2025.5.16

佐藤雅彦の大規模展が横浜美術館で開催。「作り方を作る」を続けた40年とその現在地点を見る

3年以上におよぶ大規模改修工事を経て、全面開館を迎えた横浜美術館。そのリニューアルオープン記念展として佐藤雅彦の展覧会「佐藤雅彦展 新しい ×(作り方+分かり方)」が開催される。会期は6月28日〜11月3日。

ピタゴラ装置(NHK「ピタゴラスイッチ」より) 画像提供=横浜美術館
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 横浜美術館のリニューアルオープンを記念する展覧会として、佐藤雅彦(1954〜)の展覧会「佐藤雅彦展 新しい ×(作り方+分かり方)」が開催される。会期は6月28日〜11月3日。担当学芸員は松永真太郎(横浜美術館 学芸グループ長、主席学芸員)。

 佐藤といえば、サントリー「モルツ」、湖池屋「スコーン」「ポリンキー」「ドンタコス」、NEC「バザールでござーる」などのヒットCMを生み出したほか、慶應義塾大学佐藤雅彦研究室の活動として、NHK教育テレビの幼児教育番組『ピタゴラスイッチ』を監修した人物である。数々の有名作品を世に送り出してきた仕掛け人であるにもかかわらず、一般的に佐藤の人物像やその取り組みについてはあまり知られていないのではないだろうか。

佐藤雅彦 計算の庭(桐山孝司との共作) 「六本木クロッシング2007」(森美術館)展示風景

 同展は、佐藤の創作活動の軌跡をたどる世界初の大規模個展。佐藤が表現者/教育者として世に送り出してきたコンテンツを一堂に紹介するとともに、佐藤が長年にわたって実践してきた「作り方を作る」といった制作物の根底となる視点を紐解くものとなる。美術館における初の展覧会を前に、佐藤はこう語る。

 「多岐にわたるジャンルで色々なものを生み出してきたが、“もの”をつくりたいというよりは、“作り方を作る”がやりたかった。“作り方”が新しければ、自ずとできるものは新しくなる。(中略)『ピタゴラスイッチ』などが好きで展覧会を観にくるのも良いが、その裏側にある具体的な“作り方”に目を向けてほしい。誤解しないでほしいのは、この展覧会で見せるのはメイキングではないということだ」。

 また、同展の企画経緯について、学芸員の松永は次のように語る。「現在開催中の展覧会を含めた3本のリニューアル記念展は、同館リニューアル後の新たな方向性を示すものとなっている。なかでもとくにそれを明確に示しているのがこの『佐藤雅彦展』だ。(中略)昨今美術館では、アート以外の様々な分野を取り上げる企画展も数多く開催されているが、ジャンルが何かはあまり問題ではない。創作物を通じて作家の独自性、新規性、創造性が見出せるかが重要であると考えている。(中略)佐藤先生は自身の領域をコミュニケーションデザインと表現されている。その取り組みや視点を紹介することで、同館が開館当初から掲げる理念にも通ずる“いかに人生をよく生きるか”を見つめる機会としてもらいたい」。

上から、ポリンキーの秘密(湖池屋)、バザールでござーる(NEC) ともにアドミュージアム東京所蔵
左から、だんご3兄弟(NHK「おかあさんといっしょ」 より)、フレーミーとぼてじん(ともにNHK「ピタゴラスイッチ」より) 画像提供=横浜美術館

 このような考えのもと、会場では『ピタゴラスイッチ』でお馴染みの「ピタゴラ装置」や、佐藤が制作したCMを方法論にフォーカスして鑑賞するシアター、インスタレーションなど、様々なアプローチで「作り方を作る」を理解する場を設けるという。また、ミュージアムカフェやミュージアムショップでのオリジナルグッズ、そして佐藤ならではの趣向を凝らした公式図録もあわせて展開される予定となっている。

 なお、同展は横浜美術館のみの開催となり、巡回は予定されていない。佐藤雅彦による魅力的なヒット作はいかにしてつくられてきたのか。その“作り方”や“ルール”を知ることができる、またとない機会となるだろう。

イデアの工場(DNP)
佐藤雅彦 ballet rotoscope