新平誠洙「Phantom Paint」

　アートコートギャラリーで、新平誠洙による個展「Phantom Paint」が開催されている。

　新平誠洙（1988〜）は、絵画を描くなかで発生する複数の時間軸、イメージや色彩の重なりがもたらす空間の歪み・分裂といったノイズ現象に着目し、学生の頃より視覚のメカニズムや認識とのブレを意識した制作を行なってきた。そこに自らがリアリティを持つ社会事象やテクノロジーを結びつけ、現代における絵画の時間と空間表現を探求し続けている。

　ふたつの異なるモチーフを曖昧に重ねて描く「Reflection」シリーズでは、物事が対照的な側面を持つ二重性を問い、人物や動物をコマ撮りアニメのように描く「Inversion」シリーズでは、絵画の虚構世界と現実との存在優位を反転させる。新平は、絵を見ることで動く人間の心の存在に関心を寄せ、「見る」欲求を刺激するビジュアルを生み出してきた。

「始まりは、AI生成画像が世に出てきたこと」と語り、画家が描く絵と遜色ない画像を生成するAIの登場により、好奇心と廃業の危機を感じたという新平は、AIの画像生成プロセスと向きあいながら新たな制作に取り組むようになる。人間が描いてきた多数の肖像画をAIに学習させ、そのAIがつくり出す画像を、画家の伝統技術に則り新平が真似して描く。実在せず身体も持たない肖像画を《Phantom Paint》と題し、本展より新たなシリーズとして発表している。

　新平は、AIの学習には脳細胞の働きを模したニューラルネットワーク技術が用いられていることから、絵を描く行為を通して、AIと自分の脳細胞とのあいだに共通点や発見を見出そうと試み始めている。新平が描くモデルは、学習時間が短いAIがつくり出した画像生成中の（人物画と思しき）イメージだ。本展では、昨年から今年にかけて描かれた13点の作品を展示している。