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2024.10.9

「チームラボ 幽谷隠田跡」レポート。自然と人の営みが融合するデジタルネイチャーに注目

茨城・五浦に、チームラボによる夜の森のミュージアム「チームラボ 幽谷隠田跡」がオープンした。グランピング施設が併設されたこのアート空間をレポートする。

文=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部) 画像提供=チームラボ

チームラボ《隠田跡》©チームラボ
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 茨城・五浦(いづら)に、チームラボによる「夜の森のミュージアム」として「チームラボ 幽谷隠田跡(ゆうこくおんでんあと)」がオープンした。

 これは、茨城に拠点を構える株式会社創輝が運営するグランピング施設と併設されるもので、岡倉天心が晩年居をかまえた五浦の深い森の先にある谷で展開されている。チームラボは、ミュージアム開設にあたってこの森の植生を調査しており、そのうえで谷にある棚田跡を覆う森全体を植物と一体となった作品空間として生まれ変わらせた。

 施設のオープンに際し、チームラボ代表の猪子寿之、創輝代表の酒井喜則はそれぞれ次のようにコメントしている。

 「当初は人が入ることすら困難な森だったが、その奥には棚田跡の湿地帯があり、まるで秘密の場所のようであった。この地における人の営みの連続に思いを馳せながら作品をつくることを心がけた」(猪子)。「当社は故きを温ね新しきを知るをテーマとしており、この施設は大自然のなかの生態系をそのまま活かしながらチームラボの作品と有機的に混じりあう空間とした。将来的にはここの施設の電力をまかなう発電所もつくれたらと考えている」(酒井)。

 さっそく森のなかに足を踏み入れ、作品を見ていこう。入口から約45〜60分ほどかけて森を抜け棚田跡に向かうのだが、そのあいだにいくつもの作品が展開されている。一部ピックアップして紹介したい。

 例えば、一番最初に体験することができる《具象と抽象》では、森の木々のなかにグリッドが現れる。ここに人が入っていくことで線が集合し、森のレイヤー感が際立つ空間に。雑多な木々による具象の森とグリッドで仕切られた抽象の森が交互に広がる作品だ。

チームラボ《具象と抽象》©チームラボ

 《海が立ち上がる時花が咲く - 五浦の海 》は、五浦の海岸で発生する波の満ち引きにあわせて花が咲くような演出が生み出される作品。季節や天気によって大きく変わる波の表情が夜でも楽しめるだろう。

チームラボ《海が立ち上がる時花が咲く - 五浦の海 》©チームラボ

 この森でも一番大きいとされるタブノキには淡い光を放つ球体が設置。森は木と木が菌根菌のネットワークでつながりあい、互いを認識し、栄養を送りあっている、といった研究をもとに、鑑賞者からもっとも近い球体が人に反応し、作品全体と呼応する仕掛けとなっている。まるで木や森が生きているかのように穏やかに明滅するのが特徴だ。

チームラボ《タブノキに宿る呼応する宇宙》©チームラボ

 人や森の動物の動きを感知して光や音を生み出す《幽谷の呼応する森》。一面の緑に包まれる普段の山歩きももちろん面白いが、移り変わる色や響く音によって、より森のなかの生命に着目することができるだろう。

チームラボ《幽谷の呼応する森》©チームラボ

 森を抜けるとこのミュージアムのメインでもある《隠田跡》が一面に広がっている。森の谷に突如として現れる棚田。ここでかつて人の営みがどのように行われていたかなどについて思いを馳せながら作品を鑑賞していただきたい。

 ちなみに、これらの作品には山歩きに適したスニーカーや、虫除けのための上下長袖が必須だろう。足元も暗いので作品に気を取られて転ばないようにだけ注意したいところだ。

チームラボ《隠田跡》©チームラボ
チームラボ《隠田跡の水鏡の道》©チームラボ。こちらの作品のみ足元が濡れるため、汚れてもいい靴や長靴の着用をおすすめしたい

 また、同グランピング施設のコテージ内にも特別な部屋が設置されており、こちらはチームラボアーキテクツが担当。この特別な部屋はまるで万華鏡のような小宇宙を織りなす空間となっており、昼間は太陽光で輝く緑の森の木々が、そして夜になるとチームラボの作品となった華やかな森が無限に広がりを見せるという。ほかにも同施設内にある源泉掛け流しの混浴温泉にもチームラボの作品が登場。《隠田跡》の横に設置されているため、作品を楽しみながらの入浴も可能だ。

コテージ「五浦 幽谷隠田跡温泉 源泉掛け流し&グランピング」茨城,五浦 ©株式会社創輝
天地無分別「五浦幽谷隠田跡温泉源泉掛け流し&グランピング」茨城,五浦 ©︎チームラボ
温泉「五浦幽谷隠田跡温泉源泉掛け流し&グランピング」茨城,五浦 ©︎株式会社創輝

 なお、このグランピング施設の周辺施設には岡倉天心が晩年を過ごすために建てられた岡倉天心旧居・庭園や六角堂を有する茨城大学五浦美術文化研究所や、岡倉や横山大観をはじめとする五浦の作家たちを主に取り上げる茨城県天心記念五浦美術館も点在している。自然とアートの両方を取り入れたアウトドアな旅にもぜひチャレンジしてみてほしい。

茨城大学五浦美術文化研究所 岡倉天心旧居 撮影=編集部
茨城大学五浦美術文化研究所 六角堂 撮影=編集部
茨城県天心記念五浦美術館 外観 撮影=編集部