EXHIBITIONS

アルド・ヴァン・デン・ブローク、笹井孝太、渡邊涼太「TAO」

2025.03.20 - 04.13
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Photo by Ryota Haraguchi

 SOM GALLERYで、ポートレイト作品に焦点をあてた、アルド・ヴァン・デン・ブローク、笹井孝太、渡邊涼太による展覧会「TAO」が開催されている。

 本展は、人物画という伝統的かつ古典的な主題を現代的視点から再考し、その歴史的意義や社会的役割の変遷を探求するとともに、現代アートにおける人物表現の可能性を冷徹な姿勢で問い直すことを目的としている。

 人物画は、たんなる外見の再現にとどまらず、個人の社会的背景や精神性を象徴的に描き出す媒体として発展。古典的な肖像画は、しばしば権威や宗教的理念を可視化する手段として機能し、時には純粋な写実性を排し、極端に美化されながらも、王侯貴族の威厳や神聖性を強調するために用いられてきた。しかし、19世紀の印象派や20世紀の表現主義の台頭を経て、表現は徐々に内面的な感情や精神性の可視化へとシフトし、個人の主観的な視点を強調する表現へと変化した。

 本展では、こうした歴史的変遷を踏まえつつ、現代アートにおける人物表現に取り組む作家を紹介。現代において、肖像画はたんなる「人物の再現」に留まらず、社会的課題の提示や多層的な意味の探求を通じて、視覚的言語としての広がりを見せている。

 出展作家のヴァン・デン・ブロークは、段ボールや木材、金属、廃材を用いた作品を通じて、「破壊と再生」という普遍的なテーマに取り組んでいる。それらの作品は、物質の持つ記憶を重層的に組みあわせることで、崩壊の後に残るものにこそ美を見出すという新しい視点を提示しているという。

 笹井は、自身を含む日常生活で目にするモチーフを選び取ることで、自己の内面と社会との接点を描き出す。笹井の作品は、絵画史の軌跡を拾いあげながら、感情的であり、質感を伴った表現を通じて、社会との複雑なつながりを問い直していく。

 そして、渡邊は、デジタル上で作成した匿名の人物像を基盤に、独自の手法で油画を制作。自作のカッターナイフを使って、絵具を切り裂き塗布していく過程を通じて「破壊と構築」を同時に表現し、その偶発性と計算された線、形を結びつける。この身体的行為を通じて、現代人の曖昧で揺らぐ存在を象徴的に描き出し、人工性と人間性が交錯する新しい「人物像」を浮かび上がらせる。

 本展は、人物画が担ってきた歴史的・社会的な役割を再考するとともに、現代アートにおける人物表現の可能性を批評的に提示する試みである。人物画が時代を超えて持つ普遍的な魅力を探求しつつ、現代の視点から「人物を描くこと」の意味を問い直す機会となる。たんなる写実や形態の再現にとどまらず、思想的・対話的なアプローチを通じて、現在地点における人物画の在りようをひとつの地点、解釈として指し示すことを目指す。