2025.6.21

UESHIMA MUSEUMで新たなコレクション展。「創造的な出会いのためのテーマ別展示」に見るタレル、リヒター、オトニエル

東京・渋谷の渋谷教育学園内にあるUESHIMA MUSEUM で、コレクション展「創造的な出会いのためのテーマ別展示」がスタートした。その見どころとは?

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より
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 事業家・投資家として多彩な顔を持つ植島幹九郎が2022年2月に設立した現代美術コレクション「UESHIMA COLLECTION」を紹介する私設美術館として、24年に開館したUESHIMA MUSEUM。オープンするや、屈指の現代美術コレクション展示で話題を集めた同館で、新たなコレクション展がスタートした。

 「創造的な出会いのためのテーマ別展示」と題された今回のコレクション展。キュレーションは、今年金沢21世紀美術館館長を退任した長谷川祐子(京都大学経営管理大学院客員教授)が担い、2階の長期インスタレーションを除き、コレクション展示の大部分が刷新された。

B1階「宇宙と重力」

 B1階展示室のテーマは「宇宙と重力」。土や生の素材を用いて、物質が神聖な存在へと変容する瞬間を「ギャラクシー」と名づけたボスコ・ソデイの絵画が象徴的に左右の壁面を埋め、周囲には皆既日食の記録写真をもとに描かれたマーク・クインの「Anthropocene」シリーズから、ゲーム内に仮想的につくられたものを絵画で表現した多田圭佑による 「trace」シリーズまでが並ぶ。

展示風景より、左がシアスター・ゲイツ《Creamy Rich Sky, Asphalt Horizon Roll》(2014)
展示風景より、中央はボスコ・ソディ《untitled》(2015)

1階都市とポップ」

 1階は「都市とポップ」だ。これまで閉じられていた展示室の窓はオープンにされ、渋谷の街が見える空間に変貌。トーマス・シュトゥルートの写真作品が、渋谷の街と接続するようなかたちで展示された。

展示風景より、中央は常設展示のタジマミカ《You Be My Body For Me(Unit 3)》(2020)

 また渋谷の若者たちの関心を惹きつけるようなバンクシーの作品、アンディ・ウォーホルの《Campbell’s Soup I: Tomato》(1968)、奈良美智が浮世絵を引用した作品《In the Floating World》(1999)、あるいは葛飾北斎の浮世絵を挟むように展示。著名なアーティストたちの作品を凝縮させることによって、鑑賞者を植島コレクションの世界へと引き込んでいく。

展示風景より、奈良美智の作品群

2階

 2階は従来通り、アーティストごとの小部屋から構成される。その中心スペースが展示替えされ、ゲルハルト・リヒターの作品群が並ぶ。絵画、フォトペインティング、プリントなど多様なメディウムのリヒター作品を一挙に見ることができる機会だ。

 また今回から、ジェームズ・タレルの《Boris》を展示する常設展示室が加わった。小さな部屋の中で椅子に座り、刻々と変わる光の色と向き合う内省的な空間だ。

展示風景より、左からゲルハルト・リヒター《Abstraktes Bild(P1)》(1990/2014)、《Kanarische Landschaften I》(1971)
展示風景より、奥がゲルハルト・リヒター《Cage 1(P19-1)》(2006/2020)

3階「幾何と内省のコンポジションー常温の抽象」

 3階は「幾何と内省のコンポジションー常温の抽象」。カプワニ・キワンガとアグネス・マーティンを中心に、山田康平、アンセルム・ライルらの幾何学的な抽象絵画が並ぶ。

 またタイトルにある「常温」とも関連するのが、スプツニ子!による映像作品《幸せの四葉のクローバーを探すドローン》(2023)だろう。同作は、ドローンが撮影した映像を自動的に解析して四葉のクローバーを見つけ出すというもの。本来は見つけるものの感情を揺さぶる四葉のクローバーが、極めて冷静な対象として提示される。

展示風景より、左からハロルド・アンカート《Untitled》(2012)、カプワニ・キワンガ《Estuary》(2023)、アグネス・マーティン《Untitled》(1995)、アンセルム・ライル《Untitled》(2005)
展示風景より、左がスプツニ子!《幸せの四葉のクローバーを探すドローン》(2023)

4階「ナラティヴと色彩のアウラ」

 4階は「ナラティヴと色彩のアウラ」。アフリカを含む多様な国籍のアーティストたちによる、個々の生や歴史のナラテイヴが展開される。

 各作品は非常に重厚だが、いっぽうその見せ方は軽やかだ。ロベルト・パレやモーゼス・サイボーア、ワハブ・サヒードらの作品の間に、色彩的に関連づけるように油野愛子ベルナール・フリズの抽象作品を挿入することで、絵画に対する向き合い方を問いかける構成だ。

展示風景より、左からロベルト・パレ《Madonna of Chancellor Rolin》(2022)、油野愛子《CAMELLIA(Narrative)》(2022)、モーゼス・サイボーア《Fountain od Brotherfood(1)》(2021)、ベルナール・フリズ《Kova》(2022)、ワハブ・サヒード《Untitled》(2022)
展示風景より、中央は加藤泉の作品群

5階「物質と感情のエンタングルメント」

 5階は「物質と感情のエンタングルメント」。愛と欲望、リビドーと記憶、それらをめぐる複雑な情動が、物質とイメージの絡まり(エンタングルメント)として表現される。中心となるジャン=ミシェル・オトニエルによる赤いガラス作品《Oracle》(2022)が官能的な輝きを放つ。またその色彩と呼応するようにマーク・クインの絵画と立体が展示。

 いっぽうの小部屋では、水戸部七絵によるオノ・ヨーコとジョン・レノンの愛の肖像やニコラ・ビュフの大作《ポーリア(カルトゥーシュ)》(2014-16)などが並び、一義的ではない「愛」のかたちを提示している。

展示風景より、ジャン=ミシェル・オトニエル《Oracle》(2022)
展示風景より、左から水戸部七絵《remember love》(2022)、ニコラ・ビュフ《ポーリア(カルトゥーシュ)》(2014-16)、水戸部七絵《Just one kiss, kiss will do?》(2022)

 個人コレクションのキュレーションは今回が初めてだという長谷川は、本展をこう振り返っている。「植島氏のコレクションは、定められたルートというよりいまに生きる感性が生かされている。それを一度レビューする機会が重要だと感じた。6階層のフロアごとにテーマを設定し、どういう文脈で作品を見せるかを整理した。若い作家を支援したいという植島氏の考えを反映したものになっている」。