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2024.12.21

「雨宮庸介展|まだ溶けてないほうのワタリウム美術館」開幕レポート

雨宮庸介の東京初となる美術館個展が、ワタリウム美術館で開幕した。25年にわたる彼のアートの歩みをたどる本展では、1999年の初期作品から最新のVR作品まで多彩な作品が展示され、現実と非現実、過去と未来が交錯する新たな視点を提示している。

文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より
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 東京・外苑前のワタリウム美術館で、アーティスト・雨宮庸介の東京の美術館での初個展「雨宮庸介展|まだ溶けてないほうのワタリウム美術館」が始まった。会期は2025年3月30日まで。

 本展は、雨宮の25年にわたるアートの歩みを振り返り、同時に新たな実験的な作品を提示するもの。1999年の初期作品から近年弘前や石巻で発表した作品、そして最新のVR作品までの幅広い作品が展示され、その創作活動の集大成が紹介されている。

 展覧会は、2階に展示される《ロッカーの入り口》から始まる。この作品は、2007年から2010年にかけて多くの展示で使用されたインスタレーションで、狭い扉を通ると、鑑賞者は自分がロッカーから出てきたことに気づく。その経験を通じ、日常感と非日常的な感覚が同時に生まれる。

《ロッカーの入り口》
《ロッカーの入り口》

 2階の展示室の中央には、《長テーブルと林檎が描かれたドローイング》が展示。このテーブルは、2021年に弘前れんが倉庫美術館で行われた展覧会「りんご宇宙 — Apple Cycle / Cosmic Seed」の際に展示した作品が原型となっている。その作品は、雨宮が過去に参加したほぼすべての展覧会の準備のために制作した約2万枚のドローイングのなかから、林檎が描かれた約360枚を選び、そのうちの100枚をライトボックスで照らし出す形式で展示された。本展では、ワタリウム美術館の会場に合わせた小さいサイズのテーブルに、雨宮の代表作シリーズ「溶けた林檎」の彫刻が並んでいる。

《長テーブルと林檎が描かれたドローイング》の展示風景より
《長テーブルと林檎が描かれたドローイング》の展示風景より

 3階では、雨宮が本展のために制作したVR作品《VR まだ溶けてないほうのワタリウム美術館》が展示。同作は撮影から編集まですべて同館で行われ、本展開幕の数分前までに制作が続いていたという。鑑賞者はVRヘッドマウントディスプレイ(HMD)を着用し、現実と非現実、そして過去と現在が交錯する瞬間を体験することができる。

 雨宮によれば、VRという技術は、もともと「ここではないどこか」に人を転送することを意図して開発されたが、本展であえてそれを「どこかではないここ」に再注目させることで、現実そのものを見つめ直そうと試みているという。

《アーカイヴ部屋そのもの》の展示風景より
《アーカイヴ部屋そのもの》の展示風景より

 4階に展示される《アーカイヴ部屋そのもの》は、本展の背後にあるビューイング・ストレージを指し、展示全体における手がかりとして機能している。ここでは、初期の絵画や彫刻作品、過去の展覧会のために制作した原稿などが展示されており、鑑賞者はこの「部屋」を通じて、雨宮の作品の背後にある思想やプロセスに触れることができる。

 最後の展示室では、東日本大震災から10年後に制作されたヴィデオ・インスタレーションで、2021年のReborn-Art Festivalで発表された《石巻 13分》の記録映像が紹介されている。石巻市日和山公園内にある旧レストランのスペースに展示されたこの作品は、プログラミングに従って様々なスクリーンやオブジェクトにテキストが徐々にスクロール表示され、また、作家が当時居住していたベルリンで撮影された映像も流れた。作品の終わりには、部屋のブラインドがゆっくりと上がり、日和山公園と遠くの桟橋の景色が徐々に現れた。

《石巻 13分》の記録映像の展示風景より

 展覧会を見たあと、雨宮がVR作品で語った「ワタリウム美術館という場所は、先人たちから未来へのポジティブな『墓標』」という言葉が印象に残った。「墓標」の意味について雨宮に聞くと、彼はそれを、物理的な死後の記録だけでなく、アートにおける永続的な影響を象徴するものだと考えていると答えた。また、「墓標」は自身の亡き母への想いを反映しており、過去の偉大な芸術家を弔い、その影響を後世につなげていく美術館の本質をも象徴しているという。

 なお、会期中毎週土曜日の17時から雨宮による「人生最終作のための公開練習」というパフォーマンスが行われ、2025年1月11日の土曜日23時から翌日の5時までには、約1年前に同館で個展を開催したアーティスト・梅田哲也と雨宮のトークイベントも予定されている。見るたびに新たな発見がある雨宮の作品。この機会にぜひ、実際にワタリウム美術館へ足を運び、その独自の世界観を体感してほしい。

展示風景より
展示風景より