「永青文庫 近代日本画の粋―あの猫が帰ってくる!―」(永青文庫)レポート。近代日本を代表する画家の作品とともに“看板猫”と再会
永青文庫の人気者、菱田春草の《黒き猫》が、修理を終えて久しぶりに公開されている。同館所蔵の近代日本画の優品とともに改めて彼らを支えた細川護立との交流の姿を偲ぶ。会期は11月30日まで。

永青文庫のコレクションのなかでも圧倒的な人気を誇る《黒き猫》(重要文化財)が絶賛公開中だ。修理を終えてさらに美しくなった本作とあわせ、同館所蔵の菱田春草の全点が前後期で公開されるほか、横山大観、下村観山ら近代日本画壇を牽引した画家たちの優品に、彼らを見出し、支え、愛し続けた細川護立(もりたつ)の“眼”と“想い”をたどる。
より美しくなった《黒き猫》と再会
永青文庫の“貌”であり、菱田春草の代表作のひとつである《黒き猫》。柏の幹にうずくまり、こちらをじっと見つめるすがたには、猫好きでなくとも魅せられるだろう。ビロードのような滑らかさとふわふわとした柔らかさを感じさせる毛並みは、線を使わず墨のぼかしのみで表され、白い輪郭線を添えられた足先と耳が、金泥で描かれた目とともに猫の緊張感を伝える。見ているとピクリと耳が動きそうにも。見事な猫の写実に対し、濃淡の墨の文様のような幹に、金泥と緑青の平面的な葉の柏が装飾性をもたらし、その対照が調和した静謐な作品は、明治43年(1910)の文展発表時から高く評価され、現在の人気に至っている。
そもそも春草は文展には別の屏風作品を予定していたが、思うようにいかず中断、代わりにわずか5、6日で描き上げたのが《黒き猫》だ。彼は36年の短い生涯のなかで判っているかぎり21点もの猫図を描いているが、自身はその媚びゆえに猫はあまり好んでいなかったという。絵のモティーフとしては魅力だったのだろう、柏の華やかな装飾性に負けない猫の存在感はその制作日数とともに春草の画力を伝える


重要文化財にも指定されている本作が、このたび初めて本格的な修理を終えてお披露目となった。制作から100年以上、大切にされてきて深刻な損傷はないものの、本紙に生じ始めたシミ、裏面の汚れや浮き、掛け軸全体の波打ちなどを解消し、より安定した状態で後世へ伝えるための修理は、クラウドファンディングに国・東京都・文京区からの補助を受け、まさに官民一体の支援で実現した。これを記念して、修理のポイントも添えて11月3日までの期間限定公開となる。後期に展示されるもうひとつの彼の代表作《落葉》(重要文化財)をあわせ、同館が所蔵する春草作品4点が前後期で出揃い、彼とともに近代日本画壇を賑わせ、またそれらを引き継いだ画家たちの優品が彩る寿ぎの空間は同時に、永青文庫を設立した護立との交流の軌跡ともなる。

