製造工程で規格外となった白磁など、様々な背景を持つ陶磁器片が使用されている。また台座には、輪島塗の技法が施されている点にも注目したい。今年8月、同館に追加された新たなアートピースだ。

ホテル内風景より、《KAKERA 5》

 同じく3階にある「FIVE - Grill & Lounge」というダイニングエリアでは、地元の食材を使ったオリジナルメニューを朝食、ランチ、ディナーで堪能することができる。ラウンジ&バーエリアは、コーヒー、デザートから軽食、カクテルなどを気軽に楽しめる空間だ。5つのエリアにわかれた空間にも様々な作品が点在する。

ホテル内風景より、「FIVE - Grill & Lounge」の様子
ホテル内風景より、朝食では金沢の食材を使った料理を食べることができる。写真はのどぐろの一夜干し

 奥の空間には、栗原由子による加賀野菜を描いた巨大な日本画がある。ここに展示されているのはオリジナルを拡大プリントしたものだが、オリジナルの油彩画はスイートルームに飾られている。

ホテル内風景より、栗原由子《加賀野菜図》

 さらに奥には、プライベートダイニングがある。ここでは「大樋焼(おおひやき)」の作品を直に見ることができる。「大樋焼」とは、金沢に350年以上続く楽焼の「脇窯」で、独特の「飴釉(あめゆう)」と、手びねりによる造形が特徴。第11代による作品が空間に独特の魅力を放っている。

ホテル内風景より、十一代大樋長左衛門(年雄)《大樋窯変水指「尊崇」》

 ロビーからエレベーターに乗り客室フロアへ出ると、エレベーターホールにはフロアごとに色が異なる和紙の作品がかけられている。通常、漆器を塗る前には、漆の不純物を除くために和紙で濾す過程がある。本作はその使用済み和紙を用いており、作業後に捨てられるはずだったものを作品へと変化させている。方向指示サインは、漆塗りに使われるヘラを使用。伝統工芸を影で支え続けた技術が前面に押し出された作品である。

ホテル内風景より、エレベーターホールの様子
ホテル内風景より、漆塗りに使われるヘラを使用した方向指示サイン

 客室は、7室のスイートルームを含む全253室が用意され、1室ごとに金沢の伝統的な要素を感じさせるデザインとなっている。客室に入る前に、ポップな色彩のルームサインに注目したい。九谷五彩で彩られた九谷焼でつくられており、全13種類のデザインとなっている。

ホテル内風景より、九谷五彩で彩られた九谷焼を用いたルームサイン

 客室内のベッドルームには、和紙を用いた作品が飾られている。金沢の路傍に和紙を敷き、実際の道の割れやマンホールのかたちをかたどったという。そのうえを子供が下駄で遊んだ様子を思わせる模様が、金箔であしらわれた作品だ。この作品にも使われている「群青」という色は、金沢の土地にとって大事な色のひとつだという。加賀藩前田家ゆかりの成巽閣にある群青の間に由来し、高貴で鮮やかなこの色彩は、古くから好まれ用いられてきた。


ホテル内風景より、客室の様子
ホテル内風景より、客室の様子

 「ルーフテラス バー」は、金沢市街の素晴らしい眺望が広がる14階にあるルーフトップバー。ここではアート作品を鑑賞しながら、金沢のストーリーをモチーフにしたオリジナルカクテルや多彩なドリンクメニューを楽しむことができる。

ホテル内風景より、「ルーフテラス バー」の様子
ホテル内風景より、「ルーフテラス バー」の様子
ホテル内風景より、「ルーフテラス バー」の様子。金沢にちなんだ素材を用いたカクテルメニューも揃っている
ホテル内風景より、中村 卓夫《表面波- ゆらぎ-》

 本ホテルには、館内の随所で、アートや伝統工芸に「偶然出会える機会」が散りばめられている。また、あえて文字情報としてのキャプションを掲示しないことで、見た人が直感的に受け取るものを大事にしているという。金沢の魅力を存分に感じ、実際に街へ足を運びたくなるような体験設計がなされている。

ハイアット ハウス 金沢

ハイアット ハウス 金沢の入り口

 ハイアット セントリック 金沢に隣接する「ハイアット ハウス 金沢」は、中長期滞在のビジネストラベラーやワーケーション、友人、家族との休暇旅行などに向いているホテルである。長めの滞在を想定していることもあり、キッチン設備が客室についていることが特徴だ。金沢の街の文化やコミュニティーに「暮らすように滞在」することができる。

 同館のコンセプトとデザインは、デザイン・建築事務所「ゲンスラー アンド アソシエイツ」が担当。金沢の地域文化と伝統的な木造家屋、町家からインスピレーションを受けデザインされた。

 客室は、キッチン付アパートメントスタイルのゲストルーム78室を含む全92室。いずれも広々としたリビングエリア、ベッドルーム、そしてバスルームから構成されており、愛犬(小型犬に限る)とステイできる「ドッグフレンドリールーム」も用意されている。

ホテル内風景より、客室の様子
ホテル内風景より、客室の様子。キッチン機能がついている

 また、ロビー階にある「Hレストラン」では、朝食会場としての利用だけではなく、貸切のイベント会場として利用することも可能だ(1時間11000円税込み)。

「Hレストラン」

 ほかにも、ロビーエリアではビールやワイン、ソフトドリンクを飲みながら、ゲスト同士が気軽に交流できたり、金沢のお土産品なども買うことのできる「Hマーケット」なども用意されている。

ロビーフロア
水引をイメージした作品も展示されている

 今年5周年を迎えた「ハイアット セントリック 金沢」と「ハイアット ハウス 金沢」。宿泊者の滞在の目的にあわせて選ぶことができる両ホテルだが、いずれも、今後さらに金沢の魅力を探しに行く旅の拠点となるだろう。