EXHIBITIONS

マルコ・コロミツキー「Из Донбасса в Космос(ドンバスから宇宙へ)」

2025.07.18 - 08.03

メインヴィジュアル

 新宿歌舞伎町のアートスペース・デカメロンで、マルコ・コロミツキーによる個展「Из Донбасса в Космос(ドンバスから宇宙へ)」が開催されている。

 マルコ・コロミツキーはウクライナ・ドンバス出身のアーティスト、文筆家。17歳でウクライナを離れ、以後、韓国、中国、日本、カナダ、フランスと拠点を移しながら活動を続けてきた。現在は、パリ国立高等美術学校DNSEP(国家高等造形表現ディプロム)課程に在籍。言語、政治的記憶、形而上的コミュニケーションの関係を主題に、インスタレーション、サウンド、版画、パフォーマンス、文章など、多様な手法を横断しながら表現を行っている。

 以下、本展の展覧会ステートメントとなる。

「豊かな地下資源と重工業の歴史を背負いながら、分断と闘争の最前線とされてきた土地であるドンバスは、コロミツキーにとってつねに暴力や犯罪の危険と隣りあわせの場所でもありました。集団的トラウマとその影響が色濃く残る土地と人々の意識は、マイノリティとして生きる彼自身の存在を脅かしてきましたが、ロシア宇宙主義やロシア・アヴァンギャルドといった思想や文化との出会いが、彼にとってひとつの救済となりました。こうした経験と美学は、現在も彼の表現に強く影響を与え続けています。日本を拠点としていた時期には、COVID-19パンデミック、ロシアによるウクライナ侵攻の激化、そしてドンバスに残した唯一の肉親である母の死を経験しています。ロシア宇宙主義の父ニコライ・フェードロフの言葉『Death is a mistake(死は誤りである)』は、コロミツキーにとってより一層確信的なものとなり、近年の制作の根幹を成しています。現在主流とされる科学とは異なる視点から世界をとらえようとするコロミツキーの行為や目的は、マジョリティの論理的理解を超えたものであるかもしれません。しかし、様々な制約のなかで独自に築き上げられてきたヴィジュアルイメージからは、彼が思い描いている世界の深さを感じ取ることができます。そして、そのパラレルワールド的な視点は、現代社会への批評性を帯びると同時に、新たな希望のあり方を提示するものでもあります。

 コロミツキーは、不死や死人の物質的復活を目指したロシア宇宙主義を独自に発展させ、自身の制作を通じて『Citizen Zinc(亜鉛の市民)』をこの世に存在させようと試みています。Citizen Zincは『戦争、官僚制度、見捨てられることといった現代のシステムの重圧によって命を落とした存在」であると、コロミツキーは語ります。本展では、Citizen Zincを描いたリトグラフ、Citizen Zincをつくるためのマニュアル、Citizen Zincの声を受け取るためのアンテナ、そして『死や惑星という限界を超えて生命を記録し、蘇らせ、延命させるため』のモニュメントを展示いたします。コロミツキーが様々な場所と環境で発展させてきた自身の哲学と実践を一挙に紹介する、またとない機会となります。ぜひご高覧ください」(文責:磯村暖、展覧会ウェブサイトより)。