2025.9.26

「六本木アートナイト2025」開幕レポート。今年は韓国のアートにフォーカス

六本木の街を舞台に、「都市とアートとミライのお祭り」をテーマとした「六本木アートナイト2025」が開幕した。会期は9月26日〜28日まで。

文・撮影=大橋ひな子(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、イム・ジビン《You Are Not Alone(あなたは一人じゃない)》(2018)
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 六本木の街を舞台に、「都市とアートとミライのお祭り」をテーマとした「六本木アートナイト2025」が開幕。会期は9月26日〜28日まで。

 今年は約30組のアーティストによる50以上のプログラムが展開される。昨年より新設された、 特定の国や地域に焦点を当て、そこで活躍するアーティストの作品を紹介するプログラム「RAN Focus」は今年も継続して企画され、今年は韓国にフォーカスが当てられる。森美術館で開催された「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」展でも注目を集めた映像作家キム・アヨンや、「ベアバルーン」を用いて都市を舞台に作品を展開するアーティストのイム・ジビンをはじめとした、韓国人アーティスト6組によるブログラムが展開される。

 さらに、六本木の街を周遊しながらアートを楽しめるようにすべく、美術館や文化施設、大型複合施設、商店街など六本木全域を舞台とし、インスタレーション、パフォーマンス、音楽、映像、トーク、 デジタルアートなど多彩な表現を用いた作品が点在している。本稿ではそのなかでも注目すべきプログラムをピックアップして紹介する。

 六本木ヒルズアリーナでは、「RAN Focus」プログラムに参加する3組のアーティストの作品が紹介されている。

 今年森美術館で開催された「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」展に参加したキム・アヨンは《デリバリー・ダンサーズ・アーク: 0度のレシーバー》を出展。本作は2022年に制作した 《デリバリー・ダンサーズ・スフィア》の2つの続編のひとつで、ソウルの街と様々な次元を舞台に、女性配達員たちの旅を描くもの。巨大なスクリーンに、「時間」を運ぶ2人の女性を主役としたストーリーが映し出される。

展示風景より、キム・アヨン《デリバリー・ダンサーズ・アーク: 0度のレシーバー》

 カン・ジェウォンの《Exo2_crop_xl》、《Flame》は、デジタルで生成された彫刻を物理的に再現したシリーズ。見た目は金属のように見えるが、実際は空気で膨らませた風船でできており、送風機の電源が切れ空気が抜けると形を保つことができなくなる。近くに寄らないと風船であることには気づけない。

展示風景より、カン・ジェウォン《Exo2_crop_xl》(2022)

 また、韓国の伝統芸能を現代的で斬新なスタイルで受け継ぐパフォーマンスグループ ・TAGOによるパフォーマンスも行われる。打楽器によるグループアンサンブルと躍動的な舞踊が一体となったステージは、世界の舞台芸術の祭典「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」でも高い評価を受けており、世界各地で注目を集めている。会期中、六本木ヒルズアリーナでは毎日公演され、ほかの場所でも複数回パフォーマンスが行われる予定だ。

展示風景より、TAGOのパフォーマンスの様子

 六本木ヒルズ内にもいくつかの作品が展開されている。カフェスペースには川原隆邦の作品がある。《量子の共鳴》と題された本作は、10メートルを超える一枚和紙に描いた水墨画となっている。

展示風景より、川原隆邦《量子の共鳴》

 六本木ヒルズ ウエストウォーク2階には、日常生活のなかで自然と人が交わる瞬間に着目し制作された、小野海の巨大な彫刻作品《Prism-Aureola》が目を引く。また六本木ヒルズ ハリウッドビューティプラザ1階、2階では、インドネシア出身のアーティストであるアリ・バユアジによる、「Weaving the Ocean(海を織る)」プロジェクトの作品が展開されている。アリの作品は、現在北陸エリアを舞台に展開されている「GO FOR KOGEI 2025」でも展開中だ。

展示風景より、小野海《Prism-Aureola》(2022)
展示風景より、アリ・バユアジ「Weaving the Ocean(海を織る)」プロジェクト

 六本木ヒルズから少し歩いた東京ミッドタウンエリアも会場のひとつ。

 大きな白いクマと黒いクマが互いを抱きしめる姿を模した作品は、イム・ジビンの《You Are Not Alone(あなたは一人じゃない)》。「RAN Focus」プログラムのひとつである。本作は、2018年平昌冬季パラリンピック競技大会でも設置されており、差異を超えた包容と共感を象徴的に表現している。なおイム・ジビンの作品は、会期中、東京ミッドタウン内以外にも、龍土町美術館通り、六本木ヒルズ 66プラザにも展開される。

展示風景より、イム・ジビン《You Are Not Alone(あなたは一人じゃない)》(2018)
展示風景より、イム・ジビン《HELLO》

 東京ミッドタウン ガレリア1階 ツリーシャワーでは、TOKYO MIDTOWN AWARD 2014 アートコンペ受賞者でもある小林万里子の《世界の心臓》を見ることができる。天井から流れ落ちる水の前に様々な動植物が集まる本作は、10月5日まで展覧される予定。

展示風景より、小林万里子《世界の心臓》

 東京ミッドタウン プラザB1階では、今年で18回目の開催となる「TOKYO MIDTOWN AWARD」の、アートコンペ入選者6組の作品が先行展示されている。本展も長期展示となっており、11月9日まで見ることが可能。

展示風景より、リブ《My Gaze, My Choice.》
展示風景より、善養寺歩由《Generated Pimples》

 六本木の街なかも会場となる本イベントでは、昨年同様六本木交差点にも作品が展示されている。イベントの開催を伝えるLEDのネオンサイン《現在地 feat.六本木アートナイト》を制作したのは、奥山太貴。会期中は24時までネオンサインは点灯されている(最終日は20時まで)。ポップな色彩のサインは、夜が深まるにつれその存在感を増すようだ。

展示風景より、奥山太貴《現在地 feat.六本木アートナイト》

 そのほか、麻布消防署仮庁舎建設用地(旧麻布警察署跡地)では、羽ばたく姿の鳥のオブジェが直径8メートルの輪に沿って配置されている島田正道の《Birds fly around with you》が展示されている。実際に輪のなかに入ると、センサーが反応しライトが光るインタラクティブな作品となっている。

展示風景より、島田正道《Birds fly around with you》(2015)

 国立新美術館の側にある天祖神社を舞台とするのは、フォン・チェン・ツォン(范承宗)の《Sailing Castle: Roppongi》。巨大な木製のインスタレーションである本作も、参加作品のひとつ。

展示風景より、フォン・チェン・ツォン《Sailing Castle: Roppongi》

 そのほか会期中には、様々なプログラムが3日間を通じて展開される。また六本木エリアにある森美術館、サントリー美術館21_21 DESIGN SIGHT、国立新美術館といった各美術館でも企画展が開催中。

 コロナ禍後の人々のライフスタイルの変化を受けて、昨年からオールナイトでの開催は行わない方針となった本イベント。プログラムの内容も、その変更を受けて、以前のものから変化していると言えよう。昨年より「都市とアートとミライのお祭り」という恒久的なテーマを掲げて開催することになった本イベントは、今後社会の変化にあわせてどのように変容していくのか。3日間という短い期間での開催となるが、ぜひ直接確かめてほしい。