EXHIBITIONS

企画展

福井良之助 – 孔版画とその周辺

2025.04.18 - 05.10

福井良之助 作品名不詳 1955-65頃 紙に木炭、鉛筆、水彩 26.8 × 35.7 cm

 ギャラリー石榴で、企画展「福井良之助 – 孔版画とその周辺」が開催されている。

 福井良之助は1923年東京都日本橋生まれ。東京美術学校(現東京藝術大学)工学部鋳金科を繰り上げ卒業後、母の郷里・岩手県一関に疎開し、中学校の図工科教師として過ごす。福井が副担任をしていたクラスの担任教師・千田次郎は、謄写版(ガリ版)技術の腕前を持つ人物であり、千田が作成したダンス教室の案内状をきっかけに、福井は謄写版の表現効果に興味を抱きはじめる。中学校を退職して1952年に上京。義兄が営む謄写印刷の工房を訪ね、カット描きのアルバイトや教材の装画等を担当するなど、謄写版の仕事をこなしつつ自身の作品としての謄写版制作にも本格的に取り組み始める。

 1959年に日本橋画廊で初の個展を開催。ヨーロッパやアメリカにはない、特有の気品をたたえた精緻な表現が、在日アメリカ人を中心としたコレクターの目に留まったことで、その後は日本のみならずアメリカやオーストラリアでの個展開催、国際版画展への出品など、海外での活躍の幅を広げていった。やがて名声を得るにつれ、かねてから制作を続けていた油彩画に軸足を置くようになり、1970年代になると孔版画の制作をほとんど行わなくなる。以後、雪景色や舞妓を得意とする洋画家として人気作家となるが、1986年に病のため62歳で急逝。

 作家としての駆け出しの時期、わずか10年ほどのあいだに集中的に制作された孔版画群は、現在、確認されているだけで300種にのぼる。本展は、作家のガリ版による版画制作期(1955-65頃)に着目し、南青山会場とあわせ、孔版画30余点、ドローイング20余点で構成。日本の戦後美術の豊かな伏流のひとつを見ることができる。