2026.8.6

川口市立美術館の開館記念展に蜷川実花。「はじまりの光」で創作の原点をたどる

2026年9月にグランドオープンする川口市立美術館で、開館記念特別展「蜷川実花展 はじまりの光」が開催される。会期は9月12日〜11月29日。約30年にわたるセルフポートレイトや両親のアルバムを複写した新作、父・蜷川幸雄の書斎などを通じて、その創作の源流に迫る。

蜷川実花《Self-image》(2013) ©mika ninagawa / bookshop M Co.,Ltd. / Courtesy of Tomio Koyama Gallery
前へ
次へ

 埼玉県川口市に新たに開館する川口市立美術館。その開館記念特別展として、「蜷川実花展 はじまりの光」が9月12日から開催される。

幼少期を過ごした場所での個展

 写真家、映画監督、現代美術家として幅広く活動してきた蜷川実花。近年はクリエイティブチーム「EiM(エイム)」とともに、大規模なインスタレーション作品を国内外で発表している。本展ではそうした近年の活動とは異なり、蜷川の創作の出発点である「写真」を軸に、映像や家族の記憶を織り交ぜながら、その表現の核心を掘り下げるものとなる。

 展覧会の舞台となる川口市は、蜷川の父で演出家の蜷川幸雄(1935〜2016)の出身地であり、蜷川実花自身も幼少期を過ごした場所だ。毎年12月に行われる川口の「おかめ市」(酉の市)は蜷川の現実と虚構が揺らぐような表現世界にも影響を与えた。雑踏、見世物小屋、鯉の血しぶき、飴玉の光、ピンク映画の看板といった幼少期の記憶が、その原点になっているという。

 展示は2つの章で構成される。第1章では、初公開となる新作を含む写真作品を紹介。中心となるのは、デビュー作でもあり、20代から現在まで約30年にわたって断続的に撮影されてきたモノクロのセルフポートレイト「Self-image」だ。怒りや不安、戸惑い、寂しさ、虚無といった感情を映し出す作品群がまとまって展示されるのは、今回が初となる。

 また、2014年に父・蜷川幸雄が倒れてから亡くなるまでの約1年半を記録したシリーズ「うつくしい日々」も出品。蜷川が「逝く人の目で撮った写真」と表現する同作は、死と向き合う日々のなかで見出された風景や、光に満ちた日常の瞬間をとらえたものだ。

蜷川実花《The days were beautiful》(2017) ©mika ninagawa / bookshop M Co.,Ltd. / Courtesy of Tomio Koyama Gallery

新シリーズ「First Light」を初公開

 第2章では、蜷川の表現世界に大きな影響を与えた家族との記憶に焦点を当てる。若き日の両親が写るアルバムを蜷川自身が再撮影した新シリーズ「First Light」を初公開。過去の写真に娘としての視線を重ねることで、写真に記録された家族の記憶を現在へと呼び戻す。

蜷川実花「First Light」(2026) ©mika ninagawa / bookshop M Co.,Ltd. / Courtesy of Tomio Koyama Gallery

 さらに、膨大な書籍や美術資料で埋め尽くされた蜷川幸雄の書斎を移設展示するほか、母で元俳優、キルト作家の蜷川宏子による作品も紹介される。蜷川実花が幼少期に遊び場としていた書斎は、父が演出する舞台の世界が家庭の内部へと入り込み、現実と虚構が交錯する空間でもあった。蜷川幸雄の没後10年となる現在、その気配を伝える場所が川口に再現される。

書斎 ©ニナガワカンパニー

 川口市立美術館は、JR川口駅西口から徒歩約2分、川口総合文化センター・リリアに隣接して開館する新たな文化拠点。「継承」「共生」「育成」を理念に掲げ、展示室のほか、ライブラリーやミュージアムショップ、レストランを備えた「公園のような美術館」を目指すという。

 大規模な空間演出ではなく、一瞬の光を切り取る写真と、これまで積極的には明かされてこなかった個人的な記憶から蜷川の表現を見つめ直す本展。感性の原点となった川口の地で、作家の「はじまり」に迫る展覧会となる。