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2025.1.28

「西條茜展 ダブル・タッチ」(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)開幕レポート

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で、第1回「MIMOCA EYE / ミモカアイ」大賞を受賞した美術家/陶芸家・西條茜の個展「ダブル・タッチ」が始まった。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、西條茜《The Melting laborers #4》(2025)
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 注目作家の美術館初個展が、香川県丸亀市の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)で始まった。「『第1回MIMOCA EYE / ミモカアイ』大賞受賞記念 西條茜展 ダブル・タッチ」(〜3月30日)だ。

 「MIMOCA EYE / ミモカアイ」とは、2022年に同館が新たに設立した、未来を切り拓く若手作家の育成を目的とする公募展。MIMOCA設立に寄与した猪熊弦一郎が掲げた「若い作家を育てる」という理念を引き継ぐこの賞は35歳以下の作家を対象としており、これまで美術館での個展経験のない作家が選出。大賞受賞者には同館での個展開催の機会が与えられ、次世代のアーティストが才能を発揮する場を提供する。

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

 その第1回に輝いたのが西條茜だ。西條は1989年生まれ。京都市立芸術大学で陶磁器を学び、近年は陶磁器の特徴である空洞や表面の質感を活かし、身体と物質の関わりを探る作品を発表してきた。また世界各地の窯元に滞在し、地元の伝説や歴史を取り入れた作品も制作するなど、幅広い視野と実験的なアプローチで注目を集めている。今年は国際芸術祭「あいち2025」への参加も決定しており、いまもっとも注目すべきアーティストのひとりと言える。

 受賞から2年の歳月を経て、待望の開幕を迎えた本展は、すべて新作で構成された。

 タイトルにある「ダブル・タッチ」とは発達心理学の用語。人は母体の中にいるとき、自らの手を重ねることで、自身が形ある存在だと認識するという。その際に働く「自分が触れている感覚」と「自分に触れられている感覚」を認識することがダブル・タッチ(二重感覚)だ。

 西條はこの言葉をタイトルに選んだ理由として、「自分がいまやっていることに当てはまる」と語る。この原初的な感覚を軸に、赤ん坊が水で清められるような《静寂に驚き目が覚める》から展示が始まり、人生の歩みのように作品が点在する。

展示風景より、中央が《静寂に驚き目が覚める》(2025
展示風景より

 西條の陶作品は、内臓や人体を想起させる形状を持つ。それらには複数の穴が設けられ、他者が内部に息を吹き込むことで、独特の音を発するパフォーマンス作品としても成立する。こうした作品は本展でも見られるが、さらに今回は、パフォーマンスに「運搬」という要素を加えるための作品群《The Melting Laborers》も発表された。

 パフォーマーが窪みや穴に身体を埋め、ゆっくり押すことで会場に「動き」を与えるこれらの作品。しかしそれは動いていないときでさえ、静かに身体を待っているかのように見える。

展示風景より、手前は《Waiting Man》(2025)
展示風景より、《The Melting Laborers #1-4》(すべて2025)

 今回はガラスの作品も初めて発表された。吹きガラスによって生み出された有機的な造形。手を使わず、自らの呼吸という行為によって形が決まるこれらの作品は、パフォーマンスに「息」を取り入れてきた西條にとって地続きでありながら、新たな表現のかたちであり、新たな可能性を持つものだ。

展示風景より

 なお、本展会期中の特定の日程では、パフォーマンスの実演も予定されている。ぜひその場で息や身体を介したコミュニケーションを体験し、「身体が交差する空間」を目撃してほしい。

展示風景より、《The Golems》(2025)