2025.7.8

特別展「第77回正倉院展」が奈良国立博物館で開催。瑠璃杯や蘭奢待も開陳

毎年秋に開催されている正倉院展が、今年も奈良国立博物館で開催される。会期は10月25日〜11月10日。

中倉 瑠璃杯 
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 毎年秋に封が解かれ、宝物の点検が行われる正倉院宝庫。この時期に合わせて宝物を一般に公開する正倉院展が、今年も奈良国立博物館で開催される。会期は10月25日〜11月10日。

  正倉院宝庫には様々な経緯で宝物が納められたと考えられている。大きくは天平勝宝8歳(756年)6月21日以降の5回にわたり、光明皇后によって東大寺の大仏に献納された聖武天皇の遺愛品、東大寺での法要にまつわる品々、東大寺の造営に当たった造東大寺に関連する品々に分類することができる。ほかにも宮中儀式具や武器・武具なども残っており、宝物の入庫には様々ないきさつがあったことが推定されている。

 今年の出陳宝物は67件、うち6件は初出陳となっている。いくつかの出陳宝物を紹介する。

 《牙笏》は、天皇や役人が朝廷で威儀を正すために手に持つ笏(しゃく)だ。本品は『国家珍宝帳』に記載された象牙製のもので、天武・持統系の六代の天皇に継承された厨子に納めれていたとされる、正倉院に伝わる笏のなかでも格別の由緒を誇るものだ。

北倉 牙笏

 《木画紫檀双六局》は、聖武天皇が愛用していた双六盤だ。表面には木画という寄木細工の技法で鳥や唐草の装飾文様が凝らされており、ツゲ、紫檀、黒檀、象牙、鹿角、竹といった多彩な素材を用いられている。彩り豊かなモチーフとともに、高度な技術も見どころとなる。

北倉 木画紫檀双六局

 《平螺鈿背円鏡》は聖武天皇のゆかりの鏡20面のうちのひとつ。南海のヤコウガイの貝片を用いた螺鈿で背面が彩られており、地にはトルコ石やラピスラズリなど、シルクロードの各地で産出した素材を用いて中国で制作されたこともわかっている。

北倉 平螺鈿背円鏡

 六曲屏風の《鳥毛篆書屛風》は、草花や飛鳥などの地文様の上に、八文字の篆書と同字の楷書を交互に表している。楷書は吹き付けと点描で、篆書はキジなどの羽毛を貼り付け、金箔を散らしている。君主にとっての戒めの格言が表されており、聖武天皇の身近にある調度品であったとされる。

北倉 鳥毛篆書屛風(第1扇)

 《花氈》は大唐花文様を全面に表したフェルトの敷物で、唐からの舶来品とされる。細やかに染められた羊毛で複雑な文様が表されており、その色彩表現の豊かさから正倉院伝来の花氈を代表する宝物だ。

北倉 花氈

 《天平宝物筆》は752年(天平勝宝4年)の東大寺大仏の開眼に用いられた特大の筆であり、1185年(文治元年)の再興時の開眼法要でも、後白河法皇が用いている。古代仏教を象徴する行事で使われた、歴史の証人といえる。

中倉 天平宝物筆

 《瑠璃杯》ははるか西方でつくられたガラス器で、シルクロードを経て東アジアにもたらされた。銀製の台脚は龍のような文様が表されており、東アジア圏において付け加えられたものとされている。当時のガラス器のなかでも、姿、技法ともに最高水準のものだ。

中倉 瑠璃杯

 《黄熟香》は、ジンチョウゲ科の樹木に樹脂が沈着してできた香木で、「蘭奢待(らんじゃたい)」の名でもよく知られている。切り取られた跡も多数あり、足利義政、織田信長、明治天皇が切り取った旨を示す紙箋が付属するなど、日本史とともに歩んだ香木でもある。

中倉 黄熟香

 《黒柿蘇芳染金銀山水絵箱》は、山水模様の献物箱。黒柿を赤い蘇芳という染料で染めることで生まれた赤みのある茶色地を持ち、各所に施された金銀泥による山々や雲を表現する筆裁きが目を引く。

中倉 黒柿蘇芳染金銀山水絵箱

 《桑木阮咸》は円形の胴を持つ、四絃の楽器で、その名勝は中国の「竹林の七賢」のひとりで琵琶の名手・阮咸に由来するとされる。背景には八弁の赤い花が、中央には松や竹の下で高士が囲碁を楽しむ様子が描かれている。

南倉 桑木阮咸

 時代を超えた正倉院の名宝が並ぶ機会に、いまから期待が集まる。