野村在「どうしようもなくかけがえのない」

　faro WORKPLACE（FARO中目黒1階）で、野村在による個展「どうしようもなくかけがえのない」が開催されている。

　野村は「存在」と「記憶」の関係を主題に制作を続けてきた。写真、彫刻、改造した機械など、多様なメディアを駆使しながら、存在と消失、そしてそれに伴う記憶の在り方を探求している。

　その制作姿勢には、日常のなかに静かに潜む「この瞬間に在るもの」や「消えた（はずの）何か」に光をあて、それらの痕跡を別のかたちで作品として残そうとする意図がある。そうした制作行為を通じて、記憶のなかで存在はいかにとどまり、変化し続けるのかを問いかけてきた。

　例えば、人物が写った写真のイメージを水に溶かすように解き放ったり、人間の存在をDNAデータとして紙に転写したりするなど、物質を新たな形に昇華させながら、気配や時間の揺らぎを可視化する手法は、野村の作品における特徴のひとつだ。

　また、野村は、現代のメディア技術の進化が「存在」の意味に及ぼす影響にも関心を寄せている。デジタル化や情報の記録・保存が高度に進むなかで、人々は物理的な実体だけでなく、データやAIといった新たな「存在」とも向きあうようになった。そうした現代的な視点を取り入れながら、野村の作品は鑑賞者の内面と共鳴し、「変化すること」と「普遍であること」のあわい、そして「いま、ここに生きていること」の意味へと静かに気づきを促す。

　今回展示される新作は、以前から少しずつ取り組んできた「音と存在」にフォーカスをあてている。これまで幾度となく作品制作をともにしてきた技術者たちと、録音と再生、そして音の物質化という機能をあわせ持つ特別な蓄音機が制作された。ギャラリー空間では、その機械を使ったパフォーマンスも行われる。

　また、FARO神楽坂・WINDOW GALLERYでは、展覧会「Untitled −君の存在は消えない、だから大丈夫」が同時開催している。