2025.12.6

「国宝 熊野御幸記と藤原定家の書 ―茶道具・かるた・歌仙絵とともに―」(三井記念美術館)開幕レポート。いま改めて知りたい藤原定家の仕事

日本橋の三井記念美術館で、同館所蔵の藤原定家の書を中心に、その影響を受けた茶道具や歌仙絵などを紹介する「国宝 熊野御幸記と藤原定家の書 ―茶道具・かるた・歌仙絵とともに―」が開幕した。会期は2026年2月1日まで。

展示風景より、《三十六歌仙扇形かるた》(18〜19世紀、江戸時代)
前へ
次へ

 東京・日本橋の三井記念美術館で「国宝 熊野御幸記と藤原定家の書 ―茶道具・かるた・歌仙絵とともに―」が開幕した。会期は2026年2月1日まで。

 藤原定家は鎌倉時代に活躍した歌人で、よく知られているように「小倉百人一首」の撰者だ。三井記念美術館は定家の筆による書を多く所蔵しており、国宝に指定されている後鳥羽上皇の熊野参詣に随行した際の自筆記録《熊野御幸記》(1201、建仁元年)のほか小倉色紙、歌切などが揃う。また、定家の書を好んだ茶道具の銘を和歌から取り、小色紙や箱書を定家様で書いた小堀遠州(1579~1647)ゆかりの茶道具も紹介している。

展示風景より

 まずは茶人たちが好んだ、茶の湯で使われる定家様式の品々を紹介。とくに遠州は、定家の書を好み、瀬戸茶入などに和歌から銘を付け、箱書や小色紙に定家様で和歌をしたためた。会場には遠州の筆による色紙、遠州が箱書をした名物の茶入、和歌を直書した茶杓などが並び、いかに茶人が定家の美意識を茶の席で表現しようとしたのかが見て取れる。また、定家の筆による小倉色紙《うかりける…》(13世紀、鎌倉時代)も貴重な品といえるだろう。

展示風景より、伝小堀遠州所持の茶器など
展示風景より、藤原定家筆の小倉色紙《うかりける…》(13世紀、鎌倉時代)

 本展の白眉である国宝《熊野御幸記》は、平安時代後期から鎌倉時代前期の院政100年間には毎年のように行われた上皇・法皇による熊野参詣「熊野御幸」の定家による記録だ。病弱な自身の体調を心配する様子など、行程における生々しい心情が伝わってくる。

展示風景より、藤原定家筆《熊野御幸記》(1201、建仁元年)

 《大嘗会巻》(12〜13世紀、鎌倉時代)は天皇が即位後初めて行う新嘗祭「大嘗会」の三条天皇即位時の記録を、定家が筆写したもの。定家自身が悪筆と述べているように、独特のくずし字や略字が多様されているが、研究によって明らかになった要約から、当時の祭礼の様子をうかがい知ることが可能だ。

展示風景より、藤原定家筆《大嘗会巻》(12〜13世紀、鎌倉時代)

 定家の筆、または定家の筆と伝わる筆跡の断簡「古筆切」の数々は、重要文化財に指定されているものも多い。なかでも古筆手鑑「たかまつ」は定家最晩年の筆とされ、一字ずつ丁寧に書かれたその筆跡は、熟練した優しさが宿る。

展示風景より、藤原定家筆《古筆手鑑「筆林」》(13世紀、鎌倉時代)

 また、本展では百人一首や歌仙を題材にした「かるた」も見どころとなっている。山口素絢が絵を、鈴木内匠が文字を担当した《百人一首かるた》(18〜19世紀、江戸時代)は絵札と文字札をすべて展示。また、団扇形が珍しい《三十六歌仙扇形かるた》(18〜19世紀、江戸時代)にも注目だ。

展示風景より、《百人一首かるた》(18〜19世紀、江戸時代)
展示風景より、《三十六歌仙扇形かるた》(18〜19世紀、江戸時代)

 さらに銘品として知られる土佐光起筆《女房三十六歌仙帖》(17世紀、江戸時代)のほか、新古今和歌集の新六歌仙を描いた住吉広純(具慶)筆の《六歌仙帖》(17〜18世紀、江戸時代)や伝鷹司兼熈筆《三十六歌仙帖》(17〜18世紀)といった初公開の歌仙帖にも注目したい。

展示風景より、土佐光起筆《女房三十六歌仙帖》(17世紀、江戸時代)
展示風景より、住吉広純(具慶)筆《六歌仙帖》(17〜18世紀、江戸時代)

 正月遊びとしても親しまれてきた「かるた」だが、その成立は定家の編纂した小倉百人一首を抜きにしては語れない。年をまたいで開催される本展で、定家の仕事と歌仙集のおもしろさに改めて触れてみてはいかがだろうか。

※展示風景はすべて主催許可を得て撮影